[0488] 脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形患者におけるspinopelvic balanceと股関節可動域との関連性
キーワード:脊椎後弯変形患者, spinopelvic balance, 股関節可動域
【はじめに,目的】
医師の腰部変性疾患に対する治療指標の一つとして,spinopelvic balance評価の重要性が取り上げられており,立位や座位での計測が盛んに行われている。
第48回本学会にて,我々は腰部変性疾患患者のspinopelvic balanceと股関節可動域との関連性を検討し,仙骨傾斜角(Sacral Slope以下:SS)と股関節内旋可動域の関連性を報告した。
また近年,脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形患者におけるspinopelvic balance不良例は,QOLの低下につながるとの報告がなされており,QOL・身体機能面の改善においても,理学療法士の介入の重要性を示唆する研究が散見される。
本研究は,脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形患者におけるspinopelvic balanceと股関節可動域との関連性を調査し,同疾患の身体機能面の改善における理学療法士介入の重要性を検証することである。
【方法】
対象は当院にて脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形と診断された患者20名(男性:4名,女性:16名,年齢:74.2±6.8歳,身長:152.2±6.9cm,体重:49.1±7.3kg)。
当院腰部X線評価時に撮影した腰椎伸展・屈曲位の画像から,Legayeらが提唱するspinopelvic balanceのパラメーターであるSS,骨盤傾斜角(Pelvic Tilt以下:PT),腰椎前弯角(Lumber Lordosis以下:LL)をNIH社製画像処理ソフトウェアImage Jにて計測した。
また,対象患者の制限が強い側の股関節可動域を日本整形外科学会制定の方法に準じて計測した。
画像より計測した腰椎伸展・屈曲位それぞれのSS,PT,LL値と,2肢位間のSS,PT,LL値の変化量を算出。測定した制限側股関節各可動域と各パラメーター間,腰椎伸展・屈曲位での各パラメーター間の相関関係をスピアマンの順位相関関係数検定(統計解析Statcel,有意水準5%未満)にて統計処理した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に準じ,研究内容に関しては患者の了承を得て実施している。
【結果】
SSの変化量と股関節伸展可動域間で中等度の正の相関(rs=0.55 P<0.05),股関節伸展位での内旋可動域間で中等度の正の相関(rs=0.56 P<0.05)を認めた。
PT変化量と股関節伸展可動域間で中等度の正の相関(rs=0.52 P<0.05)を認めた。
LL変化量と股関節伸展可動域間で中等度の正の相関(rs=0.63 P<0.01)を認めた。
また,
SS・PTの変化量間で非常に強い負の相関(rs=-0.86 P<0.01)
SS・LLの変化量間で中等度の正の相関(rs=0.66 P<0.01)
PT・LLの変化量間で中等度の負の相関(rs=-0.60 P<0.01)を認めた。
【考察】
吉田らは,脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形の進行における下肢への影響として,脊柱後弯変形により骨盤後傾・下降性運動連鎖にて股関節は屈曲・外転・外旋位,および膝関節は屈曲位を呈しやすくなる傾向にあることを述べている。
今回の結果から推察されることとして,前述した姿勢保持が長期化すれば,膝関節・股関節伸展,伸展位での回旋(特に内旋)可動域制限が生じ,脊椎・骨盤帯の機能低下の代償姿勢を呈してしまうことが考えられる。
代償による股関節伸展可動域の低下は,立位での姿勢制御においても腰椎の後弯化が生じることで,腸腰筋の機能低下を引き起こすことが推察される。吉田らは前述した姿勢にて,歩行時に股関節の屈曲角度が不足しやすく,段差越え時につまずき転倒しやすくなると述べており,歩行機能にも大きな影響を与えることとなる。
さらに,石川らは重心動揺計で測定した姿勢不安定性と脊柱アライメントとの関連で,腰椎後弯角と重心動揺は有意な正の相関を示していると報告している。下肢機能の低下は,身体活動性の低下からQOLの低下を引き起こす要因にもなることが考えられる。今回の結果から,股関節可動域制限は転倒,歩行スピード低下,立ち上がり等の基本動作遂行不良の因子としての可能性も示唆された。
今後の研究課題としては,同疾患患者の歩行スピードや立ち上がり動作等の股関節周囲筋の筋活動を調査し,関節可動域制限との関連性を調査すること。また,実際の運動療法場面において股関節可動域の拡大,可動域維持を目的とした運動療法を行うことで,実際の治療効果より歩行スピード,基本動作時の筋活動など身体機能への変化が生じるかの検証を行っていく。
さらには,spinopelvic balanceの変化やQOLアウトカム評価における変化等を調査し,より詳細な検証を行っていく。
【理学療法学研究としての意義】
脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形患者の治療において,股関節伸展・伸展位での内旋可動域の拡大を中心とした運動療法を展開していくことが,同疾患の機能面の改善の一助となる可能性があることが示唆された。
医師の腰部変性疾患に対する治療指標の一つとして,spinopelvic balance評価の重要性が取り上げられており,立位や座位での計測が盛んに行われている。
第48回本学会にて,我々は腰部変性疾患患者のspinopelvic balanceと股関節可動域との関連性を検討し,仙骨傾斜角(Sacral Slope以下:SS)と股関節内旋可動域の関連性を報告した。
また近年,脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形患者におけるspinopelvic balance不良例は,QOLの低下につながるとの報告がなされており,QOL・身体機能面の改善においても,理学療法士の介入の重要性を示唆する研究が散見される。
本研究は,脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形患者におけるspinopelvic balanceと股関節可動域との関連性を調査し,同疾患の身体機能面の改善における理学療法士介入の重要性を検証することである。
【方法】
対象は当院にて脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形と診断された患者20名(男性:4名,女性:16名,年齢:74.2±6.8歳,身長:152.2±6.9cm,体重:49.1±7.3kg)。
当院腰部X線評価時に撮影した腰椎伸展・屈曲位の画像から,Legayeらが提唱するspinopelvic balanceのパラメーターであるSS,骨盤傾斜角(Pelvic Tilt以下:PT),腰椎前弯角(Lumber Lordosis以下:LL)をNIH社製画像処理ソフトウェアImage Jにて計測した。
また,対象患者の制限が強い側の股関節可動域を日本整形外科学会制定の方法に準じて計測した。
画像より計測した腰椎伸展・屈曲位それぞれのSS,PT,LL値と,2肢位間のSS,PT,LL値の変化量を算出。測定した制限側股関節各可動域と各パラメーター間,腰椎伸展・屈曲位での各パラメーター間の相関関係をスピアマンの順位相関関係数検定(統計解析Statcel,有意水準5%未満)にて統計処理した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に準じ,研究内容に関しては患者の了承を得て実施している。
【結果】
SSの変化量と股関節伸展可動域間で中等度の正の相関(rs=0.55 P<0.05),股関節伸展位での内旋可動域間で中等度の正の相関(rs=0.56 P<0.05)を認めた。
PT変化量と股関節伸展可動域間で中等度の正の相関(rs=0.52 P<0.05)を認めた。
LL変化量と股関節伸展可動域間で中等度の正の相関(rs=0.63 P<0.01)を認めた。
また,
SS・PTの変化量間で非常に強い負の相関(rs=-0.86 P<0.01)
SS・LLの変化量間で中等度の正の相関(rs=0.66 P<0.01)
PT・LLの変化量間で中等度の負の相関(rs=-0.60 P<0.01)を認めた。
【考察】
吉田らは,脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形の進行における下肢への影響として,脊柱後弯変形により骨盤後傾・下降性運動連鎖にて股関節は屈曲・外転・外旋位,および膝関節は屈曲位を呈しやすくなる傾向にあることを述べている。
今回の結果から推察されることとして,前述した姿勢保持が長期化すれば,膝関節・股関節伸展,伸展位での回旋(特に内旋)可動域制限が生じ,脊椎・骨盤帯の機能低下の代償姿勢を呈してしまうことが考えられる。
代償による股関節伸展可動域の低下は,立位での姿勢制御においても腰椎の後弯化が生じることで,腸腰筋の機能低下を引き起こすことが推察される。吉田らは前述した姿勢にて,歩行時に股関節の屈曲角度が不足しやすく,段差越え時につまずき転倒しやすくなると述べており,歩行機能にも大きな影響を与えることとなる。
さらに,石川らは重心動揺計で測定した姿勢不安定性と脊柱アライメントとの関連で,腰椎後弯角と重心動揺は有意な正の相関を示していると報告している。下肢機能の低下は,身体活動性の低下からQOLの低下を引き起こす要因にもなることが考えられる。今回の結果から,股関節可動域制限は転倒,歩行スピード低下,立ち上がり等の基本動作遂行不良の因子としての可能性も示唆された。
今後の研究課題としては,同疾患患者の歩行スピードや立ち上がり動作等の股関節周囲筋の筋活動を調査し,関節可動域制限との関連性を調査すること。また,実際の運動療法場面において股関節可動域の拡大,可動域維持を目的とした運動療法を行うことで,実際の治療効果より歩行スピード,基本動作時の筋活動など身体機能への変化が生じるかの検証を行っていく。
さらには,spinopelvic balanceの変化やQOLアウトカム評価における変化等を調査し,より詳細な検証を行っていく。
【理学療法学研究としての意義】
脊椎圧迫骨折後の脊椎後弯変形患者の治療において,股関節伸展・伸展位での内旋可動域の拡大を中心とした運動療法を展開していくことが,同疾患の機能面の改善の一助となる可能性があることが示唆された。