[1395] 筋硬度・H波を用いた人工炭酸泉下腿浴の筋疲労回復効果の検討
Keywords:炭酸泉浴, 筋疲労, 筋硬度
【はじめに,目的】
現在,スポーツ現場では人工炭酸泉下腿浴(以下炭酸泉浴)を用いて,選手の筋疲労回復を行っている。筋疲労状態で炭酸泉浴を行うことで選手からの主観的な実感は報告されているが,客観的な筋疲労回復効果を示した研究は少ない。先行研究より炭酸泉全身浴はさら湯浴に比べ,脊髄前角細胞の興奮性低下に作用する可能性が示唆されている。本研究の目的は,現場重視の視点を持ち,下腿浴が客観的な筋疲労回復効果とパフォーマンス維持を両立させ得るか,筋硬度計・H波(Hoffman reflex)を用いて検証することである。
【方法】
対象は健常大学生10名(男6名,女4名:平均年齢21.5±0.7歳)とした。本研究では38℃の炭酸泉浴群とさら湯浴群の2条件を比較した。炭酸泉の作製は,高濃度人工炭酸泉製造装置(三菱レイヨン・エンジニアリング)を用い,濃度は1000ppmに調整した。入浴は両下腿部で行い,湯量は腓骨頭が浸水する高さとした。筋硬度の測定にはアスカーFP型硬度計FP38868(ASKER高分子計器株式会社)を使用した。測定部位については,ヒラメ筋は腓腹筋筋頭が分岐する部位から3~4cm末梢部,腓腹筋同部位から5~6cm中枢部で測定した。H波測定には,筋電計Neuropack8(日本光電社)を使用した。電気刺激は,膝下部中央より脛骨神経に与えた。H波の最大振幅は,M波の最大振幅で除して正規化(H/M比)し,指標とした。測定肢位はベッド上に腹臥位とし,頭部正中位,両上肢はベッド側面より下垂し,足関節下に枕を設置した。実験手順は炭酸泉浴群5人とさら湯浴群5人の2群にランダム化し,作成法を熟知した第三者が,検者および被験者を二重盲見化した上で,いずれかの浴水を作製した。筋硬度・H波測定はプレ,HU後,10分間の入浴後の3回行った。統計学的検定は,H/M比,ヒラメ筋硬度,腓腹筋硬度についてt検定を用いて以下の手順で行った。①HU効果の群間比較,②炭酸泉浴における介入前後比較,③さら湯浴における介入前後比較,④②と③においていずれも有意差が認められた場合のみ,入浴効果の群間比較で行った。統計解析ソフトにはStat View Version 5.0 softwareを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うに当たり,吉備国際大学研究倫理委員会の承認を受けた。対象者に対しては,本研究における趣旨の説明を十分に行い,賛同を得た上で実施した。
【結果】
ヒラメ筋硬度について,①HUによる効果量は,炭酸泉浴群が11.8±8.5,さら湯浴群が8.2±5.0であった。②炭酸泉浴前は25.6±10.0,炭酸泉浴後は16.2±7.4であった。③さら湯浴前は29.0±10.5,さら湯浴後は23.2±8.1であった。腓腹筋硬度について,①HUによる効果量は,炭酸泉浴群が10.8±7.0,さら湯浴群が14.0±9.1であった。②炭酸泉浴前は19.6±3.8,炭酸泉浴後は11.8±6.5であった。③さら湯浴前は24±11.9,さら湯浴後は13.8±9.4であった。④入浴効果量は炭酸泉浴群が7.8±4.6,さら湯浴群が10.2±3.4であった。H/M比については,①から③のいずれも有意差は認められなかった。
【考察】
筋硬度,H/M比において,HUによる効果の群間における有意差はなかった。このことからHUによって,両群間に同等の疲労を産生できたと考える。炭酸泉浴前後で,ヒラメ筋硬度および腓腹筋硬度において有意差(p>0.01)が認められた。このことから炭酸泉浴が末梢性の筋疲労回復に対して有効であることが示唆される。これは,炭酸ガスの経皮的侵入により,皮膚血管である前毛細血管小動脈の平滑筋に作用して,血管を弛緩させることで血管拡張作用が生じ,疲労物質を流すことで筋硬度の低下につながったのではないかと考える。さら湯浴前後で,腓腹筋硬度にのみ有意な低下(p>0.05)が見られた。このことから入浴による温熱作用は,表層筋の疲労回復に対してのみ有効な可能性が示唆される。腓腹筋硬度について群間に有意差はなかった。このことから,表層筋に対して,炭酸成分による追加効果は得られないことが示唆される。H/M比は全ての比較において有意差を示さなかった。短時間の下腿浴では,いずれの入浴も脊髄前角細胞の興奮性への関与は認められなかった。以上より,短時間の炭酸泉下腿浴は,脊髄前角細胞の興奮性を損なうことなく,深部筋を含む末梢性の筋疲労回復に有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で行った短時間の炭酸泉下腿浴における筋疲労回復効果は脊髄前角細胞の興奮性を損なうことなく,筋硬度を低下させることで,疲労回復ならびにパフォーマンス維持に一役買う。現場重視での使用を考えたこともあり,簡便で短時間で行うことができるため,スポーツ領域や医療領域でも適応が望める。今後は,条件を変更し,研究を重ねていく。
