[0744] 当院における心臓リハビリテーションの効果
キーワード:心臓リハビリテーション, 運動機能, バランス能力
【はじめに,目的】
当院は2011年4月より回復期・維持期を中心とした心臓リハビリテーションセンターを開設し,効果的,かつ安全な心臓リハビリテーション(以下,心リハ)の実施を心掛けてきた。今後さらに効果的な心リハを実施するために,当院における心リハの効果を運動機能変化より把握し,集団運動療法プログラムの再考を試みた。
【方法】
2011年4月~2013年6月に回復期心リハを入院にて導入し,通院心リハにて150日間継続可能であった60名のうち,心リハ導入時と6ヶ月後の運動機能測定が可能であった31名(男性17名,女性14名,平均年齢72.4±6.4歳)を対象とした。測定項目は,膝屈伸筋力(川崎重工業社製マイオレットRZ-450使用),6分間歩行距離,Timed Up & Go Test(以下,TUG),Functional Reach Test(以下,FRT)とした。対象者の心リハ導入時運動機能と導入6ヶ月後の比較検討を行った。統計的検討はWilcoxon符号付き順位和検定を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に測定データの一部を使用して学会発表することを説明し,同意を得た。また,データの管理は個人情報保護法を遵守した。
【結果】
心リハ導入時の運動機能は,右膝屈曲筋力31.5±12.5N,左膝屈曲筋力31.8±11.6N,右膝伸展筋力56.6±28.0N,左膝伸展筋力59.6±24.8N,6分間歩行距離387.7±71.2m,TUG8.6±2.0秒,FRT28.5±8.3cmであった。6ヶ月後の運動機能は,右膝屈曲筋力40.7±16.6N(p<0.01),左膝屈曲筋力40.7±14.7N(p<0.01),右膝伸展筋力67.0±29.3N(p<0.05),左膝伸展筋力68.6±27.4N(p<0.05),6分間歩行距離416.9±77.4m(p<0.01),TUG7.9±1.8秒(p<0.01),FRT29.8±5.4cm(p=0.38)であった。膝屈伸筋力,6分間歩行距離,TUGでは有意な改善を認め,FRTにおいては有意な改善を認めなかった。
【考察】
心リハにおける集団運動療法の中軸は,現状では有酸素運動や筋力増強運動である。現プログラムでは,膝屈伸筋力・6分間歩行距離・TUGにおいて有意な改善を示したことから,当院の集団運動療法が運動機能向上に有効であることが示された。しかし,回復期・維持期心リハは,運動耐容能や筋力の増加だけが目的ではなく,QOLの改善と心疾患の再発を予防し,死亡率を減少させることも重要である。今後は,MOS 36-item short form health survey(SF-36)などのQOL評価を並行して行い,運動機能だけでなく包括的な評価が必要である。FRTにおいては有意な改善を認めなかったが,70~87歳の基準値が25~33cmと報告されていることから年齢相応の能力は維持できている。一方,デイサービスを利用している虚弱高齢者に3ヶ月間の漸増運動を中心とした集団運動を実施した結果,FRTに有意な改善を認めたという報告や高齢虚血性心疾患患者に集団運動療法を実施した結果,退院後3ヶ月でFRTが有意に増加したという報告もみられる。TUGとFRTは共にバランス能力を示す指標である。TUGは新しい支持基底面上への重心移動をみる検査であるのに対し,FRTは支持基底面を変更しない状態で前方への重心移動をみる検査である。当院の集団運動療法では,フロントランジとサイドランジを実施しており,それらがTUGに関係するバランス能力の改善をもたらしたと考えられる。今後,FRTの改善を認めなかった結果から,支持基底面を規定した状態での上下・前後・左右へのバランス練習,支持基底面を狭小化させて姿勢を保持する片脚立位保持練習,タンデム肢位でのバランス練習などの追加でFRTの改善が望まれる。加えて,高齢心疾患患者の身体活動時間が筋力やバランス能力の影響を受けることやバランス能力や筋力が歩行能力を介して運動耐容能に影響することが報告されている。前述したようなバランス練習を追加することは,活動量や運動耐容能の維持・向上につながり,心疾患再発予防の観点からも重要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
心リハにおける集団運動療法の効果判定には,定期的な運動機能測定が必要である。測定項目には,バランス能力の良否を判定できる簡便な測定項目を包含すべきで,それにより問題点の明確化とプログラム変更の裏付けとなる。
