[1049] 環軸椎回旋位固定に対する理学療法アプローチの一考察
キーワード:環軸椎回旋位固定, Glisson牽引, 3D-CT
【はじめに,目的】
環軸椎回旋位固定(atlantoaxial rotatory fixation:以下AARF)は1978年にFielding1)らによる病態分類が提唱された当時から治療法は大きく変わっておらず今日に至っている。また本疾患に関する理学療法士の報告は,数少ない。そこでAARFを発症した患児を担当し理学療法評価およびCT画像を元に治療を行ったので,若干の考察を加え報告する。
【方法】
症例は10歳女児。誘因無く左回旋位から動かなくなり,他院受診するが変化無く発症17日目に当院受診,AARFと診断され同日入院となる。頭頚部は左回旋位45度位であり,cock robin positionを呈しており頚部の自動運動は頚部筋群に疼痛が出現する状態であった。治療方針はGlisson牽引で整復不可であればハローベストを検討するとし,持続牽引で入院1~2週を経過観察となった。Glisson牽引の設定は,牽引器具とベッドが干渉しないことを条件に,頚部前屈10度で頚椎が垂直となるように,ベッドギャッジ角は8度で設定した。患児の体重が49kgであり体重の約10%として頭部の重さを5kgで牽引を設定したが疼痛を伴うため4kgから開始した。牽引時間は原則食事・シャワー浴以外は持続牽引を行い,1日トータル20時間以上を目標とした。評価項目は頚部の左右回旋可動域,CT画像上の矢状面で環椎・軸椎の回旋角度を測定した。関節可動域訓練においては,頚椎のような自由度が多い関節のため,環軸関節を構成する第3頚椎を固定させるため触診可能な第3~7頚椎棘突起を中間位として保持し,対側へ軸椎が動くよう自動介助運動で回旋運動を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告に関することで使用する情報は本人・家族に個人情報保護法に基づいて個人情報を厳守する説明・同意を得た。
【結果】
牽引開始時の環軸椎の捻転差は34.5度であった。開始4日目で疼痛軽減し,自動運動で左右回旋約15度動かせることができるようになったがCT上では捻転差は33.6度で,ごく僅かな変化であり下位頚椎による代償動作で見かけ上の動きとなっていた。開始13日目で捻転差は23.5度,同日理学療法(従重力位で自動介助運動)開始となる。開始20日目時点で20.2度と大きな変化が見られなくなり,牽引kg数を1kg増加して5kgで牽引を行った。開始25日目には捻転差は11.8度と大きく改善され,開始28日目には約6.4度,関節可動域は自動運動で頚部右回旋65度,左回旋60度まで改善され,Glisson牽引と運動療法で整復位を得ることができた。
【考察】
AARFの治療において,今城ら2)は1日20時間以上の牽引治療が有効であったと報告があり,本例においても同様の治療計画を立案し,頭部の重さを考える上では牽引のkg数を考慮すべきと追加考察できた。また,理学療法士が普段行う表体上の可動域測定では環軸関節のような身体内部に位置する関節を測定するには限界があり,村角ら3)によれば3-D CTによる評価も有用であるとしている。徒手における自動介助時の下位頚椎の固定も牽引による伸張で関節面の離開後に軸椎の動きが生じていると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の教育課程における角度評価だけでは,体表上の判断となってしまう可能性があり,本病態のような体表から隠れた関節では理学療法においてもCT所見から治療方針を考察することでき,新たなエビデンスの構築になると考えられる。
1)Fielding,J.W,&Hawkins,RJ.:Atlantoaxial rotatory fixation JBoneJointSurg 59-A:37-44,1977。
2)今城靖明,加藤圭彦,寒竹司,鈴木秀典,田口敏彦。発症後1ヶ月以上経過した環軸関節回旋位固定に対する保存的治療。中部整災誌。2011;54:139-140
