[O-0031] 股関節疾患患者を対象としたLimping Assessment Scaleの妥当性と信頼性の検討
加速度計を用いた調査
キーワード:跛行, 加速度計, 股関節疾患
【目的】
人工股関節全置換術(以下THA)後の理学療法において,跛行改善が一つの目標であり,治療効果を判定する上で,科学的根拠に基づいた評価指標を用いることが必要である。近年,THA術前後の歩行分析には3次元動作解析装置による報告が多く見受けられるが,3次元動作解析装置は高価で測定に時間を要し,臨床で用いるには適していない。また,臨床場面では観察により歩行分析することが多い。よって,簡便で且つ,観察的に跛行を評価する指標が必要である。Horlstomannらは,THA患者の跛行を評価する上で,観察的に歩行分析をし,跛行の程度を4段階に分類するLimping Assessment Scaleを用いているが,その妥当性や信頼性に関する調査は成されていない。そこで今回の目的は,Horlstomannらが用いたLimping Assessment Scaleの妥当性および信頼性を重心の動揺を計測できる加速度計を用い,調査することとした。
【方法】
対象の選択基準は,妥当性の調査ではTHA術後患者とし,信頼性の調査では変形性股関節症,大腿骨頭壊死症,リウマチ性股関節炎,THA術後患者とした。また,全て片側例で独歩可能な者とした。除外基準は,重篤な心疾患,中枢神経疾患,他関節の手術既往,認知症を有する者,両側罹患者とした。測定項目は1)歩行中の左右方向への重心動揺,2)Limping Assessment Scaleとし,1)2)を測定する際の歩行課題は,快適速度による10m歩行とした。1)には加速度計(LSIメディエンス社)を用いた。測定方法は,対象者の第三腰椎棘突起部に加速度計を装着し,歩行中の重心加速度を測定し,得られた加速度データから10m歩行分の二乗平均平方根(Root Mean Square:以下RMS)を算出した。RMSは歩行の安定性を評価する指標として用いられ,RMSが大きいほど左右方向への重心動揺が大きいことを示す。2)は,No limping,Slight limping(only visible to the trained therapist),Moderate limping(abnormal pelvic motion:pelvic drop,Trendelenburg sign),Severe limping(pronounced lateral body and trunk sway)の4つに分類される。測定方法は,理学療法士が前額面上で前方かつ後方から歩行を観察し,評価した。統計解析は,1)で得られたRMSの変数と2)の4分類の関連をみるためにSpearmanの順位相関係数を用いて相関分析を行い,さらに,1)を従属変数,2)の4分類を因子とした一元配置分散分析および多重比較(Tukey検定)を行い,妥当性を検証した(有意水準5%)。信頼性の検討は,デジタルビデオカメラ(Panasonic社)を用い,対象者の前額面上の歩行を撮影した。その後,撮影した動画を観察し,Limping Assessment Scaleを用いて理学療法士が評価した。検者内信頼性は再テスト法を用い,1週間後に同一検査者が評価を行った。検者間信頼性は2名の理学療法士にて評価を行った。統計解析は重み付けKappa係数を用いた。
【結果】
妥当性の調査に含めた対象者の属性は,男性10名,女性38名,No13名,Slight15名,Moderate14名,Severe6名,年齢[平均±標準偏差(範囲)]64.0±10.7(43-85)歳,BMI25.7±4.1(18.3-39.2)kg/m2,全例THA術後患者であった。相関分析の結果,重心動揺RMSとLimping Assessment Scale間に正の相関が認められた(r=0.512)。また,多重比較検定の結果,SevereはModerate(p=0.033),Slight(p=0.006),No(p=0.006)と有意差が見られ,ModerateはSevere(p=0.033),Slight(p=0.048),No(p=0.044)と有意差が見られた。SlightとNo(p=0.999)の間に有意差は認められなかった。信頼性の調査に含めた対象者の属性は,男性5名,女性23名,年齢[平均±標準偏差(範囲)]62.5±9.92(40-80)歳,BMI25.7±4.1(18.3-39.2)kg/m2,変形性股関節症22名(Kellgren-Lawrence Grade,Grade1:2名,Grade2:3名,Grade3:8名,Grade4:9名),大腿骨頭壊死症1名,THA術後5名であった。統計解析の結果,重み付けKappa係数は検者内で0.909,検者間で0.863,と高い値を示した。
【考察】
今回検証したLimping Assessment Scaleは,検者内,検者間において高い信頼性が示された。しかし,SlightとNoの間には重心動揺RMSの統計的有意差は認められず,歩行観察で分類するには困難である結果となった。この結果を踏まえると,観察的に跛行を評価し分類するには,SlightとNoを合わせ,その他のModerateとSevereの3段階スケールを用いる必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行を分析する上で,SlightとNoを合わせた3段階のLimping Assessment Scaleを用いることが,簡便で,且つ科学的根拠を踏まえた評価方法に成り得る。