当院は2011年4月より回復期・維持期を中心とした心臓リハビリテーションセンターを開設し,効果的,かつ安全な心臓リハビリテーション(以下,心リハ)の実施を心掛けてきた。今後さらに効果的な心リハを実施するために,当院における心リハの効果を運動機能変化より把握し,集団運動療法プログラムの再考を試みた。
【方法】
2011年4月~2013年6月に回復期心リハを入院にて導入し,通院心リハにて150日間継続可能であった60名のうち,心リハ導入時と6ヶ月後の運動機能測定が可能であった31名(男性17名,女性14名,平均年齢72.4±6.4歳)を対象とした。測定項目は,膝屈伸筋力(川崎重工業社製マイオレットRZ-450使用),6分間歩行距離,Timed Up & Go Test(以下,TUG),Functional Reach Test(以下,FRT)とした。対象者の心リハ導入時運動機能と導入6ヶ月後の比較検討を行った。統計的検討はWilcoxon符号付き順位和検定を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に測定データの一部を使用して学会発表することを説明し,同意を得た。また,データの管理は個人情報保護法を遵守した。
【結果】
心リハ導入時の運動機能は,右膝屈曲筋力31.5±12.5N,左膝屈曲筋力31.8±11.6N,右膝伸展筋力56.6±28.0N,左膝伸展筋力59.6±24.8N,6分間歩行距離387.7±71.2m,TUG8.6±2.0秒,FRT28.5±8.3cmであった。6ヶ月後の運動機能は,右膝屈曲筋力40.7±16.6N(p<0.01),左膝屈曲筋力40.7±14.7N(p<0.01),右膝伸展筋力67.0±29.3N(p<0.05),左膝伸展筋力68.6±27.4N(p<0.05),6分間歩行距離416.9±77.4m(p<0.01),TUG7.9±1.8秒(p<0.01),FRT29.8±5.4cm(p=0.38)であった。膝屈伸筋力,6分間歩行距離,TUGでは有意な改善を認め,FRTにおいては有意な改善を認めなかった。
【考察】
心リハにおける集団運動療法の中軸は,現状では有酸素運動や筋力増強運動である。現プログラムでは,膝屈伸筋力・6分間歩行距離・TUGにおいて有意な改善を示したことから,当院の集団運動療法が運動機能向上に有効であることが示された。しかし,回復期・維持期心リハは,運動耐容能や筋力の増加だけが目的ではなく,QOLの改善と心疾患の再発を予防し,死亡率を減少させることも重要である。今後は,MOS 36-item short form health survey(SF-36)などのQOL評価を並行して行い,運動機能だけでなく包括的な評価が必要である。FRTにおいては有意な改善を認めなかったが,70~87歳の基準値が25~33cmと報告されていることから年齢相応の能力は維持できている。一方,デイサービスを利用している虚弱高齢者に3ヶ月間の漸増運動を中心とした集団運動を実施した結果,FRTに有意な改善を認めたという報告や高齢虚血性心疾患患者に集団運動療法を実施した結果,退院後3ヶ月でFRTが有意に増加したという報告もみられる。TUGとFRTは共にバランス能力を示す指標である。TUGは新しい支持基底面上への重心移動をみる検査であるのに対し,FRTは支持基底面を変更しない状態で前方への重心移動をみる検査である。当院の集団運動療法では,フロントランジとサイドランジを実施しており,それらがTUGに関係するバランス能力の改善をもたらしたと考えられる。今後,FRTの改善を認めなかった結果から,支持基底面を規定した状態での上下・前後・左右へのバランス練習,支持基底面を狭小化させて姿勢を保持する片脚立位保持練習,タンデム肢位でのバランス練習などの追加でFRTの改善が望まれる。加えて,高齢心疾患患者の身体活動時間が筋力やバランス能力の影響を受けることやバランス能力や筋力が歩行能力を介して運動耐容能に影響することが報告されている。前述したようなバランス練習を追加することは,活動量や運動耐容能の維持・向上につながり,心疾患再発予防の観点からも重要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
心リハにおける集団運動療法の効果判定には,定期的な運動機能測定が必要である。測定項目には,バランス能力の良否を判定できる簡便な測定項目を包含すべきで,それにより問題点の明確化とプログラム変更の裏付けとなる。