[1215] 足部形態が歩行時下肢関節に及ぼす影響
Keywords:外反母趾, 歩行, 下肢機能
【はじめに,目的】外反母趾や扁平足などの足部の形態異常の発生要因については,環境因子や性差,履物の影響など多くの因子が関与していると考えられている。理学療法の対象として多く経験する変形性膝関節症などは,多くの場合外反母趾や扁平足などの足部の変形を伴っており,理学療法として足部への運動療法や足底挿板療法などが実施されることは珍しくない。足部のアーチ低下が,歩行や走行時の下肢の運動やパフォーマンスに与える影響についての報告はいくつか散見されるが,変形性関節症と足部の形態異常が相互にどのように関連し,発生に関与しているかなどのメカニズムについては一定の見解は得られておらず,興味深い。本研究では,扁平足やハイアーチなどの足部のアーチ構造の異常のみならず,外反母趾の評価指標である第1趾側角度に着目し,歩行中の足,膝,股関節の使い方について三次元動作解析装置を用いて検討を行ったので報告する。
【方法】対象は,若年健常成人9名18足(女性9名,平均年齢22.0±1.94歳)とした。足部形態計測項目は,内側縦アーチ高率(舟状骨高(cm)/足長(cm)×100),第1趾側角度(第1中足骨外縁の接線と第1基節骨外縁の接線がなす角度),第5趾側角度(第5中足骨外縁の接線と第5基節骨外縁の接線がなす角度),Q-angle(膝蓋骨中点から上前腸骨棘を結んだ線と膝蓋骨中点と脛骨粗面結んだ線がなす角度)を人体計測器等を用いて計測した。また歩行計測では,三次元動作解析装置(ANIMA)と床反力計(ANIMA)を用い,被験者任意の歩行速度による自由歩行を計測した。被験者に貼付する反射マーカーは,左右の上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側上顆,外果,第5中足指節間関節の10点とした。得られた標点の位置データおよび床反力データから,床反力垂直成分のピーク値(立脚初期の第1期と立脚後期の第2期)における,股関節,膝関節,足関節の三平面内の総合モーメントを算出した。解析項目は,各足部形態測定間の相関関係と,足部形態と床反力と床反力第1期,第2期ピーク値における各関節モーメントとの相関関係とし,有意水準は危険率5%(p<0.05)とした。また,第1趾側角度の値により16°以上の群をA群,16°以下の群をB群と分類し,2群間における各足部形態計測値および各関節モーメントをMann-whitneyのU検定を用いて比較検討した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】実施にあたっては,所属施設の倫理審査委員会の承認(受付番号:E13-0002)を得て行い,被験者には事前に十分な説明と書面による同意を得た上で行った。
【結果】各足部形態と関節モーメント,床反力との関係については,第1趾側角度とアーチ高率(r=-0.6530),第1趾側角度と第1期足関節モーメント(r=-0.5748),第1趾側角度と第2期足関節モーメントとの間に統計学的に有意な負の相関が認められた。その他の項目間に有意な相関は認められなかった。また,A群,B群間の比較については,アーチ高率ではA群(11.5±1.62%)はB群(15.3±1.30%)に比べ有意に低く,第1期足関節モーメントではA群(18.94±1.51Nm)はB群(24.40±3.66Nm)に比べ有意に低い値であった。その他の項目については,2群間に有意な差は認められなかった。
【考察】内側縦アーチと外反母趾角との関係については負の相関が認められると報告されており,今回の研究でも先行研究と同様の結果が得られた。さらに,歩行時の関節への負担度の指標としての関節モーメントと第1趾側角度との関係については,第1趾側角度が大きいほど,足関節モーメントは小さく,これは歩行時立脚期の足関節機能の低下を意味すると考えられた。第2期の足関節モーメント低下という現象は,第1趾側角度の増大,つまり外反母趾角の増大が歩行中の足部の蹴り出し力の低下を招いたためと考えられ,これは通常の臨床上での歩行分析においても容易に想像される。また,第1期の足関節モーメント低下の現象は,踵接地直後から立脚中期へ移行していく段階で,外反母趾に伴う母趾の支持性低下などによって,母趾又は足趾側へ重心を移動させていくことを抑制しているか,もしくは同様の理由により荷重のタイミングが遅延していることが考えられた。このことは,今後更なる詳細な解析により検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】今回,第1趾側角度の違いによって,歩行時の足関節の働きに違いが生ずることが示唆された。今後,さらに足部の形態異常と下肢関節の相互関係について研究を進めることにより,下肢関節疾患の治療方法や足部に対する装具療法,靴の選択などについて新たな提案をすることにつながると考える。
