[0452] 高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛に対する聴覚刺激を付与したVirtual Visual Feedbackの効果
Keywords:高位頸髄損傷, 余剰幻肢痛, Virtual Visual Feedback
【はじめに,目的】脊髄損傷後に実際の四肢よりも多く四肢を知覚する,余剰幻肢や余剰幻肢痛が出現することが報告されている(Burke 1976)。我々は,第18回日本ペインリハビリテーション学会において,高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛に対し,映像に合わせて運動をイメージさせるVirtual Visual Feedback(VVF)を12週間行い余剰幻肢痛が改善する可能性を報告した。しかし,その効果の持続期間は8週間であった。一般的に運動イメージ介入では視覚,体性感覚,聴覚といった様々な感覚様式を用いることが重要とされている(Kim et al.2011)。そこで今回,VVFに聴覚刺激を付与した場合の効果とその持続期間について検討した。
【方法】対象は,約6年前にC2頸髄損傷完全四肢麻痺と診断された20歳代の男性であった。主訴は,左肩関節周囲に本来の肩のイメージに加え「もうひとつの左肩が後ろに飛び出している感じがする」といった余剰幻肢と,しびれを伴う余剰幻肢痛であった。シングルケースデザインのAB A’型デザインを用い,B期(7週間)を操作導入期とした。操作導入期で行ったVVFは,起立台75度立位で正面に鏡を設置し,症例の頸部から下が隠れるように鏡にシーツを巻き付け,プロジェクターにて第三者の歩行や両上肢を動かしている頸部から下の映像を10分間流した。その際にイヤホンにてメトロノームによる聴覚刺激を付与した。口頭指示は「自分があたかも手足を動かしているかのように映像に合わせてイメージをしてください」とした。A’期は,B期の余剰幻肢痛に対する効果の持続を確認する目的で毎週A期との有意差を確認することとした。神経障害性疼痛に対しVirtual Walking介入を行った研究(Moseley 2007)では,効果が治療後3ヶ月持続したと報告していることから,A’期は最大で15週間とした。A期(5週間),A’期(15週間)は正面に何も設置せず,聴覚刺激も与えずに10分間立位をとらせた。介入頻度は各期ともに週3日間とした。余剰幻肢痛の強さは100mmのVisual Analog Scale(VAS)を用いVVF前に測定した。また,余剰幻肢を動かす運動イメージ能力をGreggら(2007)のMovement Imagery Questionnaire-Revised second version(MIQ-RS)の視覚的運動イメージ(視覚MIQ-RS)を用いVVF前に測定した。視覚MIQ-RSは「もうひとつの左肩が元の位置へ戻るところをどれくらいイメージできますか」と質問した。統計学的分析にあたりA期の最後の3週間をA期,B期の効果を確認するためにA’期の最初の3週間をB期,A’期の最後の3週間をA’期とした。余剰幻肢痛,視覚MIQ-RSはKruskal-Wallis検定を行い,各期の比較にはWilcoxon検定を用い検討しBonferroni法による有意水準の調整を行った。なお,有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得て,対象および家族に研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。
【結果】余剰幻肢痛のVASはA期,A’期との有意差が15週間持続した。余剰幻肢痛のVASはA期61.0mm,B期50.5mm,A’期49.5mmであった。A期に対しB期,A’期で有意な改善を認めた(p<0.05)。視覚MIQ-RSはA期2.0,B期3.0,A’期2.0でA’期に対しB期で有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】聴覚刺激を付与したVVFは高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛を改善させた。また,その効果はVVF介入終了後15週間持続した。余剰幻肢痛が改善した要因として,B期において視覚的運動イメージ能力が向上したことを考えた。幻肢痛患者を対象とした先行研究において,幻肢の随意運動を伴わない幻肢痛患者が幻肢の随意運動を獲得すると同時に幻肢痛が消失したとの報告がある(Ramachandran 1995)。本症例においても聴覚刺激を付与して映像に合わせて運動をイメージさせたことにより,視覚的運動イメージ能力が向上し余剰幻肢を随意に動かすことが可能となってきたことで余剰幻肢痛の改善を認めたのではないかと考えた。しかし,余剰幻肢痛は改善効果をA’期を通して持続できたが視覚的運動イメージ能力は維持できなかった。このことから余剰幻肢痛の改善には,視覚的運動イメージ能力の向上以外にも要因があると考えられた。
