第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述32

運動器 その他

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高倉保幸(埼玉医科大学 保健医療学部)

[O-0239] 患者主観的尺度を用いた鏡視下腱板修復術後の治療成績

―WORCとShoulder36での検討―

原田伸哉, 多々良大輔, 吉住浩平 (福岡志恩病院)

キーワード:Shoulder36, WORC, 腱板断裂

【はじめに】
当院での鏡視下腱板断裂術(以下ARCR)後の後療法は獲得可動域に制限を設け,自動挙上運動の開始時期を遅らせるプロトコールである。腱板の修復状態が良好で再断裂率も低下するが,術後半年での可動域が十分でないことが課題である。この可動域獲得の遅延は患者の日常生活や満足度に影響を与える可能性があり,その主観的評価の検討は行なっていなかった。そこで本研究の目的は可動域と筋力と疼痛も追加調査し,患者主観的尺度であるShoulder36V1.3(以下Sh36)とWESTERN ONTARIO ROTATOR CUFF INDEX(以下WORC)を用いて術後成績を検討することである。

【対象と方法】
2013年1月~12月にARCR後に当院プロトコールを施行し,術後半年のMRIにて再断裂がなく機能評価が可能であった38名。プロトコールの詳細は,中断裂用,大・広範囲断裂用に分け,中断裂は術後2週までは臥位挙上90°まで,術後3週から臥位挙上120°,座位挙上90°まで,術後8週で制限解除とした。大・広範囲断裂は術後8週まで臥位挙上90°まで,8週以降は臥位挙上120°,座位挙上90°までとし,術後3ヵ月で制限解除とした。装具固定は8週とした。中断裂をsmall群23名,大・広範囲断裂をlarge群15名として2群に分けて術前後で比較した。調査項目は術前後の可動域(座位挙上,外旋,結帯動作),疼痛は運動時痛,夜間痛をVASにて聴取,筋力はMicro FET2を用いて40゜外転位,外旋位で測定し,得られた数値を体重で除してN/kgとして算出した。Sh36とWORCは本人による自己記入方式で回収し,Sh36は各項目0-4点満点の5段階評価で得点が高いほどQOLが高いことを意味し,疼痛,可動域,筋力,健康感,ADL,スポーツの6つのドメイン毎に算出した。WORCは5領域21項目からなるVAS形式の質問紙で得点が低いほどQOLが高いことを意味する。各項目の数値を領域ごとの項目数で除して得点を算出した。統計学的解析はt検定,Wilcoxonの符号付順位和検定を用いて危険率5%未満を有意差ありとした。

【結果】
(術前/術後)small群:挙上133.3/141.3゜外旋43.3/39.6゜結帯動作T10/L1全て有意差なし。運動時痛43.4/10.2mm夜間痛48.8/8.4mm有意差あり。筋力40外転位1.49/1.34N/kg外旋位1.06/0.93N/kg有意差なし WORC身体症状44.9/17.2スポーツ62.1/33.1仕事51.1/30.4生活様式46.3/21.2感情51.4/21.1全ての領域で有意差あり。Sh36疼痛2.8/3.4可動域3.1/3.5筋力2.5/3.0健康感2.6/3.7 ADL3.1/3.4スポーツ1.2/2.3全て有意差あり。Large群:挙上117.3/132.3゜外旋37/26.7゜結帯動作L1/L3外旋角度のみ有意差あり。運動時痛50.7/8.5mm夜間痛37.2/13mm有意差あり。筋力40外転位1.14/1.07N/kg外旋位0.69/0.73N/kg有意差なし WORC身体症状44.5/20.9スポーツ58.8/44.6仕事58.2/38.4生活様式47.3/24.3感情63.9/33.0全ての領域で有意差あり。Sh36疼痛3.1/3.4可動域3.1/3.3筋力2.6/3.0健康感2.7/3.6 ADL3.0/3.4スポーツ2.0/2.2健康感,ADLのみ有意差あり。

【考察】
ARCR後の治療成績として客観的評価のみではなく,患者側の主観的評価が重要視されている。その主観的尺度の1つとしてWORCはkawabataらによって,日本語版WORCとして導入され,その妥当性と信頼性が高いことが立証されている。しかしARCR後の治療効果として,このWORCを使用した報告は少ない。Sh36は年々報告数が増えているが,他の主観的,客観的スコアとの関連性などが多く,術後成績として用いた報告はまだ少ない。
今回の結果では,中断裂,大・広範囲断裂ともに可動域,筋力は術前と比較して術後半年では有意な改善は認めなかったが,患者主観的尺度であるWORCとSh36は術前と比較して有意に改善した。また疼痛は運動時痛,夜間痛ともに術前より有意に改善しており,これが患者主観的尺度に反映した可能性がある。
WORCは両群とも術前と比較して全ての領域において有意に改善していた。Sh36は中断裂では全てのドメインで有意に改善していたが,大・広範囲断裂は健康感,ADLのみの改善となった。WORCはVAS(0-100mm)方式で,患者の主観をより自由に反映しやすく,Sh36は0-4の5段階評価で得点の開きが少ないことが今回の要因の1つと考えられた。またWORCは腱板損傷の疾患特異的QOL尺度であるため,疼痛や心理的要因により反応する印象があり,Sh36は日常生活動作状況の質問項目が具体的であり,機能的要因を多く含むため今回の結果には反映されにくかったと考えた。

【理学療法学研究としての意義】
患者主観的尺度は術後半年で改善がみられた。客観的尺度の改善が必ずしも主観的尺度に影響しないことがわかった。WORCの方がより反応性が高い結果となった。