3)村角恭一,川内義久,鮫島浩司,宮口文宏,環軸椎回旋位固定における3-D CTの有用性。整外と災害。2000;49:982-4
環軸椎回旋位固定(atlantoaxial rotatory fixation:以下AARF)は1978年にFielding1)らによる病態分類が提唱された当時から治療法は大きく変わっておらず今日に至っている。また本疾患に関する理学療法士の報告は,数少ない。そこでAARFを発症した患児を担当し理学療法評価およびCT画像を元に治療を行ったので,若干の考察を加え報告する。
【方法】
症例は10歳女児。誘因無く左回旋位から動かなくなり,他院受診するが変化無く発症17日目に当院受診,AARFと診断され同日入院となる。頭頚部は左回旋位45度位であり,cock robin positionを呈しており頚部の自動運動は頚部筋群に疼痛が出現する状態であった。治療方針はGlisson牽引で整復不可であればハローベストを検討するとし,持続牽引で入院1~2週を経過観察となった。Glisson牽引の設定は,牽引器具とベッドが干渉しないことを条件に,頚部前屈10度で頚椎が垂直となるように,ベッドギャッジ角は8度で設定した。患児の体重が49kgであり体重の約10%として頭部の重さを5kgで牽引を設定したが疼痛を伴うため4kgから開始した。牽引時間は原則食事・シャワー浴以外は持続牽引を行い,1日トータル20時間以上を目標とした。評価項目は頚部の左右回旋可動域,CT画像上の矢状面で環椎・軸椎の回旋角度を測定した。関節可動域訓練においては,頚椎のような自由度が多い関節のため,環軸関節を構成する第3頚椎を固定させるため触診可能な第3~7頚椎棘突起を中間位として保持し,対側へ軸椎が動くよう自動介助運動で回旋運動を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告に関することで使用する情報は本人・家族に個人情報保護法に基づいて個人情報を厳守する説明・同意を得た。
【結果】
牽引開始時の環軸椎の捻転差は34.5度であった。開始4日目で疼痛軽減し,自動運動で左右回旋約15度動かせることができるようになったがCT上では捻転差は33.6度で,ごく僅かな変化であり下位頚椎による代償動作で見かけ上の動きとなっていた。開始13日目で捻転差は23.5度,同日理学療法(従重力位で自動介助運動)開始となる。開始20日目時点で20.2度と大きな変化が見られなくなり,牽引kg数を1kg増加して5kgで牽引を行った。開始25日目には捻転差は11.8度と大きく改善され,開始28日目には約6.4度,関節可動域は自動運動で頚部右回旋65度,左回旋60度まで改善され,Glisson牽引と運動療法で整復位を得ることができた。
【考察】
AARFの治療において,今城ら2)は1日20時間以上の牽引治療が有効であったと報告があり,本例においても同様の治療計画を立案し,頭部の重さを考える上では牽引のkg数を考慮すべきと追加考察できた。また,理学療法士が普段行う表体上の可動域測定では環軸関節のような身体内部に位置する関節を測定するには限界があり,村角ら3)によれば3-D CTによる評価も有用であるとしている。徒手における自動介助時の下位頚椎の固定も牽引による伸張で関節面の離開後に軸椎の動きが生じていると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の教育課程における角度評価だけでは,体表上の判断となってしまう可能性があり,本病態のような体表から隠れた関節では理学療法においてもCT所見から治療方針を考察することでき,新たなエビデンスの構築になると考えられる。
1)Fielding,J.W,&Hawkins,RJ.:Atlantoaxial rotatory fixation JBoneJointSurg 59-A:37-44,1977。
2)今城靖明,加藤圭彦,寒竹司,鈴木秀典,田口敏彦。発症後1ヶ月以上経過した環軸関節回旋位固定に対する保存的治療。中部整災誌。2011;54:139-140
3)村角恭一,川内義久,鮫島浩司,宮口文宏,環軸椎回旋位固定における3-D CTの有用性。整外と災害。2000;49:982-4