[0305] 当院ICUにおけるEarly mobilizationの導入とその効果
キーワード:早期離床, 人工呼吸器, RASS
【はじめに,目的】
Intensive Care Unit(ICU)においての医学管理は,安静臥床を強いられことが多く,廃用症候群による機能低下を招く。特に長期間の人工呼吸器や鎮静管理は死亡率の増加,ICU滞在日数が延長する。近年ICUリハビリテーション(リハ)での早期離床は,安全かつ有効であることが報告されており,ICU入室・在院・人工呼吸器管理期間の短縮,退院時の身体機能向上に繋がるEarly mobilization(EM)が推奨されている。しかし,明確なリハ内容や介入時期などの基準はなく施設間で異なっているのが現状である。当院ICUリハは,当初より積極的に離床を行っているが,介入時期や内容についての基準は確立されていなかった。そこで今回,ICUリハについて救急・リハ科医師,看護師,リハスタッフで再検討を行い,先行研究のEMに基づき早期介入の方針と,より早い段階での離床プロトコールを作成した。当院独自のEM導入と早期介入がICU入室・在院・人工呼吸器管理期間,ADLへの影響と早期介入における有害事象の有無を検討することを目的とした。
【方法】
対象は2013年1月から2013年8月にICU入室し,人工呼吸器管理された救急患者の内,18歳以上で入院2週間前のBarthel Index(BI)が70以上とした。これらを人工呼吸器管理後48時間以内にEMを開始した群(A群)と,48時間以上でEMを開始した群(B群)に分けてコホート研究を行った。除外基準は急性の神経筋疾患,頭蓋内圧亢進状態,四肢欠損,病的骨折,脊椎不安定症,心臓血管疾患の術後,ICUでのリハ介入期間が1日未満,経過中急に状態が悪化した患者とした。EMのプロトコールは,Richmond Sedation and Agitation Scale(RASS)にあわせてLevel 1~4に段階分けし両群とも施行した。Level1はベッド上で呼吸リハ・拘縮予防を行う。Level2はRASS-4~-3で端座位を1日20分2回行い,看護師がギャッジ座位を行う。Level3はRASS-2~+1で立位を1日20分2回行い,看護師がギャッジ座位または車いす座位を行う。Level4はRASS0で立位での足ふみ・歩行を行い,看護師が車いす座位,患者が可能であれば上下肢の拳上運動を行う。看護師は1日1回拘縮予防と四肢運動を全Levelで行う。EM介入時のLevel分けは,ICU医師が呼吸・循環動態,鎮静管理の状態を加味して決定した。介入中に設定した中止基準を満たせばリハを中止した。EMの介入は,日中の鎮静を中断し日内リズムを確立した上で,1日2回,ICUを退室するまで行い,退室後もリハを継続した。評価項目は重症度スコアのAcute physiology and chronic health evaluation(APACHE)IIスコアとSequential organ failure assessment(SOFA)スコア,鎮静管理のRASS,ICU入室・在院・人工呼吸器管理期間,ICU入室・転室・転帰時のBIとFIMとした。BIとFIMの転室,転帰時に関しては,入室時からの変化(⊿)で算出し,各評価項目において両群間で比較検討を行った。統計処理は,Mann-Whitney-U検定で解析し有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理審査委員会での承諾を得て,対象者または家族に研究内容や危険性を口頭と書面で十分説明し,研究参加に関して自由意志で文書により事前に同意を得た。
【結果】
対象はA群12例,B群11例,平均年齢67±12.5歳vs. 66±17.1歳(A群vs. B群)で有意差なく,介入までの平均日数1.2±0.8日vs. 3.5±0.9日(P<0.01)に有意差を認めた。ICU入室時の重症度はAPACHE IIスコア26.3±6.3点vs. 25.4±6.1点,SOFAスコア9.0±3.0点vs. 8.7±2.7点で有意差は認めなかった。またその他の,入室時のFIMとBI,転室転帰時⊿BI,RASS,人工呼吸器管理期間5.9±2.4日vs. 6.9±3.5日,ICU入室期間8.8±3.8日vs. 9.1±7.0日,在院期間28.3±10.4日vs. 28.2±13.5日にも有意差を認めなかった。⊿FIM転室時18.8±16.3 vs. 8±7.7に対し,⊿FIM転帰時70.9±40.0 vs. 42.4±37.4(P<0.05)のみ有意差を認めた。EM介入中に急変や中止基準を満たす事例はなかった。
【考察】
本研究はICUにおける急性期リハの内容を明確にし,発症数日からEM介入を試み,人工呼吸器管理下においても端座位や立位を行うプロトコールを導入した。当院独自のEM開始基準は,症例の重症度で有意差がないことや介入中に急変を認めなかったことから,48時間以内でも可能であることが示唆された。先行研究ではコントロール群(7.4日)とEM群(1.5日)の比較で,ICU入室・在院日数・人工呼吸器管理期間の短縮,ADL改善などにEM効果を認めた。それに対し本研究は,両群ともEMを実施し,早期介入日の違いで⊿FIMに有意差を認めた。そのため当院独自のEMと早期介入は,より転帰時の機能改善やADL向上に繋がる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
ICUリハは,患者の状態にあわせてEMを安全かつ円滑に進めるために,ICU専従セラピストの配属や医師,看護師など多職種と連携を取れる包括的なシステムを構築する必要がある。
