第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防10

2014年5月30日(金) 15:20 〜 16:10 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:高野賢一郎(関西労災病院勤労者予防医療センター)

生活環境支援 ポスター

[0483] 勤労者における腰痛実態調査

下和弘1,2, 長谷川真美3, 水谷聖子3, 長谷川共美1, 牛田享宏1,2 (1.愛知医科大学運動療育センター, 2.愛知医科大学学際的痛みセンター, 3.愛知医科大学看護学部)

キーワード:腰痛, 実態調査, 健康増進

【はじめに,目的】腰痛は有訴者率の最も多い愁訴である。日本における大規模調査によると運動器疼痛の有訴率は30~50歳代が最も高く,医療機関で治療を受けているものは19%であった。つまり,腰痛などの運動器疼痛は高齢者よりも壮年世代に多く,医療機関による診療を十分に受けていない可能性がうかがえる。さらに疼痛による年間の経済的損失は約3,700億円と推計されており,勤労者の運動器疼痛は社会的損失が大きいことがわかる。勤労者の健康増進,疾病予防には産業保健的介入がなされるが,日本ではこの分野での理学療法の実績は少ない。運動器疼痛に対して,適切なホームエクササイズの指導や,動作,姿勢の評価や改善指導など理学療法士が関われることは多く,積極的に関与すべきと考える。本研究では,今後の勤労者の運動器疼痛,特に腰痛の予防,改善を目的とした介入への基礎資料作成を目的とし,勤労者に対して腰痛に関する調査を行ったので報告する。
【方法】対象は同一グループ企業に勤務する18歳から68歳までの男女471名とし,質問紙による調査を実施した。調査項目は,性別,年齢,腰痛の有無,EQ-5D,運動器の疼痛による休業経験,専門家による腰痛予防の指導の経験,腰痛予防指導の希望の有無とした。また,腰痛有訴者には腰痛の強さ,罹患期間,腰痛について相談できる人の有無,医療機関での治療歴および効果と満足度,痛みによる業務への影響,RDQを追加で調査した。また,腰痛有訴者のうち,RDQの得点の平均値より高値のものをRDQ high群,低値のものをRDQ low群とし,非腰痛群との3群で年齢,EQ-5Dについて分散分析を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は愛知医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。また調査に際して,インフォームドコンセントに努めた。
【結 果】質問紙の回収率は100%で,男性405名,女性66名,年齢42.0±12.8(平均±標準偏差)歳であった。EQ-5Dは0.90±0.14,運動器の疼痛による休業経験がある者は137名(29.1%)で,専門家による腰痛予防の指導の経験のある者は74名(15.7%),腰痛予防の指導を希望する者は197名(41.8%)であった。また,腰痛有訴者は132名(28.0%)で,腰痛の強さは4.2±2.0,罹患期間は「3年以上」が85名(64.9%)で最も多かった。腰痛について相談できる人がいた者は78名(59.0%)であった。医療機関での治療歴は「医療機関を未受診」が60名(45.8%)が最も多く,治療の効果については「改善」が12.2%,「やや改善」が37.4%,「不変」が24.4%であり,治療の満足度は「大変満足」が2.3%,「満足」が10.7%,「まあまあ満足」が29.8%,「あまり満足していない」が18.3%,「満足していない」が10.7%,「大変不満」が1.5%であった。痛みによる仕事への影響度は,明らかに仕事に影響を及ぼしている者が腰痛有訴者の17.6%であり,対象者全体のなかでは4.9%であった。RDQは3.2±4.1で範囲は0~20であった。RDQ high群,RDQ low群,非腰痛群の3群間の比較では,年齢は非腰痛群に比べてRDQ high群で有意に高く,EQ-5Dは3群間すべてで有意差を認め,非腰痛群,RDQ low群,RDQ high群の順に高かった。
【考 察】腰痛の有訴者は全体の約3割であり,罹患期間が長期にわたるものが多かった。運動器の疼痛が原因で休業を経験した者も約3割おり,これは全国調査の25%を上回る結果であった。また,腰痛の治療に関しては医療機関を未受診の者が最も多く,医療機関を受診した者のなかでも24.4%は治療効果を感じておらず,満足度が低い者が3割に達し,勤労者の腰痛に対して十分な医療的アプローチがなされていない状況を表していると考える。また,腰痛について相談できる環境にない者が4割以上存在していること,腰痛予防の指導を経験した者が約15%と少なく,腰痛予防の指導を希望するものが4割以上存在することから,専門家による腰痛予防のアプローチの需要がうかがえる。また,今回の調査では対象者全体の約5%が腰痛のために業務に明らかな影響を及ぼしており,企業の生産性に与える影響は少なくなく,企業にとっても腰痛予防の対策の需要があることが推察される。先行研究同様,腰痛の程度が高いとQOLが低い結果となった。また,RDQが高い者は非腰痛群よりも高齢である傾向が明らかになり,今後,退職までの年齢が延長されることが予想される我が国において対策が重要となると考える。今後は調査を実施した企業において,腰痛予防,改善のための介入を実施する予定である。
【理学療法学研究としての意義】同一企業内にて高い回収率で腰痛に関する調査を実施でき,今後の産業理学療法介入を展開する際の基礎資料となった。本研究の結果は,他の企業への介入を行う際にも一例として示すことができ,非常に有益と考える。