[1492] スクリーニングを用いた脊椎圧迫骨折後の歩行能力に関する予後予測の試み
キーワード:脊椎圧迫骨折, スクリーニング, 予後予測
【はじめに,目的】脊椎圧迫骨折は,骨粗鬆症に起因する高齢者における骨折の中で,最も頻度の高い骨折である。遠藤(2012)は,大腿骨近位部骨折患者の多くは脊椎圧迫骨折を有していると報告しており,着目されるべき骨折である。我々は,第48回日本理学療法学術大会において,脊椎圧迫骨折患者の歩行能力を低下させる因子として,2椎体以上の骨折の存在,受傷前の歩行および階段昇降能力の低下が挙げられることを報告した。本研究では,上記の3つの因子を用いて,スクリーニング表を作成し,脊椎圧迫骨折後の歩行能力に関する予後予測を試みることを目的とした。
【方法】2010年1月から2012年12月に脊椎圧迫骨折の診断にて,当院に入院し,保存療法が施行され,受傷前に独歩または杖歩行が可能な78例(男性:31例,女性:47例,平均年齢:76.0±8.3歳)を対象とした。対象者の受傷前と退院時の歩行能力を比較し,同等となったものを維持群,低下したものを低下群と分類した。スクリーニング表の作成に先立ち,3つの因子と歩行能力低下の有無における2元表を作成した。「椎体骨折数」については,1椎体(初発骨折)と2椎体以上を境界とした。椎体骨折数は,入院時の単純レントゲン写真より,半定量的評価法(Semiquantitative Method:SQ法)を用いて判定した。「歩行」および「階段昇降」に関しては,各群の中央値を参考に,Barthel Index(以下,BI)にて,歩行は15点と10点以下,階段昇降は10点と5点以下を境界とした。次に,対象者を2元表に当てはめた際の,感度,特異度,陽性尤度比および的中精度を算出し,その結果を基に,最も的中精度が高くなるように2元表を組み合わせ,スクリーニング表を作成した。また,対象者にスクリーニング表を使用したと仮定した際の的中精度を算出した。統計処理には,R.2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿い,当院の学術研究に関する方針ならびにプライバシーポリシーを順守して行った。研究データは,匿名化し,個人情報管理に留意した。
【結果】維持群は,57例(男性:30例,女性:27例,平均年齢:74.5±8.7歳),低下群は,21例(男性:1例,女性:20例,平均年齢:80.0±5.9歳)であった。低下群の内訳は,独歩より杖歩行へ低下が8例,シルバーカー歩行等へ低下が7例,杖歩行よりシルバーカー歩行等へ低下が6例であった。検査特性は,「椎体骨折数」では,感度:71.4%,特異度:52.6%,陽性尤度比:1.5,的中精度:57.6%,「歩行」では,感度:19.0%,特異度:87.7%,陽性尤度比:1.5,的中精度:69.2%,「階段昇降」では,感度:47.6%,特異度:80.7%,陽性尤度比:2.4,的中精度:71.7%であった。スクリーニング表には,「椎体骨折数」(1椎体:歩行能力維持,2椎体以上:歩行能力低下)と「階段昇降」(BI10点:歩行能力維持,BI5点以下:歩行能力低下)を採用した。スクリーニング方法は,「椎体骨折数」にて1椎体(A)と2椎体以上(B)に分類し,次に(B)を「階段昇降」にてBI10点(C)とBI5点以下(D)に細分化し,(A)(C)は歩行能力維持,(D)は歩行能力低下と定義した。実際に,対象者にスクリーニング表を使用したと仮定すると,的中精度は,74.3%(維持群の85.9%,低下群の39.3%を的中)であり,受傷前独歩例では,78.9%,杖歩行例では61.9%であった。
【考察】本研究では,入院時の椎体骨折数と受傷前の階段昇降能力を確認することで,脊椎圧迫骨折後の歩行に関する予後を予測できる可能性が示唆された。また,スクリーニング表は,入院後早期に使用でき,歩行に関する目標設定や患者や家族に対する予後説明の際の有用なツールと成り得ると考える。脊椎圧迫骨折の臨床的特徴としては,無症状である骨折が多いことから,単純レントゲン写真などの画像読影にて,初めて,過去の骨折の存在が明らかとなることが挙げられ,理学療法開始時の画像確認は必須であると考える。宮腰(2011)は,多椎体骨折の存在は,体幹のバランス障害を招き,易転倒性となるとしている。既存骨折は,身体機能の低下を反映し,また,階段昇降能力は,下肢筋力やバランス能力を表しているものと推察される。本研究の限界は,身体機能だけでは説明できない,転倒恐怖感といった心理的側面の影響を考慮できていない点であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,入院時の単純レントゲン写真の確認とBarthel Indexにて受傷前の階段昇降能力を把握することで,入院後早期に脊椎圧迫骨折後の歩行能力に関する予後予測を行える可能性を示せた点で,その意義は高いと考える。
