[0091] 重症脳血管疾患患者に対する積極的理学療法の効果
キーワード:重症患者, 胸腰椎支柱付両長下肢装具, 廃用症候群
【はじめに,目的】
回復期リハビリテーション(以下:リハ)病棟において2008年に質の評価が導入,2010年,2012年に改定され,より多くの重症脳血管疾患患者(以下:重症患者)の受け入れ及び改善が各医療機関に求められている。脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中患者に対して十分なリスク管理を行った上で起立・歩行などの下肢の運動を増やすことが推奨されており,装具の使用も重要な治療法であるとされている。当院では,重症患者に対しても全身状態を確認した上で機能回復を目的とするだけでなく,廃用予防・改善を目的として装具を作成し積極的な理学療法(起立・歩行練習等)を行っている。患者の状態[入院時Japan Coma Scale(以下:JCS)2桁~3桁でFunctional Independence Measure(以下:FIM)18点,Brunnstrom Recovery Stage(以下:BRS)下肢I,両下肢障害を有している等]によっては胸腰椎支持部付両長下肢装具(以下:体幹付長下肢装具)を作成する場合もある。質が評価される現在において,重症患者に対するリハはより重要となってきているが,上記のような重症患者に対して廃用予防・改善を視野に入れ,体幹付長下肢装具を使用した積極的な理学療法を行った報告は見当たらない。そこで今回は重症患者に対する積極的な理学療法の効果を明らかにすることを目的に,当院に入院された3症例についてその経過を報告する。
【方法】
カルテを基に後方視的に検討した。
(症例1)70歳代,男性,病名:脳出血,発症から入院までの日数:57日,入院時FIM18点,経管栄養管理
(症例2)20歳代,男性,病名:低酸素脳症,発症から入院までの日数:34日,入院時FIM18点,気管切開あり,経管栄養管理
(症例3)60歳代,女性,病名:脳出血,発症から入院までの日数:44日,入院時FIM18点,気管切開あり,経管栄養管理
各症例に対し全身状態の確認を行いながら積極的理学療法(装具を用いた起立・歩行など)を実施した。リハ中止基準は日本リハ学会の基準を採用した。リハ以外にも適宜,看護師とも連携し病棟での座位練習,ベッド上及び車いす座位でのポジショニング,体交を実施した。
評価指標に関しては,JCS,バイタルサイン(体温・血圧),BRS(下肢),FIM,栄養摂取方法,合併症の発生の有無及び治癒に要した日数,座位時間とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者(意思疎通困難な場合には代理人)に書面および口頭にて研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
3症例とも全入院期間で安全にリハを実施できた。理学・作業・言語聴覚療法合わせて毎日平均6-7単位実施した。3症例ともほぼ毎日1回以上,装具を使用した歩行もしくは起立のリハ(平均歩行時間30-40分,距離200-300m程度)を継続した。
(症例1)[入院時/退院時]JCS[II-10/I-3],体温(℃)[36.7/36.5]・収縮期血圧(mmHg)[135/130]・拡張期血圧(mmHg)[85/79],BRS[I/I],FIM[18/25],摂取方法[経管/2食経口,1食経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生2件・治癒までの日数平均14日),車いすにて2時間座位保持可能
(症例2)[入院時/退院時]JCS[III-200/III-200],体温(℃)[37.0/36.9]・収縮期血圧(mmHg)[127/126]・拡張期血圧(mmHg)[75/75],BRS[I/II],FIM[18/18],摂取方法[経管/経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生1件・治癒までの日数18日),車いすにて2時間座位保持可能
(症例3)[入院時/退院時]JCS[II-30/II-30],体温(℃)[37.2/36.7]・収縮期血圧(mmHg)[108/113]・拡張期血圧(mmHg)[68/72],BRS[I/I],FIM[18/18],摂取方法[経管/経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生1件・治癒までの日数13日),車いすにて2時間座位保持可能
【考察】
意識状態に関して症例1で改善がみられた。症例2,3ではJCSの変化はみられなかったがご家族などの呼びかけによる反応が若干改善し積極的な介入が良い刺激となったことが考えられる。FIM,栄養摂取方法についても症例1で改善がみられた。装具でのリハに関して石神らは高次脳機能障害にも好影響を及ぼすと述べ,三好は立位,歩行練習は座位に好影響を与え,嚥下機能も改善すると述べている。症例1に関しては意識状態,座位の改善も得られたため経口摂取が可能となったと考えられる。合併症に関しては,3症例で褥瘡がみられたが治療期間が非常に短期であった。これも立位・歩行練習の積極的実施が好影響を与えたのではないかと考える。重症患者へのリハは全身状態の管理及び急変に対するリスク管理が特に重要となるが,リスクを過大評価することで廃用症候群を進めてはならない。今回の結果からは重症患者に対する廃用症候群の予防・改善も視野に入れた積極的な理学療法は重大な有害事象なく実施できることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
重症患者に対して,廃用症候群の予防・改善も視野に入れ,装具を使用して積極的な介入を行った本研究の結果は単純かつ効率的なリハ戦略を提供する一助となる可能性がある。
