[0291] 起床時の自主トレーニングは脳卒中患者の身体機能・バランス能力の日内変動にいかなる影響を及ぼすか
Keywords:日内変動, 脳卒中, 自主トレーニング
【はじめに,目的】
回復期リハビリテーション病棟において転倒が起こりやすい時間帯のひとつは午前6~8時であると報告されている。人の生理機能の多くには日内リズムが存在し,高齢者では午前の方が午後よりもROMは有意に狭く,筋力やバランス機能は有意に低いとされている。また,運動療法は,転倒要因のひとつであるバランス能力の低下を改善させ,高齢者の転倒予防に重要とされている。したがって,脳卒中患者の身体機能・バランス能力の日内変動を把握することは,院内転倒を予防する第一歩であり,さらに,起床直後の自主トレーニング(以下,朝トレ)の効果が得られれば,それは転倒予防に有用であると考えられる。そこで,本研究は,脳卒中患者における身体機能・バランス能力の日内変動,朝トレの日内変動への影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は回復期病棟に入院し,屋内歩行が自立している初発の脳卒中患者13人(男性9人,女性4人,年齢69.1±12.7歳,身長160.1±8.7cm,体重54.9±7.7kg,MMSE 23.1±5.6点)であった。なお,重症高血圧症,重度の循環器疾患・関節疾患の共存症を有する者は除外した。
方法にはクロスオーバーデザインを用い,朝トレなし(条件A),朝トレあり(条件B)の2条件で身体機能・バランス能力の日内変動を評価した。条件の順序を対象者のカルテIDによって無作為的に決定した。各条件で1日ずつ施行し,条件Aでは6時(以下,起床時),9時(以下,午前),14時(以下,午後)の3つの時間帯で評価した。条件Bでは3つの時間帯の評価に加えて,起床時の評価後に,朝トレ(ストレッチや筋力トレーニング・バランス練習など10~15分の自主トレーニング)を実施し,その直後にも評価した。評価は,10m最大歩行スピード・バランス(FRT・TUG)・ROM(股屈曲・足背屈・足底屈)・筋力(握力・膝伸展)・敏捷性(棒反応時間)を行った。
統計学的解析では,全評価項目に対して,時間帯(起床時,午前,午後)・朝トレの有無を要因とした2要因の反復測定分散分析,および多重比較を行った。また,朝トレの即時効果を検証するため,条件Bの起床時と朝トレ後の評価に関して,対応のあるt検定,またはWilcoxonの符号付順位検定を用いた。いずれの検定も有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は研究を行った施設の倫理委員会の承認を得て行った。本研究の目的と参加に伴う利益・不利益を対象者に紙面・口頭により説明した上で,紙面による同意を得た。
【結果】
時間帯による比較では,歩行スピードとTUGは起床時の方が午前と午後よりも,午前の方が午後よりも有意に遅かった。FRTは起床時の方が午後よりも有意に短かった。麻痺側の股屈曲ROMは起床時の方が午前よりも有意に狭く,非麻痺側では起床時の方が午前と午後よりも有意に狭かった。足背屈ROMは起床時の方が午前と午後よりも有意に狭かった。足底屈ROM(両側),筋力(両側の握力・膝伸展),棒反応時間はどの時間帯間でも有意差を認めなかった。起床時と午後間で有意差を認めた項目において,午後に対する起床時の低下率は,歩行スピード8.7%,TUG 10.8%,FRT 7.3%,非麻痺側の股屈曲ROM 3.4%,麻痺側の足背屈ROM 40.8%,非麻痺側の足背屈ROM 28.4%であった。
朝トレの有無による比較では,全評価項目で有意差を認めなかった。しかし,非麻痺側の膝伸展筋力と棒反応時間を除き,朝トレ直後の方が起床時よりも有意に改善し,朝トレの即時効果を認めた。
【考察】
起床時は午後と同程度の筋力を発揮できても,ROM(股屈曲と足背屈)は午後と比較して有意に狭かった。そのため,バランスを保持する有効な支持基底面と歩幅が狭くなり,FRT,TUG,歩行スピードの日内変動に影響を及ぼすものと考えられる。また,歩行自立を判定する際に,FRT,TUG,10m最大歩行スピードの能力を採用することがある。しかし,その際には日内変動を考慮する必要があるため,本研究で示された午後に対する起床時の低下率は,通常では評価が難しい起床時の身体機能・バランス能力を把握するために有用であると考えられる。
朝トレのその後午後までの波及効果はないものの,朝トレ直後の即時効果は,日内変動を認めた身体機能・バランス能力を中心とした起床直後の自主トレーニングを習慣付けることにより,脳卒中患者の転倒予防に有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,午後の評価から起床時の身体機能・バランス能力を推測することにより,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者の早朝における転倒予防と,歩行の自立判定に活用できる。また,転倒因子のうち,日内変動を認めた身体機能・バランス能力を中心とした自主トレーニングの指導は転倒予防に有効である可能性を示した。