人工股関節全置換術(以下THA)後の理学療法において,跛行改善が一つの目標であり,治療効果を判定する上で,科学的根拠に基づいた評価指標を用いることが必要である。近年,THA術前後の歩行分析には3次元動作解析装置による報告が多く見受けられるが,3次元動作解析装置は高価で測定に時間を要し,臨床で用いるには適していない。また,臨床場面では観察により歩行分析することが多い。よって,簡便で且つ,観察的に跛行を評価する指標が必要である。Horlstomannらは,THA患者の跛行を評価する上で,観察的に歩行分析をし,跛行の程度を4段階に分類するLimping Assessment Scaleを用いているが,その妥当性や信頼性に関する調査は成されていない。そこで今回の目的は,Horlstomannらが用いたLimping Assessment Scaleの妥当性および信頼性を重心の動揺を計測できる加速度計を用い,調査することとした。
【方法】
対象の選択基準は,妥当性の調査ではTHA術後患者とし,信頼性の調査では変形性股関節症,大腿骨頭壊死症,リウマチ性股関節炎,THA術後患者とした。また,全て片側例で独歩可能な者とした。除外基準は,重篤な心疾患,中枢神経疾患,他関節の手術既往,認知症を有する者,両側罹患者とした。測定項目は1)歩行中の左右方向への重心動揺,2)Limping Assessment Scaleとし,1)2)を測定する際の歩行課題は,快適速度による10m歩行とした。1)には加速度計(LSIメディエンス社)を用いた。測定方法は,対象者の第三腰椎棘突起部に加速度計を装着し,歩行中の重心加速度を測定し,得られた加速度データから10m歩行分の二乗平均平方根(Root Mean Square:以下RMS)を算出した。RMSは歩行の安定性を評価する指標として用いられ,RMSが大きいほど左右方向への重心動揺が大きいことを示す。2)は,No limping,Slight limping(only visible to the trained therapist),Moderate limping(abnormal pelvic motion:pelvic drop,Trendelenburg sign),Severe limping(pronounced lateral body and trunk sway)の4つに分類される。測定方法は,理学療法士が前額面上で前方かつ後方から歩行を観察し,評価した。統計解析は,1)で得られたRMSの変数と2)の4分類の関連をみるためにSpearmanの順位相関係数を用いて相関分析を行い,さらに,1)を従属変数,2)の4分類を因子とした一元配置分散分析および多重比較(Tukey検定)を行い,妥当性を検証した(有意水準5%)。信頼性の検討は,デジタルビデオカメラ(Panasonic社)を用い,対象者の前額面上の歩行を撮影した。その後,撮影した動画を観察し,Limping Assessment Scaleを用いて理学療法士が評価した。検者内信頼性は再テスト法を用い,1週間後に同一検査者が評価を行った。検者間信頼性は2名の理学療法士にて評価を行った。統計解析は重み付けKappa係数を用いた。
【結果】
妥当性の調査に含めた対象者の属性は,男性10名,女性38名,No13名,Slight15名,Moderate14名,Severe6名,年齢[平均±標準偏差(範囲)]64.0±10.7(43-85)歳,BMI25.7±4.1(18.3-39.2)kg/m2,全例THA術後患者であった。相関分析の結果,重心動揺RMSとLimping Assessment Scale間に正の相関が認められた(r=0.512)。また,多重比較検定の結果,SevereはModerate(p=0.033),Slight(p=0.006),No(p=0.006)と有意差が見られ,ModerateはSevere(p=0.033),Slight(p=0.048),No(p=0.044)と有意差が見られた。SlightとNo(p=0.999)の間に有意差は認められなかった。信頼性の調査に含めた対象者の属性は,男性5名,女性23名,年齢[平均±標準偏差(範囲)]62.5±9.92(40-80)歳,BMI25.7±4.1(18.3-39.2)kg/m2,変形性股関節症22名(Kellgren-Lawrence Grade,Grade1:2名,Grade2:3名,Grade3:8名,Grade4:9名),大腿骨頭壊死症1名,THA術後5名であった。統計解析の結果,重み付けKappa係数は検者内で0.909,検者間で0.863,と高い値を示した。
【考察】
今回検証したLimping Assessment Scaleは,検者内,検者間において高い信頼性が示された。しかし,SlightとNoの間には重心動揺RMSの統計的有意差は認められず,歩行観察で分類するには困難である結果となった。この結果を踏まえると,観察的に跛行を評価し分類するには,SlightとNoを合わせ,その他のModerateとSevereの3段階スケールを用いる必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行を分析する上で,SlightとNoを合わせた3段階のLimping Assessment Scaleを用いることが,簡便で,且つ科学的根拠を踏まえた評価方法に成り得る。