回復期リハビリテーション(以下:リハ)病棟において2008年に質の評価が導入,2010年,2012年に改定され,より多くの重症脳血管疾患患者(以下:重症患者)の受け入れ及び改善が各医療機関に求められている。脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中患者に対して十分なリスク管理を行った上で起立・歩行などの下肢の運動を増やすことが推奨されており,装具の使用も重要な治療法であるとされている。当院では,重症患者に対しても全身状態を確認した上で機能回復を目的とするだけでなく,廃用予防・改善を目的として装具を作成し積極的な理学療法(起立・歩行練習等)を行っている。患者の状態[入院時Japan Coma Scale(以下:JCS)2桁~3桁でFunctional Independence Measure(以下:FIM)18点,Brunnstrom Recovery Stage(以下:BRS)下肢I,両下肢障害を有している等]によっては胸腰椎支持部付両長下肢装具(以下:体幹付長下肢装具)を作成する場合もある。質が評価される現在において,重症患者に対するリハはより重要となってきているが,上記のような重症患者に対して廃用予防・改善を視野に入れ,体幹付長下肢装具を使用した積極的な理学療法を行った報告は見当たらない。そこで今回は重症患者に対する積極的な理学療法の効果を明らかにすることを目的に,当院に入院された3症例についてその経過を報告する。
【方法】
カルテを基に後方視的に検討した。
(症例1)70歳代,男性,病名:脳出血,発症から入院までの日数:57日,入院時FIM18点,経管栄養管理
(症例2)20歳代,男性,病名:低酸素脳症,発症から入院までの日数:34日,入院時FIM18点,気管切開あり,経管栄養管理
(症例3)60歳代,女性,病名:脳出血,発症から入院までの日数:44日,入院時FIM18点,気管切開あり,経管栄養管理
各症例に対し全身状態の確認を行いながら積極的理学療法(装具を用いた起立・歩行など)を実施した。リハ中止基準は日本リハ学会の基準を採用した。リハ以外にも適宜,看護師とも連携し病棟での座位練習,ベッド上及び車いす座位でのポジショニング,体交を実施した。
評価指標に関しては,JCS,バイタルサイン(体温・血圧),BRS(下肢),FIM,栄養摂取方法,合併症の発生の有無及び治癒に要した日数,座位時間とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者(意思疎通困難な場合には代理人)に書面および口頭にて研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
3症例とも全入院期間で安全にリハを実施できた。理学・作業・言語聴覚療法合わせて毎日平均6-7単位実施した。3症例ともほぼ毎日1回以上,装具を使用した歩行もしくは起立のリハ(平均歩行時間30-40分,距離200-300m程度)を継続した。
(症例1)[入院時/退院時]JCS[II-10/I-3],体温(℃)[36.7/36.5]・収縮期血圧(mmHg)[135/130]・拡張期血圧(mmHg)[85/79],BRS[I/I],FIM[18/25],摂取方法[経管/2食経口,1食経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生2件・治癒までの日数平均14日),車いすにて2時間座位保持可能
(症例2)[入院時/退院時]JCS[III-200/III-200],体温(℃)[37.0/36.9]・収縮期血圧(mmHg)[127/126]・拡張期血圧(mmHg)[75/75],BRS[I/II],FIM[18/18],摂取方法[経管/経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生1件・治癒までの日数18日),車いすにて2時間座位保持可能
(症例3)[入院時/退院時]JCS[II-30/II-30],体温(℃)[37.2/36.7]・収縮期血圧(mmHg)[108/113]・拡張期血圧(mmHg)[68/72],BRS[I/I],FIM[18/18],摂取方法[経管/経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生1件・治癒までの日数13日),車いすにて2時間座位保持可能
【考察】
意識状態に関して症例1で改善がみられた。症例2,3ではJCSの変化はみられなかったがご家族などの呼びかけによる反応が若干改善し積極的な介入が良い刺激となったことが考えられる。FIM,栄養摂取方法についても症例1で改善がみられた。装具でのリハに関して石神らは高次脳機能障害にも好影響を及ぼすと述べ,三好は立位,歩行練習は座位に好影響を与え,嚥下機能も改善すると述べている。症例1に関しては意識状態,座位の改善も得られたため経口摂取が可能となったと考えられる。合併症に関しては,3症例で褥瘡がみられたが治療期間が非常に短期であった。これも立位・歩行練習の積極的実施が好影響を与えたのではないかと考える。重症患者へのリハは全身状態の管理及び急変に対するリスク管理が特に重要となるが,リスクを過大評価することで廃用症候群を進めてはならない。今回の結果からは重症患者に対する廃用症候群の予防・改善も視野に入れた積極的な理学療法は重大な有害事象なく実施できることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
重症患者に対して,廃用症候群の予防・改善も視野に入れ,装具を使用して積極的な介入を行った本研究の結果は単純かつ効率的なリハ戦略を提供する一助となる可能性がある。