[0470] 食道癌患者の術前評価における特性
Keywords:食道癌, 術前評価, Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)
【はじめに,目的】食道癌手術は,侵襲度が高くかつ手術形式の特徴のために術後呼吸機能に大きく影響することなどから呼吸器合併症の発生頻度が高い手術である。ゆえに,術後呼吸器合併症を含めた合併症予防を目的に周術期管理がなされ,本邦のガイドラインにおいてもリハビリテーション(リハ)が推奨されている。リハ介入に際して,術前から対象患者を把握しておくことは重要であり,身体機能や運動機能,呼吸機能はもとより,精神・心理,QOLを含む多様な面に対する評価が必要となる。術後リハの進行に影響する因子として精神状況は重要になると考えられるが,食道癌手術患者の術前の精神状況については十分明らかではない。本研究は,食道癌患者の術前評価における精神状況と他指標との関連を後方視的に検討した。
【方法】対象は2011年5月から2013年9月の期間,当院消化器外科にて食道癌手術を施行し,術前からリハ介入を行った症例とした。症例数は73名(男65名,女8名,66±8歳)であった。術前評価指標には精神状況を測る尺度としてHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),肺機能検査項目,運動耐容能として6分間歩行距離(6MWD),QOLについてはSF-36 v2(SF)とCOPDアセスメントテスト(CAT)を用いた。各評価は術前に自記式または理学療法士による測定にて行った。統計解析は正規性を確認した上でPearsonもしくはSpearmanの相関係数を各指標間で求め,有意性の検討を行った。HADSについては不安(A)と抑鬱(D)に区別し,SFについては8つの下位尺度とそのサマリースコアである3コンポーネント・サマリースコア(CS)と各指標の相関を求めた。また,HADSについてはA,Dそれぞれで8点以上を疑診群(8点未満は非疑診群)とし,術後指標として術後在院期間,術後肺炎の有無について,t検定ならびにχ2検定を用いて群間比較した(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】各評価は対象患者に口頭にて十分な説明を行った上で実施した。なお,本研究は本学医学部生命倫理委員会の承認を得て実施した。(承認番号:117)
【結果】HADS-A,Dの疑診群はそれぞれ13名(17.8%),22名(30.1%)であった。HADS-Aとの間に正の相関関係を認めた指標はCATであり,SFの8つの下位尺度とCSの「精神的側面」とは負の相関関係を認めた。同様に,HADS-DとCATは正の相関関係を認め,6MWDとSFの「体の痛み」を除く7つの下位尺度,さらにCSの「精神的側面」,「役割/社会的側面」とは負の相関関係を認めた。肺機能検査項目とはHADS-A,Dともに関連を認めなかった。また,術後在院日数は38±27日,術後肺炎を合併したのは14名(19.2%)であり,両指標において,HADS-A,Dともに疑診群と非疑診群との間に有意な差を認めなかった。
【考察】食道癌手術前患者において,抑鬱状態を示す者が3割ほど存在し,それらのQOLや運動耐容能は低いことが推測された。この背景として,倦怠感の持続や術前補助療法,低栄養などの影響が考えられる。さらに本研究ではHADSで示された術前の精神状況と術後指標との間に関連を認めず,精神状況以外の要因が術後経過に影響する可能性が推測された。本研究の限界として,術前の栄養状態や身体活動量については検討していない。今後,本研究を発展させ,食道癌周術期リハの効果を検証していく上で,さらに術前の状況を多角的に評価するとともに,術後経過についてもより詳細に評価していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】周術期リハ介入を効果的に進める上で術前の症例の特性を把握していることは重要である。本研究で着目した精神状況は,様々な評価尺度が開発され,簡便かつ身体的負担が少なく評価が行える指標である。このような評価から周術期リハの管理につながる有益な情報を得ることができるとすれば,より有効な理学療法を提供する一助になるものと期待される。
【方法】対象は2011年5月から2013年9月の期間,当院消化器外科にて食道癌手術を施行し,術前からリハ介入を行った症例とした。症例数は73名(男65名,女8名,66±8歳)であった。術前評価指標には精神状況を測る尺度としてHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),肺機能検査項目,運動耐容能として6分間歩行距離(6MWD),QOLについてはSF-36 v2(SF)とCOPDアセスメントテスト(CAT)を用いた。各評価は術前に自記式または理学療法士による測定にて行った。統計解析は正規性を確認した上でPearsonもしくはSpearmanの相関係数を各指標間で求め,有意性の検討を行った。HADSについては不安(A)と抑鬱(D)に区別し,SFについては8つの下位尺度とそのサマリースコアである3コンポーネント・サマリースコア(CS)と各指標の相関を求めた。また,HADSについてはA,Dそれぞれで8点以上を疑診群(8点未満は非疑診群)とし,術後指標として術後在院期間,術後肺炎の有無について,t検定ならびにχ2検定を用いて群間比較した(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】各評価は対象患者に口頭にて十分な説明を行った上で実施した。なお,本研究は本学医学部生命倫理委員会の承認を得て実施した。(承認番号:117)
【結果】HADS-A,Dの疑診群はそれぞれ13名(17.8%),22名(30.1%)であった。HADS-Aとの間に正の相関関係を認めた指標はCATであり,SFの8つの下位尺度とCSの「精神的側面」とは負の相関関係を認めた。同様に,HADS-DとCATは正の相関関係を認め,6MWDとSFの「体の痛み」を除く7つの下位尺度,さらにCSの「精神的側面」,「役割/社会的側面」とは負の相関関係を認めた。肺機能検査項目とはHADS-A,Dともに関連を認めなかった。また,術後在院日数は38±27日,術後肺炎を合併したのは14名(19.2%)であり,両指標において,HADS-A,Dともに疑診群と非疑診群との間に有意な差を認めなかった。
【考察】食道癌手術前患者において,抑鬱状態を示す者が3割ほど存在し,それらのQOLや運動耐容能は低いことが推測された。この背景として,倦怠感の持続や術前補助療法,低栄養などの影響が考えられる。さらに本研究ではHADSで示された術前の精神状況と術後指標との間に関連を認めず,精神状況以外の要因が術後経過に影響する可能性が推測された。本研究の限界として,術前の栄養状態や身体活動量については検討していない。今後,本研究を発展させ,食道癌周術期リハの効果を検証していく上で,さらに術前の状況を多角的に評価するとともに,術後経過についてもより詳細に評価していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】周術期リハ介入を効果的に進める上で術前の症例の特性を把握していることは重要である。本研究で着目した精神状況は,様々な評価尺度が開発され,簡便かつ身体的負担が少なく評価が行える指標である。このような評価から周術期リハの管理につながる有益な情報を得ることができるとすれば,より有効な理学療法を提供する一助になるものと期待される。