第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸3

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 ポスター会場 (内部障害)

座長:野添匡史(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科)

内部障害 ポスター

[0251] 地域在住高齢者における肺活量と胸郭拡張差との関連

足達大樹1, 西口周1,2, 福谷直人1, 加山博規1, 谷川貴則1, 行武大毅1, 田代雄斗1, 堀田孝之1, 森野佐芳梨1, 山田実1, 青山朋樹1 (1.京都大学大学院医学研究科, 2.日本学術振興会特別研究員)

キーワード:肺活量, 胸郭拡張差, 地域在住高齢者

【はじめに,目的】
一般に,加齢による胸郭の可動性の低下は肺活量の低下をもたらすことが知られている。肺活量の低下は運動機能の低下や,息切れ感の増大,呼吸器疾患への罹患に繋がることが明らかとなっているが,本邦では潜在する未診断・未治療の呼吸器疾患患者の増大が問題視されている。そのため,地域においても高齢者の呼吸機能評価を健康診断の一部として実施することが必要と考えられるが,呼吸機能検査として病院で用いられるスパイロメーターは,熟練した検査者の技術を要することから地域での実施は困難である。一方,臨床現場で用いられるメジャーを使った胸郭拡張差評価は,特別な機器・技術を必要とせず,地域において実施可能な検査の一つである。胸郭拡張差は臨床的に腋窩高,剣状突起高,第10肋骨高において測定され,先行研究において肺活量との関連が示されている。しかし,肋骨の動き方は上部と下部で異なり,そのアプローチ方法も様々であることから,各人によって胸郭可動性が低下する場所は異なることが予想される。これらの点を考慮すると,同時に3カ所全体の胸郭拡張差を評価することも,肺活量の評価の一つとして必要であると考えられる。これらのことから本研究の目的は,地域在住高齢者における肺活量と胸郭全体の拡張差との関連を検討することとした。
【方法】
呼吸器疾患の既往歴を有さない60歳以上の地域在住高齢男性66名(71.4±5.1歳)を対象とした。肺活量は電子スパイロメーター(フクダ電子社製SP-370COPD肺Per)を用いて努力性肺活量(以下FVC)を測定した。胸郭拡張差の測定は安静立位をとり,対象者の腋窩高,剣状突起高,第10肋骨高の3カ所においてメジャーにて測定した。各部位の最大吸気位と最大呼気位の胸郭周径の差を胸郭拡張差とし,測定は各部位で2回ずつ行い,その平均値を解析に用いた。また得られた3カ所の胸郭拡張差を用い,胸郭拡張差Root Mean Square(以下拡張差RMS)を算出した。RMSとは相加相乗平均のことであり,各部位における胸郭拡張差の二乗を合計し,測定部位数で除した後,平方根を算出したものである。この値が高値であることは3カ所全体の胸郭可動性が良好であることを意味する。統計解析はFVCと3カ所における胸郭拡張差,およびFVCと拡張差RMSとの関連をPearsonの相関係数を用いて検討した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て,紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,同意を得られた者を対象者とした。
【結果】
FVCの平均値は2.9±0.9Lであった。腋窩高・剣状突起高・第10肋骨高での胸郭拡張差とFVCとの間には有意な関連はみられず,拡張差RMSとFVCの間には有意な関連(r=0.262;p=0.03)がみられた。
【考察】
本研究では肺活量と各部位における胸郭拡張差との間には関連がみられず,肺活量と拡張差RMSとの間に有意な正の相関関係を認めた。すなわち,3カ所全体の胸郭拡張差が低下する高齢者ほど,肺活量が低下していることが示された。若年者や中年期を対象とした先行研究では,腋窩高および剣状突起高での胸郭拡張差と肺活量との間に有意な関連がみられると報告されている。しかし,本研究では先行研究と同様の傾向はみられなかった。この一理由として高齢者においては,若年者と比べて円背や側弯など多様なアライメント変化が生じるため,各人で肺活量に影響を与える胸郭可動性の低下を生じる部位が異なると予想される。そのため,先行研究とは異なる結果になったと考えられる。本研究の結果から,地域に暮らす高齢者は一カ所のみならず,上部胸郭から下部胸郭にわたる胸郭全体の拡張差を同時に評価する必要がある。そして,今回我々が考案した拡張差RMSという指標を用いることで,地域在住高齢者の肺活量を簡便に評価できることが示唆された。今後は縦断的な研究を行うことで,肺活量と拡張差RMSの変化における因果関係を明らかにする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によって,地域において簡便に高齢者の呼吸機能低下を評価できることが示された。地域において呼吸機能を評価することは,日本で増加する未診断・未治療の呼吸器疾患患者に対して早期の診断の目安になるとともに,不可逆的な呼吸機能の維持のためにも重要な課題である。そのため,本研究のような簡便な呼吸機能評価法の確立は今後積極的に行われるべきである。