第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節7

2014年5月31日(土) 13:00 〜 13:50 第11会場 (5F 501)

座長:田中尚喜(東京新宿メディカルセンターリハビリテーション室)

運動器 口述

[0920] 大腿骨近位部骨折患者における術後早期からの乳清タンパク摂取と運動の併用が筋力改善に与える影響

新津雅也1, 一之瀬大資1, 廣岡卓1, 満冨一彦1, 山崎薫2 (1.磐田市立総合病院リハビリテーション技術科, 2.磐田市立総合病院整形外科)

キーワード:大腿骨近位部骨折, 乳清タンパク, 術後早期

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折患者の多くは手術をされ,早期からリハビリテーション(リハビリ)を行う。しかし,手術による炎症反応の増加,活動量の低下,食事量低下による栄養不良,高齢などの理由からセラピストが介入を行っても身体機能の改善に難渋する場合がある。
近年,身体機能の改善には運動に加えて栄養摂取が重要であると報告されており,身体機能に大きく関わる筋力の改善にはタンパク質の摂取が必要とされている。特に,乳清タンパク(Whey Protein)は必須アミノ酸の含有量が多いことから,その効果は高いとされている。しかし,Whey Proteinの効果として,タンパク同化作用が低下している高齢者に短期間で筋力や身体機能を向上させるかは不明確である。以上のことから,本研究では術後早期より2週間のWhey Protein摂取とリハビリの併用が筋力改善に影響を及ぼすのか明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は大腿骨近位部骨折を受傷し当院で手術を施行した患者20名とした。この20名をリハビリとWhey Protein(ザバス,明治)の摂取を併用するWhey Protein群10名(年齢79.5±9.9歳),リハビリのみを実施する対照群10名(年齢78.7±7.2歳)の2群に,くじ引きを用いて無作為に分類した。なお,受傷前のADLで歩行不可,重度の糖尿病や肝疾患,腎疾患,嚥下障害等を有する,従命困難な認知症を有する,Dr.の許可を得られなかった場合は除外対象とした。リハビリは起立-着席練習と歩行練習を中心に実施した。Whey Protein群ではリハビリ前後で合わせて30gのWhey Proteinを摂取した。評価項目は膝伸展筋力,血液検査データ(総蛋白,血清アルブミン),Barthel Index(BI)とした。膝伸展筋力の測定は患側と健側に対して多用途筋機能評価運動装置(BIODEX4.0,BIODEX社)を用い,設定は等速性運動60°/secの最大トルク体重比(Nm/kg×100%)及び300°/secの総仕事量(J)とし,それぞれを筋出力と筋持久力の評価指標とした。評価は術後介入2日目を初回,1週後を中間,2週後を最終とし合計3回実施した。
解析については,各評価項目に対し初回,中間,最終評価の変化量を算出した。統計学的解析は膝伸展筋力と血液検査データの変化量を群間比較するために対応のないt検定を実施し,BIの各項目及び合計点に対してはMann-WhitneyのU検定を実施した。なお,解析にはSPSS19.0を使用し,有意水準を危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,すべての対象者に対して書面にて研究の目的および測定に関する説明を行い,口頭と書面にて研究参加の同意を得て実施した。また,当院の倫理委員会より承認を得て実施した。
【結果】
リハビリの内容は両群で有意差を認めなかった。膝伸展筋力については,患側で60°/secの条件にて初回と最終評価との最大トルクの変化量に対して両群で有意差を認めた(Whey Protein群15.4±9.3%,対照群6.2±6.2%,p<0.05)。また,健側において60°/secの条件で中間と最終評価との最大トルクの変化量に対して両群で有意差を認めた(Whey Protein群11.5±11.1%,対照群0.9±9.4%,p<0.05)。BIについては,移乗で初回と中間評価の変化量及び初回と最終評価の変化量に対して両群で有意差を認めた(初回-中間Whey Protein群5点,範囲0-5点,対照群0点,範囲0-5点,p<0.05,初回-最終Whey Protein群5点,範囲0-10点,対照群0点,範囲0-5点,p<0.05)。その他の項目に対して両群で有意差は認められなかった。
【考察】
本研究より大腿骨近位部骨折患者において,術後早期からリハビリとWhey Proteinを併用することで,2週間後の筋力改善の程度がより高くなることが明らかとなった。まず,患側の膝伸展筋力について,術後は炎症反応の増加によりタンパク異化が促進される状態となるが,Whey Proteinを摂取したことでタンパク同化作用が向上し,異化優位の状態を防ぐことができた可能性がある。
また,患側と健側の両方に言えることとして,Whey Proteinの摂取を運動前後で行ったことにより,効率よく筋力が改善されたと考える。先行研究より,運動前後のアミノ酸の摂取は筋合成能を効率良く高めるとされており,アミノ酸摂取のみ,運動のみの場合と比較して筋合成能をより高くすることが報告されている。また,Whey Proteinを用いた場合も同様な結果を得られたことが報告されている。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では大腿骨近位部骨折患者において,急性期に集中的なWhey Proteinの摂取を運動と併用することで,2週間という短期間で筋力を効率的に改善させ,それに伴いADLの向上にも寄与することができた。本内容はリハビリの効果を高くするための一つの方法として臨床応用できると考える。