回復期リハビリテーション病棟において転倒が起こりやすい時間帯のひとつは午前6~8時であると報告されている。人の生理機能の多くには日内リズムが存在し,高齢者では午前の方が午後よりもROMは有意に狭く,筋力やバランス機能は有意に低いとされている。また,運動療法は,転倒要因のひとつであるバランス能力の低下を改善させ,高齢者の転倒予防に重要とされている。したがって,脳卒中患者の身体機能・バランス能力の日内変動を把握することは,院内転倒を予防する第一歩であり,さらに,起床直後の自主トレーニング(以下,朝トレ)の効果が得られれば,それは転倒予防に有用であると考えられる。そこで,本研究は,脳卒中患者における身体機能・バランス能力の日内変動,朝トレの日内変動への影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は回復期病棟に入院し,屋内歩行が自立している初発の脳卒中患者13人(男性9人,女性4人,年齢69.1±12.7歳,身長160.1±8.7cm,体重54.9±7.7kg,MMSE 23.1±5.6点)であった。なお,重症高血圧症,重度の循環器疾患・関節疾患の共存症を有する者は除外した。
方法にはクロスオーバーデザインを用い,朝トレなし(条件A),朝トレあり(条件B)の2条件で身体機能・バランス能力の日内変動を評価した。条件の順序を対象者のカルテIDによって無作為的に決定した。各条件で1日ずつ施行し,条件Aでは6時(以下,起床時),9時(以下,午前),14時(以下,午後)の3つの時間帯で評価した。条件Bでは3つの時間帯の評価に加えて,起床時の評価後に,朝トレ(ストレッチや筋力トレーニング・バランス練習など10~15分の自主トレーニング)を実施し,その直後にも評価した。評価は,10m最大歩行スピード・バランス(FRT・TUG)・ROM(股屈曲・足背屈・足底屈)・筋力(握力・膝伸展)・敏捷性(棒反応時間)を行った。
統計学的解析では,全評価項目に対して,時間帯(起床時,午前,午後)・朝トレの有無を要因とした2要因の反復測定分散分析,および多重比較を行った。また,朝トレの即時効果を検証するため,条件Bの起床時と朝トレ後の評価に関して,対応のあるt検定,またはWilcoxonの符号付順位検定を用いた。いずれの検定も有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は研究を行った施設の倫理委員会の承認を得て行った。本研究の目的と参加に伴う利益・不利益を対象者に紙面・口頭により説明した上で,紙面による同意を得た。
【結果】
時間帯による比較では,歩行スピードとTUGは起床時の方が午前と午後よりも,午前の方が午後よりも有意に遅かった。FRTは起床時の方が午後よりも有意に短かった。麻痺側の股屈曲ROMは起床時の方が午前よりも有意に狭く,非麻痺側では起床時の方が午前と午後よりも有意に狭かった。足背屈ROMは起床時の方が午前と午後よりも有意に狭かった。足底屈ROM(両側),筋力(両側の握力・膝伸展),棒反応時間はどの時間帯間でも有意差を認めなかった。起床時と午後間で有意差を認めた項目において,午後に対する起床時の低下率は,歩行スピード8.7%,TUG 10.8%,FRT 7.3%,非麻痺側の股屈曲ROM 3.4%,麻痺側の足背屈ROM 40.8%,非麻痺側の足背屈ROM 28.4%であった。
朝トレの有無による比較では,全評価項目で有意差を認めなかった。しかし,非麻痺側の膝伸展筋力と棒反応時間を除き,朝トレ直後の方が起床時よりも有意に改善し,朝トレの即時効果を認めた。
【考察】
起床時は午後と同程度の筋力を発揮できても,ROM(股屈曲と足背屈)は午後と比較して有意に狭かった。そのため,バランスを保持する有効な支持基底面と歩幅が狭くなり,FRT,TUG,歩行スピードの日内変動に影響を及ぼすものと考えられる。また,歩行自立を判定する際に,FRT,TUG,10m最大歩行スピードの能力を採用することがある。しかし,その際には日内変動を考慮する必要があるため,本研究で示された午後に対する起床時の低下率は,通常では評価が難しい起床時の身体機能・バランス能力を把握するために有用であると考えられる。
朝トレのその後午後までの波及効果はないものの,朝トレ直後の即時効果は,日内変動を認めた身体機能・バランス能力を中心とした起床直後の自主トレーニングを習慣付けることにより,脳卒中患者の転倒予防に有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,午後の評価から起床時の身体機能・バランス能力を推測することにより,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者の早朝における転倒予防と,歩行の自立判定に活用できる。また,転倒因子のうち,日内変動を認めた身体機能・バランス能力を中心とした自主トレーニングの指導は転倒予防に有効である可能性を示した。