第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述32

運動器 その他

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高倉保幸(埼玉医科大学 保健医療学部)

[O-0240] setting phaseにおける肩関節外転時の肩関節上方変位量について

Kinectセンサーを用いた検討

川井誉清, 岡田匡史, 荒木寿和, 亀山顕太郎 (松戸整形外科病院リハビリテーションセンター)

キーワード:Kinectセンサー, setting phase, 肩腱板断裂

【目的】
肩関節疾患患者が肩関節を挙上する際,挙上初期から肩甲骨の代償が出現し,可動域や筋力に影響を与えていることを臨床上経験する。Inmanは挙上開始から30°までは肩甲上腕リズムが個人間でばらつきがあり,その時期をsetting phaseと表現している。一方,Saharaらは60°までがsetting phaseであると言っており,その角度に関しては見解が分かれているのが現状である。このsetting phaseは肩甲骨周囲筋の僧帽筋や前鋸筋の活動で肩甲骨は胸郭に固定され,肩甲上腕関節での運動が主となるとBaggsは報告している。臨床においてsetting phaseにおける肩甲上腕関節や肩甲骨の評価は主観的な要素が多く,客観的評価が難しいと感じる。また,3次元解析装置などの高価な機器では実際の症例で計測することも難しく,有用であるとは言い切れない。近年,家庭用に開発された簡易ゲーム機で使用されているMicrosoft社製の簡易型多視点モーションキャプチャー装置Kinectセンサー(以下 Kinectセンサー)が広く普及している。このKinectセンサーは,小型デジタルカメラで被験者を撮影するだけで,コンピュータが身体の位置情報を取り込んで動作を瞬時に解析できる装置である。小型で安価な上に,被験者の身体にマーカーを貼り付けることなく,動作を解析できる利点を持ち合わせている。今回,肩関節外転時における肩甲骨による代償動作を肩関節の上方変位量と定義し,Kinectセンサーを用いてsetting phaseにおける肩関節外転時の肩関節上方変位量について検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院にて肩腱板断裂修復術を施行した患者11名11肢(年齢61.3±10.5歳,術後経過期間4.1±1.5ヶ月)とした。被験者に肩関節0度から30度および60度までの肩関節外転運動を毎秒1回のペースで10回連続行わせた。その際の運動の記録を2m前方・高さ70cmよりKinectセンサーにて記録した。得られた情報をmicrosoft visual C#を用いて独自でプログラミングを行い,Excelに出力し得られたデータから肩関節および肘関節の座標を算出した。得られたデータから,肩関節外転時の肘のX座標が一番高い時点での肩関節Y座標を算出し,測定した10回の平均値を代表値とした。安静時を0%として正規化し変化量を求めた。同様に非術側も行った。なお,Kinectセンサーの測定は,全例検者1名が測定した。統計学的解析は,SPSSver17.0を用いて外転30度および外転60度における術側・非術側について対応のあるt検定を用いて,有意水準は5%とした。
【結果】
肩関節外転30°における上方変位量は術側4.7±3.1%であり,非術側は1.9±1.9%であり,有意差が認められた。また,肩関節外転60°における上方変位量は術側7.6±3.7%であり,非術側は3.6±2.5%であり,有意差が認められた。
【考察】
肩腱板断裂術後患者において術側は非術側と比較し肩関節外転30°および60°時に肩関節の上方変位量に差があることがわかった。術側の方が非術側に比べ,外転動作時における肩甲骨の代償動作が大きいことが示唆された。臨床においてsetting phaseにおける肩関節の評価は主観的な要素が多く,客観的評価が難しいと感じていたが,今回の結果からKinectセンサーを用いることにより同条件であればsetting phaseにおける肩関節の上方変位量を算出することが可能であった。これは肉眼での観察と同様のレベルであると思われる。今後,setting phaseにおける肩関節の上方変位量と可動域や筋力,ADLとの関係性を明らかにしたい。
【理学療法学研究としての意義】
Kinectセンサーを用いて肩関節の上方変位量を計測することが可能であり,臨床の現場においても客観的に評価できることが示唆された。