第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節16

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (運動器)

座長:青木利彦(住友病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0727] 人工膝関節置換術後に生じた伏在神経膝蓋下枝障害に対し神経腫切除術に至った5例

伊藤直之1, 久保憂弥1, 尾島朋宏2 (1.福井総合病院リハビリテーション課, 2.福井総合病院整形外科)

Keywords:人工膝関節置換術, 伏在神経膝蓋下枝障害, 神経腫

【はじめに】人工膝関節置換術(以下,TKA)後の疼痛の残存は,患者満足度を低下させる。疼痛の原因は様々であるが,伏在神経膝蓋下枝障害もその原因の一つに挙げられている。TKA後の伏在神経膝蓋下枝障害の発生頻度は70~100%であり,その症状は自然経過で改善している症例が多いと報告されている。一方,異常感覚や疼痛が強く術後満足度や日常生活に影響した重症例は4~10%に認められる。今回,TKA後に伏在神経膝蓋下枝障害を呈し,神経腫切除術に至った症例を経験したため,その症状の特徴と評価内容について提示する。
【方法】対象は,TKAを施行した5例である。平均年齢は74.6±4.4歳であり,性別は全例女性であった。3例は当院で横皮切でのTKAを施行し,2例は他院で縦皮切でのTKAを施行した。TKA施行から神経腫切除術までの期間は平均1.8±1.1年であった。全例,膝関節前面に疼痛の訴えを認めたため精査入院となり,主治医の指示により理学療法評価を施行した。評価は,感覚検査と圧痛所見,Visual Analogue Scale(以下,VAS)にて疼痛検査を実施した。
【説明と同意】本発表に対し,対象者には書面にて十分に説明を行った後,同意を得た。
【結果】対象者の主訴は,膝関節前面遠位部の安静時痛,膝関節屈伸時や歩行時の運動時痛であった。感覚検査においては,全例に伏在神経膝蓋下枝の支配領域に異常感覚が認められ,疼痛としての自覚症状が認められた。5例のVAS平均値は9.2±1.0cmであった。訴えとしては,「触れるだけで痛い」,「カッターで切られた感じの痛みがする」,「寝ていても疼くように痛い」等であった。また,圧痛所見においても全例に膝関節前面遠位内側部の一点に著明な圧痛を認めた。以上の理学療法評価を基に,主治医と協議し圧痛部位へのキシロカインテストを試みた。その結果,キシロカインテスト後のVAS平均値は2.2±0.7cmであり,全例疼痛は半減以上の改善を認めた。以上の評価結果より,観血的治療の適応と判断された。術中所見では,4例に圧痛を認めた部位に神経腫の形成,皮下組織と癒着が認められ,神経腫切除と神経剥離が施行された。1例のみ明らかな神経腫の形成は認めなかった。術後経過では,VAS平均値は0.4±0.8cmに改善し,その中でも神経腫を認めた4例ではVAS0cmに改善し,異常感覚と圧痛の消失が認められた。また,神経腫の形成を認めなかった1例は,VAS2.0cmの疼痛が残存した。
【考察】今回の対象者に生じた神経腫は,神経の連続性が断たれた場合にその中枢断端に生じるTerminal branch neuromaに分類されると考えられる。この病態は,四肢の運動時や皮膚を通しての外界からの刺激が,知覚神経末端を刺激することにより激しい疼痛を起こすとされており,今回の評価結果に一致するものと考えられる。TKAにおける伏在神経膝蓋下枝の損傷は,皮膚切開や関節展開により生じることが報告されている。そして,そのほとんどの症状は一過性で徐々に回復する例が多いとされている。しかし,頻度は少ないが今回の対象者の様に,神経腫を伴う伏在神経膝蓋下枝障害が生じる可能性が明らかとなり,TKA後の疼痛の発生因子の一つとして念頭に置く必要があると考える。症状の根治には,理学療法のみでは限界があり,観血的治療が有用であると考えられる。観血的治療の適応と判断するための評価としては,キシロカインテストによる疼痛の改善が必要とされている。よって,異常感覚や著しい圧痛所見の有無のチェック等,理学療法評価が重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】今回の事例は高頻度で発生するものではないが,TKA後の疼痛の原因の一つして認識されていくと共に,TKA後の遺残疼痛の治療の一助になることを期待する。