現在,スポーツ現場では人工炭酸泉下腿浴(以下炭酸泉浴)を用いて,選手の筋疲労回復を行っている。筋疲労状態で炭酸泉浴を行うことで選手からの主観的な実感は報告されているが,客観的な筋疲労回復効果を示した研究は少ない。先行研究より炭酸泉全身浴はさら湯浴に比べ,脊髄前角細胞の興奮性低下に作用する可能性が示唆されている。本研究の目的は,現場重視の視点を持ち,下腿浴が客観的な筋疲労回復効果とパフォーマンス維持を両立させ得るか,筋硬度計・H波(Hoffman reflex)を用いて検証することである。
【方法】
対象は健常大学生10名(男6名,女4名:平均年齢21.5±0.7歳)とした。本研究では38℃の炭酸泉浴群とさら湯浴群の2条件を比較した。炭酸泉の作製は,高濃度人工炭酸泉製造装置(三菱レイヨン・エンジニアリング)を用い,濃度は1000ppmに調整した。入浴は両下腿部で行い,湯量は腓骨頭が浸水する高さとした。筋硬度の測定にはアスカーFP型硬度計FP38868(ASKER高分子計器株式会社)を使用した。測定部位については,ヒラメ筋は腓腹筋筋頭が分岐する部位から3~4cm末梢部,腓腹筋同部位から5~6cm中枢部で測定した。H波測定には,筋電計Neuropack8(日本光電社)を使用した。電気刺激は,膝下部中央より脛骨神経に与えた。H波の最大振幅は,M波の最大振幅で除して正規化(H/M比)し,指標とした。測定肢位はベッド上に腹臥位とし,頭部正中位,両上肢はベッド側面より下垂し,足関節下に枕を設置した。実験手順は炭酸泉浴群5人とさら湯浴群5人の2群にランダム化し,作成法を熟知した第三者が,検者および被験者を二重盲見化した上で,いずれかの浴水を作製した。筋硬度・H波測定はプレ,HU後,10分間の入浴後の3回行った。統計学的検定は,H/M比,ヒラメ筋硬度,腓腹筋硬度についてt検定を用いて以下の手順で行った。①HU効果の群間比較,②炭酸泉浴における介入前後比較,③さら湯浴における介入前後比較,④②と③においていずれも有意差が認められた場合のみ,入浴効果の群間比較で行った。統計解析ソフトにはStat View Version 5.0 softwareを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うに当たり,吉備国際大学研究倫理委員会の承認を受けた。対象者に対しては,本研究における趣旨の説明を十分に行い,賛同を得た上で実施した。
【結果】
ヒラメ筋硬度について,①HUによる効果量は,炭酸泉浴群が11.8±8.5,さら湯浴群が8.2±5.0であった。②炭酸泉浴前は25.6±10.0,炭酸泉浴後は16.2±7.4であった。③さら湯浴前は29.0±10.5,さら湯浴後は23.2±8.1であった。腓腹筋硬度について,①HUによる効果量は,炭酸泉浴群が10.8±7.0,さら湯浴群が14.0±9.1であった。②炭酸泉浴前は19.6±3.8,炭酸泉浴後は11.8±6.5であった。③さら湯浴前は24±11.9,さら湯浴後は13.8±9.4であった。④入浴効果量は炭酸泉浴群が7.8±4.6,さら湯浴群が10.2±3.4であった。H/M比については,①から③のいずれも有意差は認められなかった。
【考察】
筋硬度,H/M比において,HUによる効果の群間における有意差はなかった。このことからHUによって,両群間に同等の疲労を産生できたと考える。炭酸泉浴前後で,ヒラメ筋硬度および腓腹筋硬度において有意差(p>0.01)が認められた。このことから炭酸泉浴が末梢性の筋疲労回復に対して有効であることが示唆される。これは,炭酸ガスの経皮的侵入により,皮膚血管である前毛細血管小動脈の平滑筋に作用して,血管を弛緩させることで血管拡張作用が生じ,疲労物質を流すことで筋硬度の低下につながったのではないかと考える。さら湯浴前後で,腓腹筋硬度にのみ有意な低下(p>0.05)が見られた。このことから入浴による温熱作用は,表層筋の疲労回復に対してのみ有効な可能性が示唆される。腓腹筋硬度について群間に有意差はなかった。このことから,表層筋に対して,炭酸成分による追加効果は得られないことが示唆される。H/M比は全ての比較において有意差を示さなかった。短時間の下腿浴では,いずれの入浴も脊髄前角細胞の興奮性への関与は認められなかった。以上より,短時間の炭酸泉下腿浴は,脊髄前角細胞の興奮性を損なうことなく,深部筋を含む末梢性の筋疲労回復に有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で行った短時間の炭酸泉下腿浴における筋疲労回復効果は脊髄前角細胞の興奮性を損なうことなく,筋硬度を低下させることで,疲労回復ならびにパフォーマンス維持に一役買う。現場重視での使用を考えたこともあり,簡便で短時間で行うことができるため,スポーツ領域や医療領域でも適応が望める。今後は,条件を変更し,研究を重ねていく。