[O-0194] 回復期脳梗塞患者におけるCTを用いた歩行予後の検討
キーワード:脳梗塞, CT, 歩行予後
【はじめに,目的】
脳梗塞患者に対して脳のCT画像(以下,CT)から皮質脊髄路の損傷を読影し,歩行予後を検討した先行研究はいくつか散見される。しかし,臨床場面ではしばしば下肢の運動麻痺が重度であっても歩行を獲得する例や反対に運動麻痺が軽度であっても車椅子移動となる例が存在する。歩行の獲得には残存した運動機能だけでなく,運動学習に関わる認知機能も重要な因子になると考える。今回,脳梗塞患者の皮質脊髄路の損傷の有無と認知機能を反映する脳室拡大の程度を調査し,歩行予後との関連について検討した。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟に入院した初発の脳梗塞(中大脳動脈領域)患者で,移動(以下,歩行)FIMが1点であった36例(年齢81.5:50-93歳,男性18例/女性18例,右損傷21例/左損傷15例)とした。当院入院時(30.2±13.2病日)に撮影したCTから皮質脊髄路の損傷を判断するため大塚(2003)の方法を用い,基底核レベルは内包膝より内包後脚の最後部を前後に3等分,脳室天井レベルは側脳室前角から後角までの放線冠を前後に3等分した計6領域を確認した。脳室拡大の判断はEvans index(側脳室前角幅/頭蓋内腔幅比>0.3)を用い,どちらも主治医とともに行った。廃用症候群を予防し,発症後早期から積極的なリハを行うため全例,長下肢装具を作製(入院から採型の期間:13.1±10.9日)した。入院時の下肢Brunnstrom stage(以下,Brs)は中央値3(1-5)であった。退院時の歩行能力を評価するため歩行FIM1-4点(以下,車椅子群)と5-7点(以下,歩行群)に分類した。2群間の年齢,性別,損傷側,入院時と退院時の下肢Brs,運動FIM,認知FIM,退院時の歩行FIM,皮質脊髄路の損傷部位の合計を対象人数で除した値を百分率で算出したもの,Evans indexを比較した。得られた結果をt検定,マンホイットニーのU検定を用い,比較検定(p<0.05)を行った。
【結果】
2群の内訳は車椅子群22例(年齢83.0:50-93歳,男性9例/女性13例,右損傷13例/左損傷9例)と歩行群14例(年齢75.0:63-88歳,男性9例/女性5例,右損傷8例/左損傷6例)であった。車椅子群/歩行群の年齢,下肢Brsの入院時2(1-5)/3(1-5),退院時3(2-5)/4(3-6),運動FIMの入院時21.9±8.8点/35.1±12.8点,退院時33.0±16.1点/65.6±10.1点,認知FIMの入院時16.8±8.6点/24.1±6.2点,退院時20.2±7.8点/28.8±4.0点,退院時の歩行FIM1.8±1.1点/5.4±0.5点,Evans index0.31±0.04/0.29±0.03は有意差を認めた。皮質脊髄路の損傷が見られた内包後脚(前部18%/7%,中部68%/71%,後部45%/29%),放線冠(前部55%/43%,中部86%/86%,後部59%/43%)はいずれも有意差は認めなかった。
【考察】
今回のCT読影から内包後脚中部と放線冠中部は下肢の運動麻痺との結び付きが強い傾向にあるが,これは先行研究と一致し,それらが皮質脊髄路に沿った領域であることが考えられる。その読影が脳梗塞患者の歩行予後に有用であるが,今回の結果からは関連が認められなかった。しかし,歩行群に比べて車椅子群が有意に高齢であったことは老化による認知機能の低下を疑わせ,それに随伴する脳室拡大の所見が歩行予後との関連が認められた。脳の機能回復にはマッピングの変化や新たなシナプス形成の出現が挙げられるが,それらの代償的神経機構は日々のリハによって構成される。難易度が少しずつ向上する運動課題に対してフィードバックによる補正とフィードフォアードなモデル形成がなされるには注意や記憶などの認知機能が重要である。車椅子群が有意に高齢で認知FIMの低い例が多く,脳室拡大を認めていたことはそれを裏付ける。よって脳梗塞患者の歩行予後は皮質脊髄路の損傷を確認するだけでなく脳室拡大も重要な所見であり,年齢や認知機能に配慮した関わり方が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
歩行予後の検討のためCTにて皮質脊髄路の損傷を確認することは重要であるが,年齢や脳室拡大にも注意する必要がある。運動麻痺の回復だけでなく運動学習と密接な関係がある認知機能の回復にも目を向けることが効率的な神経リハを考える上で重要である。