【方法】2010年1月から2012年12月に脊椎圧迫骨折の診断にて,当院に入院し,保存療法が施行され,受傷前に独歩または杖歩行が可能な78例(男性:31例,女性:47例,平均年齢:76.0±8.3歳)を対象とした。対象者の受傷前と退院時の歩行能力を比較し,同等となったものを維持群,低下したものを低下群と分類した。スクリーニング表の作成に先立ち,3つの因子と歩行能力低下の有無における2元表を作成した。「椎体骨折数」については,1椎体(初発骨折)と2椎体以上を境界とした。椎体骨折数は,入院時の単純レントゲン写真より,半定量的評価法(Semiquantitative Method:SQ法)を用いて判定した。「歩行」および「階段昇降」に関しては,各群の中央値を参考に,Barthel Index(以下,BI)にて,歩行は15点と10点以下,階段昇降は10点と5点以下を境界とした。次に,対象者を2元表に当てはめた際の,感度,特異度,陽性尤度比および的中精度を算出し,その結果を基に,最も的中精度が高くなるように2元表を組み合わせ,スクリーニング表を作成した。また,対象者にスクリーニング表を使用したと仮定した際の的中精度を算出した。統計処理には,R.2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿い,当院の学術研究に関する方針ならびにプライバシーポリシーを順守して行った。研究データは,匿名化し,個人情報管理に留意した。
【結果】維持群は,57例(男性:30例,女性:27例,平均年齢:74.5±8.7歳),低下群は,21例(男性:1例,女性:20例,平均年齢:80.0±5.9歳)であった。低下群の内訳は,独歩より杖歩行へ低下が8例,シルバーカー歩行等へ低下が7例,杖歩行よりシルバーカー歩行等へ低下が6例であった。検査特性は,「椎体骨折数」では,感度:71.4%,特異度:52.6%,陽性尤度比:1.5,的中精度:57.6%,「歩行」では,感度:19.0%,特異度:87.7%,陽性尤度比:1.5,的中精度:69.2%,「階段昇降」では,感度:47.6%,特異度:80.7%,陽性尤度比:2.4,的中精度:71.7%であった。スクリーニング表には,「椎体骨折数」(1椎体:歩行能力維持,2椎体以上:歩行能力低下)と「階段昇降」(BI10点:歩行能力維持,BI5点以下:歩行能力低下)を採用した。スクリーニング方法は,「椎体骨折数」にて1椎体(A)と2椎体以上(B)に分類し,次に(B)を「階段昇降」にてBI10点(C)とBI5点以下(D)に細分化し,(A)(C)は歩行能力維持,(D)は歩行能力低下と定義した。実際に,対象者にスクリーニング表を使用したと仮定すると,的中精度は,74.3%(維持群の85.9%,低下群の39.3%を的中)であり,受傷前独歩例では,78.9%,杖歩行例では61.9%であった。
【考察】本研究では,入院時の椎体骨折数と受傷前の階段昇降能力を確認することで,脊椎圧迫骨折後の歩行に関する予後を予測できる可能性が示唆された。また,スクリーニング表は,入院後早期に使用でき,歩行に関する目標設定や患者や家族に対する予後説明の際の有用なツールと成り得ると考える。脊椎圧迫骨折の臨床的特徴としては,無症状である骨折が多いことから,単純レントゲン写真などの画像読影にて,初めて,過去の骨折の存在が明らかとなることが挙げられ,理学療法開始時の画像確認は必須であると考える。宮腰(2011)は,多椎体骨折の存在は,体幹のバランス障害を招き,易転倒性となるとしている。既存骨折は,身体機能の低下を反映し,また,階段昇降能力は,下肢筋力やバランス能力を表しているものと推察される。本研究の限界は,身体機能だけでは説明できない,転倒恐怖感といった心理的側面の影響を考慮できていない点であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,入院時の単純レントゲン写真の確認とBarthel Indexにて受傷前の階段昇降能力を把握することで,入院後早期に脊椎圧迫骨折後の歩行能力に関する予後予測を行える可能性を示せた点で,その意義は高いと考える。