Intensive Care Unit(ICU)においての医学管理は,安静臥床を強いられことが多く,廃用症候群による機能低下を招く。特に長期間の人工呼吸器や鎮静管理は死亡率の増加,ICU滞在日数が延長する。近年ICUリハビリテーション(リハ)での早期離床は,安全かつ有効であることが報告されており,ICU入室・在院・人工呼吸器管理期間の短縮,退院時の身体機能向上に繋がるEarly mobilization(EM)が推奨されている。しかし,明確なリハ内容や介入時期などの基準はなく施設間で異なっているのが現状である。当院ICUリハは,当初より積極的に離床を行っているが,介入時期や内容についての基準は確立されていなかった。そこで今回,ICUリハについて救急・リハ科医師,看護師,リハスタッフで再検討を行い,先行研究のEMに基づき早期介入の方針と,より早い段階での離床プロトコールを作成した。当院独自のEM導入と早期介入がICU入室・在院・人工呼吸器管理期間,ADLへの影響と早期介入における有害事象の有無を検討することを目的とした。
【方法】
対象は2013年1月から2013年8月にICU入室し,人工呼吸器管理された救急患者の内,18歳以上で入院2週間前のBarthel Index(BI)が70以上とした。これらを人工呼吸器管理後48時間以内にEMを開始した群(A群)と,48時間以上でEMを開始した群(B群)に分けてコホート研究を行った。除外基準は急性の神経筋疾患,頭蓋内圧亢進状態,四肢欠損,病的骨折,脊椎不安定症,心臓血管疾患の術後,ICUでのリハ介入期間が1日未満,経過中急に状態が悪化した患者とした。EMのプロトコールは,Richmond Sedation and Agitation Scale(RASS)にあわせてLevel 1~4に段階分けし両群とも施行した。Level1はベッド上で呼吸リハ・拘縮予防を行う。Level2はRASS-4~-3で端座位を1日20分2回行い,看護師がギャッジ座位を行う。Level3はRASS-2~+1で立位を1日20分2回行い,看護師がギャッジ座位または車いす座位を行う。Level4はRASS0で立位での足ふみ・歩行を行い,看護師が車いす座位,患者が可能であれば上下肢の拳上運動を行う。看護師は1日1回拘縮予防と四肢運動を全Levelで行う。EM介入時のLevel分けは,ICU医師が呼吸・循環動態,鎮静管理の状態を加味して決定した。介入中に設定した中止基準を満たせばリハを中止した。EMの介入は,日中の鎮静を中断し日内リズムを確立した上で,1日2回,ICUを退室するまで行い,退室後もリハを継続した。評価項目は重症度スコアのAcute physiology and chronic health evaluation(APACHE)IIスコアとSequential organ failure assessment(SOFA)スコア,鎮静管理のRASS,ICU入室・在院・人工呼吸器管理期間,ICU入室・転室・転帰時のBIとFIMとした。BIとFIMの転室,転帰時に関しては,入室時からの変化(⊿)で算出し,各評価項目において両群間で比較検討を行った。統計処理は,Mann-Whitney-U検定で解析し有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理審査委員会での承諾を得て,対象者または家族に研究内容や危険性を口頭と書面で十分説明し,研究参加に関して自由意志で文書により事前に同意を得た。
【結果】
対象はA群12例,B群11例,平均年齢67±12.5歳vs. 66±17.1歳(A群vs. B群)で有意差なく,介入までの平均日数1.2±0.8日vs. 3.5±0.9日(P<0.01)に有意差を認めた。ICU入室時の重症度はAPACHE IIスコア26.3±6.3点vs. 25.4±6.1点,SOFAスコア9.0±3.0点vs. 8.7±2.7点で有意差は認めなかった。またその他の,入室時のFIMとBI,転室転帰時⊿BI,RASS,人工呼吸器管理期間5.9±2.4日vs. 6.9±3.5日,ICU入室期間8.8±3.8日vs. 9.1±7.0日,在院期間28.3±10.4日vs. 28.2±13.5日にも有意差を認めなかった。⊿FIM転室時18.8±16.3 vs. 8±7.7に対し,⊿FIM転帰時70.9±40.0 vs. 42.4±37.4(P<0.05)のみ有意差を認めた。EM介入中に急変や中止基準を満たす事例はなかった。
【考察】
本研究はICUにおける急性期リハの内容を明確にし,発症数日からEM介入を試み,人工呼吸器管理下においても端座位や立位を行うプロトコールを導入した。当院独自のEM開始基準は,症例の重症度で有意差がないことや介入中に急変を認めなかったことから,48時間以内でも可能であることが示唆された。先行研究ではコントロール群(7.4日)とEM群(1.5日)の比較で,ICU入室・在院日数・人工呼吸器管理期間の短縮,ADL改善などにEM効果を認めた。それに対し本研究は,両群ともEMを実施し,早期介入日の違いで⊿FIMに有意差を認めた。そのため当院独自のEMと早期介入は,より転帰時の機能改善やADL向上に繋がる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
ICUリハは,患者の状態にあわせてEMを安全かつ円滑に進めるために,ICU専従セラピストの配属や医師,看護師など多職種と連携を取れる包括的なシステムを構築する必要がある。