脳梗塞患者に対して脳のCT画像(以下,CT)から皮質脊髄路の損傷を読影し,歩行予後を検討した先行研究はいくつか散見される。しかし,臨床場面ではしばしば下肢の運動麻痺が重度であっても歩行を獲得する例や反対に運動麻痺が軽度であっても車椅子移動となる例が存在する。歩行の獲得には残存した運動機能だけでなく,運動学習に関わる認知機能も重要な因子になると考える。今回,脳梗塞患者の皮質脊髄路の損傷の有無と認知機能を反映する脳室拡大の程度を調査し,歩行予後との関連について検討した。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟に入院した初発の脳梗塞(中大脳動脈領域)患者で,移動(以下,歩行)FIMが1点であった36例(年齢81.5:50-93歳,男性18例/女性18例,右損傷21例/左損傷15例)とした。当院入院時(30.2±13.2病日)に撮影したCTから皮質脊髄路の損傷を判断するため大塚(2003)の方法を用い,基底核レベルは内包膝より内包後脚の最後部を前後に3等分,脳室天井レベルは側脳室前角から後角までの放線冠を前後に3等分した計6領域を確認した。脳室拡大の判断はEvans index(側脳室前角幅/頭蓋内腔幅比>0.3)を用い,どちらも主治医とともに行った。廃用症候群を予防し,発症後早期から積極的なリハを行うため全例,長下肢装具を作製(入院から採型の期間:13.1±10.9日)した。入院時の下肢Brunnstrom stage(以下,Brs)は中央値3(1-5)であった。退院時の歩行能力を評価するため歩行FIM1-4点(以下,車椅子群)と5-7点(以下,歩行群)に分類した。2群間の年齢,性別,損傷側,入院時と退院時の下肢Brs,運動FIM,認知FIM,退院時の歩行FIM,皮質脊髄路の損傷部位の合計を対象人数で除した値を百分率で算出したもの,Evans indexを比較した。得られた結果をt検定,マンホイットニーのU検定を用い,比較検定(p<0.05)を行った。
【結果】
2群の内訳は車椅子群22例(年齢83.0:50-93歳,男性9例/女性13例,右損傷13例/左損傷9例)と歩行群14例(年齢75.0:63-88歳,男性9例/女性5例,右損傷8例/左損傷6例)であった。車椅子群/歩行群の年齢,下肢Brsの入院時2(1-5)/3(1-5),退院時3(2-5)/4(3-6),運動FIMの入院時21.9±8.8点/35.1±12.8点,退院時33.0±16.1点/65.6±10.1点,認知FIMの入院時16.8±8.6点/24.1±6.2点,退院時20.2±7.8点/28.8±4.0点,退院時の歩行FIM1.8±1.1点/5.4±0.5点,Evans index0.31±0.04/0.29±0.03は有意差を認めた。皮質脊髄路の損傷が見られた内包後脚(前部18%/7%,中部68%/71%,後部45%/29%),放線冠(前部55%/43%,中部86%/86%,後部59%/43%)はいずれも有意差は認めなかった。
【考察】
今回のCT読影から内包後脚中部と放線冠中部は下肢の運動麻痺との結び付きが強い傾向にあるが,これは先行研究と一致し,それらが皮質脊髄路に沿った領域であることが考えられる。その読影が脳梗塞患者の歩行予後に有用であるが,今回の結果からは関連が認められなかった。しかし,歩行群に比べて車椅子群が有意に高齢であったことは老化による認知機能の低下を疑わせ,それに随伴する脳室拡大の所見が歩行予後との関連が認められた。脳の機能回復にはマッピングの変化や新たなシナプス形成の出現が挙げられるが,それらの代償的神経機構は日々のリハによって構成される。難易度が少しずつ向上する運動課題に対してフィードバックによる補正とフィードフォアードなモデル形成がなされるには注意や記憶などの認知機能が重要である。車椅子群が有意に高齢で認知FIMの低い例が多く,脳室拡大を認めていたことはそれを裏付ける。よって脳梗塞患者の歩行予後は皮質脊髄路の損傷を確認するだけでなく脳室拡大も重要な所見であり,年齢や認知機能に配慮した関わり方が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
歩行予後の検討のためCTにて皮質脊髄路の損傷を確認することは重要であるが,年齢や脳室拡大にも注意する必要がある。運動麻痺の回復だけでなく運動学習と密接な関係がある認知機能の回復にも目を向けることが効率的な神経リハを考える上で重要である。