今後の課題として,聴覚刺激のみの条件で介入効果を検証することで聴覚刺激を付与したVVFの有効性を明らかにすることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛に対して映像に合わせて運動をイメージさせるVVFに聴覚刺激を付与することで,余剰幻肢の視覚的運動イメージ能力が向上し余剰幻肢痛を改善させる可能性がある。またその効果が15週間持続することが示唆された。
【方法】対象は,約6年前にC2頸髄損傷完全四肢麻痺と診断された20歳代の男性であった。主訴は,左肩関節周囲に本来の肩のイメージに加え「もうひとつの左肩が後ろに飛び出している感じがする」といった余剰幻肢と,しびれを伴う余剰幻肢痛であった。シングルケースデザインのAB A’型デザインを用い,B期(7週間)を操作導入期とした。操作導入期で行ったVVFは,起立台75度立位で正面に鏡を設置し,症例の頸部から下が隠れるように鏡にシーツを巻き付け,プロジェクターにて第三者の歩行や両上肢を動かしている頸部から下の映像を10分間流した。その際にイヤホンにてメトロノームによる聴覚刺激を付与した。口頭指示は「自分があたかも手足を動かしているかのように映像に合わせてイメージをしてください」とした。A’期は,B期の余剰幻肢痛に対する効果の持続を確認する目的で毎週A期との有意差を確認することとした。神経障害性疼痛に対しVirtual Walking介入を行った研究(Moseley 2007)では,効果が治療後3ヶ月持続したと報告していることから,A’期は最大で15週間とした。A期(5週間),A’期(15週間)は正面に何も設置せず,聴覚刺激も与えずに10分間立位をとらせた。介入頻度は各期ともに週3日間とした。余剰幻肢痛の強さは100mmのVisual Analog Scale(VAS)を用いVVF前に測定した。また,余剰幻肢を動かす運動イメージ能力をGreggら(2007)のMovement Imagery Questionnaire-Revised second version(MIQ-RS)の視覚的運動イメージ(視覚MIQ-RS)を用いVVF前に測定した。視覚MIQ-RSは「もうひとつの左肩が元の位置へ戻るところをどれくらいイメージできますか」と質問した。統計学的分析にあたりA期の最後の3週間をA期,B期の効果を確認するためにA’期の最初の3週間をB期,A’期の最後の3週間をA’期とした。余剰幻肢痛,視覚MIQ-RSはKruskal-Wallis検定を行い,各期の比較にはWilcoxon検定を用い検討しBonferroni法による有意水準の調整を行った。なお,有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得て,対象および家族に研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。
【結果】余剰幻肢痛のVASはA期,A’期との有意差が15週間持続した。余剰幻肢痛のVASはA期61.0mm,B期50.5mm,A’期49.5mmであった。A期に対しB期,A’期で有意な改善を認めた(p<0.05)。視覚MIQ-RSはA期2.0,B期3.0,A’期2.0でA’期に対しB期で有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】聴覚刺激を付与したVVFは高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛を改善させた。また,その効果はVVF介入終了後15週間持続した。余剰幻肢痛が改善した要因として,B期において視覚的運動イメージ能力が向上したことを考えた。幻肢痛患者を対象とした先行研究において,幻肢の随意運動を伴わない幻肢痛患者が幻肢の随意運動を獲得すると同時に幻肢痛が消失したとの報告がある(Ramachandran 1995)。本症例においても聴覚刺激を付与して映像に合わせて運動をイメージさせたことにより,視覚的運動イメージ能力が向上し余剰幻肢を随意に動かすことが可能となってきたことで余剰幻肢痛の改善を認めたのではないかと考えた。しかし,余剰幻肢痛は改善効果をA’期を通して持続できたが視覚的運動イメージ能力は維持できなかった。このことから余剰幻肢痛の改善には,視覚的運動イメージ能力の向上以外にも要因があると考えられた。
今後の課題として,聴覚刺激のみの条件で介入効果を検証することで聴覚刺激を付与したVVFの有効性を明らかにすることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛に対して映像に合わせて運動をイメージさせるVVFに聴覚刺激を付与することで,余剰幻肢の視覚的運動イメージ能力が向上し余剰幻肢痛を改善させる可能性がある。またその効果が15週間持続することが示唆された。