[1221] 回復期病棟における運動器疾患患者の転倒恐怖感と歩行自立度との関連について
キーワード:転倒恐怖感, 歩行自立度, 運動器
【はじめに,目的】
近年,転倒恐怖感は,自己効力感や身体運動機能・身体活動量との関連が指摘されている。
Lachmanらは転倒恐怖感が日常生活のみならず社会交流や余暇活動等の活動を制限し,結果としてQOLを低下させるとしている。
転倒恐怖感は,日常生活動作における患者の心理的な不安を反映すると考えられる。しかし,転倒恐怖感に関する報告は施設入所者や地域在住高齢者を対象としたものが多く,運動器疾患を対象としたものや回復期病棟に入院中の患者における歩行自立度との関連を報告したものは少ない。
本研究では,当院回復期病棟に入院中の運動器疾患患者を対象とし,転倒恐怖感と歩行自立度との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,転倒により下肢,脊椎骨折を呈した患者15名(男性3名,女性12名,平均年齢78.3歳±13.1)である。転倒恐怖感があり,研究内容を理解でき,10m歩行,手放し立位保持が可能な者とした。
転倒恐怖感の指標としてModified-Fall Efficacy Scale(以下M-FES)を用いた。M-FESは14項目からなる活動を転倒することなく行う自信の程度を測定する尺度である。対象者に0点(全く自信がない)~10点(完全に自信がある)より決定してもらい合計点数(0~140点)が低いほど転倒恐怖感の程度が強いことを示す。歩行自立度の評価としては,M-FES検査日時点でのFunctional Independence Measure(以下FIM)の歩行項目点数を用いた。
統計学的解析は,M-FESの下位項目それぞれとFIMの歩行項目点数との関連についてSpearmanの順位相関係数を用いた。また,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に倫理的配慮と本研究の概要を説明,同意を得た上で本調査を実施した。
【結果】
対象15名中,M-FESが140点満点の者2名は転倒恐怖感なしと判断し対象から除外した。
M-FESの下位項目と歩行自立度との相関係数を求めた結果,「棚やタンス・物置きの所まで行く(r=0.76,p<0.01)」「家の廊下を歩く(r=0.74,p<0.01)」「来客や電話に応じる(r=0.74,p<0.01)」「横断歩道を渡る(r=0.72,p<0.01)」に有意な強い正の相関,「食事の準備(r=0.62,p<0.05)」「衣服の着脱(r=0.56,p<0.05)」「玄関や勝手口の段差を越す(r=0.58,p<0.05)」に有意な中等度の正の相関を認めた。その他の項目「風呂に入る」「布団に入る,起き上がる」「椅子に掛ける,立ち上がる」「軽い家事を行う」「軽い買い物に行く」「バスや電車を利用する」「庭いじり,洗濯物を干す」では有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究結果から,歩行自立度が高い程,歩行に関連する動作の転倒恐怖感が低い傾向にあることを示唆している。鈴木らは転倒恐怖感を感じているADL及びIADLの項目に対して,より多くの成功体験と正のフィードバック効果をもたらす言葉がけを与えることができれば,転倒恐怖感の軽減が効率的に図られると報告している。本研究においては対象の多くが病棟歩行が自立であり,食事,排泄時など日常的に歩行する機会が多くあった。全例において入院中の転倒はなく,歩行に関連する動作に転倒恐怖感が低かったと考えられる。
一方で,日常生活で行う機会の少ない動作は相関を認めていない。「軽い家事を行う」「軽い買い物に行く」「バスや電車を利用する」「庭いじり,洗濯物を干す」動作は歩行よりも難易度が高い。また,対象の中には受傷前から必要でなく,行っていなかった動作の可能性がある。「風呂に入る」は対象によって跨ぎ動作や浴室内の移動に歩行を行っていたかどうかで難易度が大きく変わる。結果として,上記項目の動作は対象によって転倒恐怖感の程度にばらつきがあり,歩行自立度との相関を認めなかったと考えられる。「布団に入る,起き上がる」「椅子に掛ける,立ち上がる」動作は歩行に比べると難易度が低く,日常生活で起居・起立動作を行う機会が多かったと考えられるが,歩行自立度と相関を認めなかった。これは,本研究の対象者が10m歩行,手放し立位保持が可能な者であり,歩行自立度に関わらず対象すべてに転倒恐怖感が低かったためと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
我々は,退院後の転倒恐怖感に伴う生活範囲の狭小化による身体活動量やQOLの低下の予防のために回復期病棟入院中より転倒恐怖感の評価とアプローチが必要と考えられる。これは,転倒恐怖感がADL自立の阻害要因となっている可能性があることや,ADL自立であっても転倒恐怖感が強い患者が存在するためである。転倒恐怖感に対するアプローチの先行研究として注意課題を課したバランス練習や膝伸展筋力練習,ADL練習や生活環境設定等の報告がある。転倒恐怖感は様々な要因の影響を受ける事が考えられるため,個々の患者に対して適宜恐怖感の変化を確認しながら身体機能や注意機能,動作練習,環境設定などを選択していく必要があると考えられる。
