第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節2

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (運動器)

座長:中村裕樹(医療法人慈圭会八反丸病院診療部)

運動器 ポスター

[0084] 変形性股関節症患者における腹横筋厚変化率と骨盤傾斜角度・股関節形態との関連性の検討

堀弘明, 堀享一, 由利真, 千葉健, 小島尚子 (北海道大学病院)

キーワード:変形性股関節症, 腹横筋, 骨盤傾斜角

【はじめに,目的】
我々は第48回日本理学療法学術大会において,変形性股関節症患者は安静時腹横筋厚に対する腹部引き込み運動時の腹横筋厚の変化率(以下腹横筋厚変化率)が健常人より低値になることから腹横筋の筋活動は低下していると報告した。その原因として先行研究から股関節の変形や骨盤アライメントが腹横筋厚変化率に影響を与えると推測した。そこで,本研究の目的は,前額面の骨盤レントゲン画像から骨盤傾斜角度と股関節形態を定量的に評価し,腹横筋厚変化率との関連性を明らかにすることとした。
【方法】
対象者は,北海道大学病院に片側変形性股関節症の診断を受け手術目的に入院し,術前理学療法を実施した患者を変形性股関節症群(21名。男4名・女17名:65.3±11.4歳)とした。除外基準は,既往歴に整形外科的疾患がある者,対側股関節に手術を施行している者,腹部に手術歴がある者とした。また,変形性股関節症群の年齢に合わせ身体に整形疾患等の既往歴のない者を健常者群(20名。男2名・女18名:64.4±3.1歳)とした。測定項目は腹横筋厚,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率とし,測定実施日は術前理学療法開始1日目に実施した。
腹横筋厚の測定肢位は膝を立てた背臥位姿勢とし,超音波診断装置はVenue 40 Musculoskeletal(GEヘルスケア・ジャパン)を使用し,画像表示モードはBモード,8MHzのプローブで撮影を行った。腹横筋の測定部位は,Urquhartらのワイヤー筋電図の測定部位を参考にし,患側中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部で腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の境界を描出した。測定時の運動課題は,安静呼気終末時の腹横筋厚を安静時腹横筋厚とし,分離収縮においては腹部引き込み運動時の腹横筋厚とした。
また,当院整形外科の処方により入院時に撮影した背臥位における前額面の骨盤レントゲン画像を用い,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率を測定した。骨盤傾斜角度は両側仙腸関節下縁を結ぶ線に平行な小骨盤腔の最大の横径と,両側仙腸関節下縁を結ぶ線に対して恥骨結合上縁から下ろした垂線の縦径を計測し,それらを男性=-67×縦径/横径+55.7,女性=-69×縦径/横径+61.6に代入し求める土井口らの方法で算出した。骨頭外方化指数は,涙痕像先端から骨頭内側縁までの距離を恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍して算出し,骨頭上方化指数は,骨頭最上端から涙痕像先端を結ぶ線への垂線の長さを恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍する二ノ宮らの方法でそれぞれ算出した。大腿骨頭被覆率は,大腿骨頭内側端から臼蓋縁外側端までの距離を大腿骨頭横径で割り100倍するHeymanらの方法で算出した。
変形性股関節症群と健常者群の腹横筋厚変化率についてはMann-Whitney U検定を用い,腹横筋厚変化率と骨盤傾斜角度,骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率についてはSpearmanの順位相関係数を用い統計学的処理は5%未満を有意水準として実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿い,北海道大学病院の自主研究検査機関の承認を受け,十分な説明を受けた後,被験者本人の自由意思による文書同意を得てから計測を行った。
【結果】
変形性股関節症群と健常者群の腹横筋厚変化率の比較では,変形性股関節症群30.6±20.7%,健常者群100.3±60.5%となり2群間で有意差(p<0.01)が認められた。
変形性股関節症群の腹横筋厚変化率と骨盤傾斜角度18.4±4.4度(r=0.501。p<0.05),骨頭外方化指数30.0±10.8(r=-0.519。p<0.05),大腿骨頭被覆率66.5±11.4%(r=0.569。p<0.01)において中等度の相関が認められた。
【考察】
本研究において変形性股関節症患者は腹横筋厚変化率が低値であり,骨盤傾斜角度,骨頭外方化指数,大腿骨頭被覆率と関連することが示唆された。先行研究では,正常人の骨盤傾斜角度は平均22.4度と報告されており,本研究結果から腹横筋の筋活動が低下している変形性股関節症患者ほど骨盤前傾により骨頭被覆率に関連しているものと考えられた。その要因として,hip-spine syndromeの機序で腹横筋は収縮困難な状態を生じたと考える。今後の課題として,腹横筋に着目した訓練が運動機能改善に有効であるかの検討や姿勢変化による腹横筋筋厚変化について検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果により,変形性股関節症患者の腹横筋は筋活動が低下していることが示唆された。その原因として骨盤アライメントや股関節形態に関連していると考えられ,変形性股関節症患者の身体機能向上に対し効果的な理学療法を立案する際の一助となると考えられる。