[1527] 南相馬市応急仮設住宅居住者における廃用症候群の実態調査
キーワード:廃用症候群, 高齢化, 健康増進
【はじめに,目的】
2011年3月11日の東日本大震災とその後の原子力災害以降,応急仮設住宅居住者(以下,仮設居住者)の廃用症候群の増加が社会問題となっている。2012年4月時点で,南相馬市に34ヶ所(約2697世帯)の応急仮設住宅(以下,仮設住宅)があり,5228名が生活を余儀なくされていたが,仮設居住者の廃用症候群の実態は把握されていなかった。
本研究の目的は,南相馬市仮設居住者の廃用症候群の実態を明らかにすることである。仮設居住者の廃用症候群の実態を客観的数値で示し現状を把握すると同時に,高齢化地域での理学療法士としての活動を模索した。本調査結果を踏まえ,NPO法人や市民団体など地域一帯となり,住民の健康増進に向けた活動について,若干の考察を加え報告する。
【方法】
対象者は仮設居住者140名(平均年齢69.1±9.1歳)。比較対照として仮設住宅周辺(半径500m以内)の一般市民(以下,仮設周辺群)122名(64.8±14歳)を選抜した。仮設居住者を無作為に体力測定群と非測定群に分け,両群および仮設周辺群に14日間活動量計(オムロン活動量計HJA-307IT)を装着し,3群間の活動量を比較した。活動量比較の統計処理はt検定を用いて行った。統計ソフトはR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした。
体力測定は「てんとう虫テスト」(第一学習社)を使用し,体力測定後は「てんとう虫テスト」より自動的に算出される自主練習プログラムを指導した。非測定群にも不利益とならないように,14日間の計測後に体力測定と自主練習指導を実施した。測定項目はTimed Up And Go Test(以下,TUG),Functional Reach Test(以下,FRT),2Steps Test,立ち上がりテスト。身長,体重からBody Mass Index(以下,BMI)を算出した。
仮設居住者を年代別に50歳群(男性3女性22),60歳群(男性16女性29),70歳群(男性19女性31),80歳群(男性6女性14)の4群に分類し,各年代の体力基準値と比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は南相馬市立総合病院倫理委員会の承認を得ており,ヘルシンキ宣言に沿って実施した。研究に使用したデータは,個人情報が特定できないように匿名化を行った。
【結果】
活動量は非測定群と仮設周辺群とを比較し,非測定群に有意な低下がみられた(p<0.01)。
仮設居住者のBMIは,男性50~70歳群すべて肥満(1度)であった。80歳群は普通体重であった。女性50歳および60歳群は普通体重。70歳群は肥満(1度),80歳群は33.9と肥満(3度)であった。女性は高齢なほどBMIが高値であった。
仮設居住者の運動機能は,TUG,FRT,2Steps Testで男女ともに,すべての年齢群で基準値を下回った。
【考察】
今回の活動量測定結果から,仮設居住者の活動量低下が明らかとなった。体力測定結果も,ほぼ全ての測定項目で基準値を下回り,仮設住宅居住者の運動機能低下が示された。
南相馬市の仮設居住者は,地震や津波だけではなく,原子力災害により仮設住宅生活を余儀なくされている。生活形態の変化による運動量低下に加え,仮設住宅という狭隘化された居住範囲での生活が,より活動量低下や運動機能低下を引き起こしたと考える。
仮設居住者の廃用症候群の原因は様々であり,短期の運動指導や啓発活動では解決には至らない。我々が地域に出て,継続的な個別対応が必要である。しかし,震災後若年層の流出により急速な高齢化(33.1%)が進行した当地域では,マンパワー不足が問題である。当地域の高齢化は,高齢者の増加ではなく若年層の減少である。仮設住宅は特に高齢化が著しく,高齢化率は36%であった。
相双地区のセラピスト数は,震災前85名から震災直後20名に減少した(現在51名)。震災後の急速高齢化や仮設住宅の廃用症候群の問題に対し,少ないマンパワーで早急な対応が求められた。この様な状況で健康増進活動を行う場合,NPO法人や市民団体の協力,ボランティアの協力が必要不可欠である。
当院リハ科では,本調査後に仮設住宅前の公園で行われたラジオ体操事業に参加した。震災後に失われた地域のコミュニティを復活させようと,市内の精神科医師を代表とするNPO法人の企画であり,当院医師,市民団体,ボランティアが中心メンバーである。ラジオ体操事業は,今年度から筆者がリーダーとなり,4月から10月まで実施した。震災後再開した屋内市民プールの「水中健康教室」,市民との「ハイキング」や「ウォーキング教室」等,様々な活動を実施し,健康増進の基盤づくり,地域づくりに貢献した。
【理学療法学研究としての意義】
南相馬市における仮設居住者の廃用症候群の実態を明らかにした。マンパワーが少ない状況下で健康増進活動を行う場合,NPO法人やボランティアと協力することで実行可能であった。今後,日本社会に起こり得る高齢化問題に対して,理学療法士が実施すべく活動の方向性を示した。