【方法】対象は,若年健常成人9名18足(女性9名,平均年齢22.0±1.94歳)とした。足部形態計測項目は,内側縦アーチ高率(舟状骨高(cm)/足長(cm)×100),第1趾側角度(第1中足骨外縁の接線と第1基節骨外縁の接線がなす角度),第5趾側角度(第5中足骨外縁の接線と第5基節骨外縁の接線がなす角度),Q-angle(膝蓋骨中点から上前腸骨棘を結んだ線と膝蓋骨中点と脛骨粗面結んだ線がなす角度)を人体計測器等を用いて計測した。また歩行計測では,三次元動作解析装置(ANIMA)と床反力計(ANIMA)を用い,被験者任意の歩行速度による自由歩行を計測した。被験者に貼付する反射マーカーは,左右の上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側上顆,外果,第5中足指節間関節の10点とした。得られた標点の位置データおよび床反力データから,床反力垂直成分のピーク値(立脚初期の第1期と立脚後期の第2期)における,股関節,膝関節,足関節の三平面内の総合モーメントを算出した。解析項目は,各足部形態測定間の相関関係と,足部形態と床反力と床反力第1期,第2期ピーク値における各関節モーメントとの相関関係とし,有意水準は危険率5%(p<0.05)とした。また,第1趾側角度の値により16°以上の群をA群,16°以下の群をB群と分類し,2群間における各足部形態計測値および各関節モーメントをMann-whitneyのU検定を用いて比較検討した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】実施にあたっては,所属施設の倫理審査委員会の承認(受付番号:E13-0002)を得て行い,被験者には事前に十分な説明と書面による同意を得た上で行った。
【結果】各足部形態と関節モーメント,床反力との関係については,第1趾側角度とアーチ高率(r=-0.6530),第1趾側角度と第1期足関節モーメント(r=-0.5748),第1趾側角度と第2期足関節モーメントとの間に統計学的に有意な負の相関が認められた。その他の項目間に有意な相関は認められなかった。また,A群,B群間の比較については,アーチ高率ではA群(11.5±1.62%)はB群(15.3±1.30%)に比べ有意に低く,第1期足関節モーメントではA群(18.94±1.51Nm)はB群(24.40±3.66Nm)に比べ有意に低い値であった。その他の項目については,2群間に有意な差は認められなかった。
【考察】内側縦アーチと外反母趾角との関係については負の相関が認められると報告されており,今回の研究でも先行研究と同様の結果が得られた。さらに,歩行時の関節への負担度の指標としての関節モーメントと第1趾側角度との関係については,第1趾側角度が大きいほど,足関節モーメントは小さく,これは歩行時立脚期の足関節機能の低下を意味すると考えられた。第2期の足関節モーメント低下という現象は,第1趾側角度の増大,つまり外反母趾角の増大が歩行中の足部の蹴り出し力の低下を招いたためと考えられ,これは通常の臨床上での歩行分析においても容易に想像される。また,第1期の足関節モーメント低下の現象は,踵接地直後から立脚中期へ移行していく段階で,外反母趾に伴う母趾の支持性低下などによって,母趾又は足趾側へ重心を移動させていくことを抑制しているか,もしくは同様の理由により荷重のタイミングが遅延していることが考えられた。このことは,今後更なる詳細な解析により検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】今回,第1趾側角度の違いによって,歩行時の足関節の働きに違いが生ずることが示唆された。今後,さらに足部の形態異常と下肢関節の相互関係について研究を進めることにより,下肢関節疾患の治療方法や足部に対する装具療法,靴の選択などについて新たな提案をすることにつながると考える。