近年,転倒恐怖感は,自己効力感や身体運動機能・身体活動量との関連が指摘されている。
Lachmanらは転倒恐怖感が日常生活のみならず社会交流や余暇活動等の活動を制限し,結果としてQOLを低下させるとしている。
転倒恐怖感は,日常生活動作における患者の心理的な不安を反映すると考えられる。しかし,転倒恐怖感に関する報告は施設入所者や地域在住高齢者を対象としたものが多く,運動器疾患を対象としたものや回復期病棟に入院中の患者における歩行自立度との関連を報告したものは少ない。
本研究では,当院回復期病棟に入院中の運動器疾患患者を対象とし,転倒恐怖感と歩行自立度との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,転倒により下肢,脊椎骨折を呈した患者15名(男性3名,女性12名,平均年齢78.3歳±13.1)である。転倒恐怖感があり,研究内容を理解でき,10m歩行,手放し立位保持が可能な者とした。
転倒恐怖感の指標としてModified-Fall Efficacy Scale(以下M-FES)を用いた。M-FESは14項目からなる活動を転倒することなく行う自信の程度を測定する尺度である。対象者に0点(全く自信がない)~10点(完全に自信がある)より決定してもらい合計点数(0~140点)が低いほど転倒恐怖感の程度が強いことを示す。歩行自立度の評価としては,M-FES検査日時点でのFunctional Independence Measure(以下FIM)の歩行項目点数を用いた。
統計学的解析は,M-FESの下位項目それぞれとFIMの歩行項目点数との関連についてSpearmanの順位相関係数を用いた。また,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に倫理的配慮と本研究の概要を説明,同意を得た上で本調査を実施した。
【結果】
対象15名中,M-FESが140点満点の者2名は転倒恐怖感なしと判断し対象から除外した。
M-FESの下位項目と歩行自立度との相関係数を求めた結果,「棚やタンス・物置きの所まで行く(r=0.76,p<0.01)」「家の廊下を歩く(r=0.74,p<0.01)」「来客や電話に応じる(r=0.74,p<0.01)」「横断歩道を渡る(r=0.72,p<0.01)」に有意な強い正の相関,「食事の準備(r=0.62,p<0.05)」「衣服の着脱(r=0.56,p<0.05)」「玄関や勝手口の段差を越す(r=0.58,p<0.05)」に有意な中等度の正の相関を認めた。その他の項目「風呂に入る」「布団に入る,起き上がる」「椅子に掛ける,立ち上がる」「軽い家事を行う」「軽い買い物に行く」「バスや電車を利用する」「庭いじり,洗濯物を干す」では有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究結果から,歩行自立度が高い程,歩行に関連する動作の転倒恐怖感が低い傾向にあることを示唆している。鈴木らは転倒恐怖感を感じているADL及びIADLの項目に対して,より多くの成功体験と正のフィードバック効果をもたらす言葉がけを与えることができれば,転倒恐怖感の軽減が効率的に図られると報告している。本研究においては対象の多くが病棟歩行が自立であり,食事,排泄時など日常的に歩行する機会が多くあった。全例において入院中の転倒はなく,歩行に関連する動作に転倒恐怖感が低かったと考えられる。
一方で,日常生活で行う機会の少ない動作は相関を認めていない。「軽い家事を行う」「軽い買い物に行く」「バスや電車を利用する」「庭いじり,洗濯物を干す」動作は歩行よりも難易度が高い。また,対象の中には受傷前から必要でなく,行っていなかった動作の可能性がある。「風呂に入る」は対象によって跨ぎ動作や浴室内の移動に歩行を行っていたかどうかで難易度が大きく変わる。結果として,上記項目の動作は対象によって転倒恐怖感の程度にばらつきがあり,歩行自立度との相関を認めなかったと考えられる。「布団に入る,起き上がる」「椅子に掛ける,立ち上がる」動作は歩行に比べると難易度が低く,日常生活で起居・起立動作を行う機会が多かったと考えられるが,歩行自立度と相関を認めなかった。これは,本研究の対象者が10m歩行,手放し立位保持が可能な者であり,歩行自立度に関わらず対象すべてに転倒恐怖感が低かったためと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
我々は,退院後の転倒恐怖感に伴う生活範囲の狭小化による身体活動量やQOLの低下の予防のために回復期病棟入院中より転倒恐怖感の評価とアプローチが必要と考えられる。これは,転倒恐怖感がADL自立の阻害要因となっている可能性があることや,ADL自立であっても転倒恐怖感が強い患者が存在するためである。転倒恐怖感に対するアプローチの先行研究として注意課題を課したバランス練習や膝伸展筋力練習,ADL練習や生活環境設定等の報告がある。転倒恐怖感は様々な要因の影響を受ける事が考えられるため,個々の患者に対して適宜恐怖感の変化を確認しながら身体機能や注意機能,動作練習,環境設定などを選択していく必要があると考えられる。