2011年3月11日の東日本大震災とその後の原子力災害以降,応急仮設住宅居住者(以下,仮設居住者)の廃用症候群の増加が社会問題となっている。2012年4月時点で,南相馬市に34ヶ所(約2697世帯)の応急仮設住宅(以下,仮設住宅)があり,5228名が生活を余儀なくされていたが,仮設居住者の廃用症候群の実態は把握されていなかった。
本研究の目的は,南相馬市仮設居住者の廃用症候群の実態を明らかにすることである。仮設居住者の廃用症候群の実態を客観的数値で示し現状を把握すると同時に,高齢化地域での理学療法士としての活動を模索した。本調査結果を踏まえ,NPO法人や市民団体など地域一帯となり,住民の健康増進に向けた活動について,若干の考察を加え報告する。
【方法】
対象者は仮設居住者140名(平均年齢69.1±9.1歳)。比較対照として仮設住宅周辺(半径500m以内)の一般市民(以下,仮設周辺群)122名(64.8±14歳)を選抜した。仮設居住者を無作為に体力測定群と非測定群に分け,両群および仮設周辺群に14日間活動量計(オムロン活動量計HJA-307IT)を装着し,3群間の活動量を比較した。活動量比較の統計処理はt検定を用いて行った。統計ソフトはR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした。
体力測定は「てんとう虫テスト」(第一学習社)を使用し,体力測定後は「てんとう虫テスト」より自動的に算出される自主練習プログラムを指導した。非測定群にも不利益とならないように,14日間の計測後に体力測定と自主練習指導を実施した。測定項目はTimed Up And Go Test(以下,TUG),Functional Reach Test(以下,FRT),2Steps Test,立ち上がりテスト。身長,体重からBody Mass Index(以下,BMI)を算出した。
仮設居住者を年代別に50歳群(男性3女性22),60歳群(男性16女性29),70歳群(男性19女性31),80歳群(男性6女性14)の4群に分類し,各年代の体力基準値と比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は南相馬市立総合病院倫理委員会の承認を得ており,ヘルシンキ宣言に沿って実施した。研究に使用したデータは,個人情報が特定できないように匿名化を行った。
【結果】
活動量は非測定群と仮設周辺群とを比較し,非測定群に有意な低下がみられた(p<0.01)。
仮設居住者のBMIは,男性50~70歳群すべて肥満(1度)であった。80歳群は普通体重であった。女性50歳および60歳群は普通体重。70歳群は肥満(1度),80歳群は33.9と肥満(3度)であった。女性は高齢なほどBMIが高値であった。
仮設居住者の運動機能は,TUG,FRT,2Steps Testで男女ともに,すべての年齢群で基準値を下回った。
【考察】
今回の活動量測定結果から,仮設居住者の活動量低下が明らかとなった。体力測定結果も,ほぼ全ての測定項目で基準値を下回り,仮設住宅居住者の運動機能低下が示された。
南相馬市の仮設居住者は,地震や津波だけではなく,原子力災害により仮設住宅生活を余儀なくされている。生活形態の変化による運動量低下に加え,仮設住宅という狭隘化された居住範囲での生活が,より活動量低下や運動機能低下を引き起こしたと考える。
仮設居住者の廃用症候群の原因は様々であり,短期の運動指導や啓発活動では解決には至らない。我々が地域に出て,継続的な個別対応が必要である。しかし,震災後若年層の流出により急速な高齢化(33.1%)が進行した当地域では,マンパワー不足が問題である。当地域の高齢化は,高齢者の増加ではなく若年層の減少である。仮設住宅は特に高齢化が著しく,高齢化率は36%であった。
相双地区のセラピスト数は,震災前85名から震災直後20名に減少した(現在51名)。震災後の急速高齢化や仮設住宅の廃用症候群の問題に対し,少ないマンパワーで早急な対応が求められた。この様な状況で健康増進活動を行う場合,NPO法人や市民団体の協力,ボランティアの協力が必要不可欠である。
当院リハ科では,本調査後に仮設住宅前の公園で行われたラジオ体操事業に参加した。震災後に失われた地域のコミュニティを復活させようと,市内の精神科医師を代表とするNPO法人の企画であり,当院医師,市民団体,ボランティアが中心メンバーである。ラジオ体操事業は,今年度から筆者がリーダーとなり,4月から10月まで実施した。震災後再開した屋内市民プールの「水中健康教室」,市民との「ハイキング」や「ウォーキング教室」等,様々な活動を実施し,健康増進の基盤づくり,地域づくりに貢献した。
【理学療法学研究としての意義】
南相馬市における仮設居住者の廃用症候群の実態を明らかにした。マンパワーが少ない状況下で健康増進活動を行う場合,NPO法人やボランティアと協力することで実行可能であった。今後,日本社会に起こり得る高齢化問題に対して,理学療法士が実施すべく活動の方向性を示した。