第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述32

運動器 その他

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高倉保幸(埼玉医科大学 保健医療学部)

[O-0241] 橈骨遠位端骨折の保存療法例の検討

手関節尺側部痛の予防に関する一考察

小野正博1, 見田忠幸1, 服部司1, 三倉一輝2, 山本昌樹3 (1.医療法人秋山整形外科クリニックリハビリテーション科, 2.医療法人昇陽会城北整形外科クリニックリハビリテーション科, 3.大久保病院明石スポーツ整形・関節外科センター)

キーワード:橈骨遠位端骨折, 三角線維軟骨複合体, ulnocarpal stress test

【はじめに,目的】橈骨遠位端骨折後において,労作時の手関節尺側部痛が遺残しやすく,その原因は手関節尺側部の安定性を担う三角線維軟骨複合体(以下,TFCC)の損傷が合併するためであるとされる。今回,橈骨遠位端骨折の保存療法を施行した5症例において,TFCCの修復に着目した治療により良好な成績が得られたため報告する。

【方法】対象は,橈骨遠位端骨折を受傷し,当院にて保存療法を施行した60歳代から70歳代の5症例(男性2名,女性3名)を対象とした。ギプス固定期間は,症例1,2,3が3週間,症例4,5が4週間であった。単純X線画像によるAO分類を用いた骨折型の分類は,症例1がA2-1,症例2がB3-2,症例3がC1-1,症例4がB2-2,症例5がC3-1であり,全例とも尺骨茎状突起骨折の合併は認めなかった。また,各症例のVolar tilt(以下,VT),Radial length(以下,RL)を計測した。症例1,3,4は各評価共に正常範囲内であったが,症例2はRL2mmと橈骨の短縮を認め,症例5はRL1.5mm,VT-26.6°であり,橈骨短縮・骨片の背側転位を認めた。理学療法初期評価にて,全例共にulnocarpal stress testとTFCCの圧痛が陽性であった。関節可動域(以下,ROM)は,症例1が手関節掌屈45°,背屈50°,症例2が掌屈60°,背屈50°,症例3が掌屈50°,背屈70°,症例4が掌屈35°,背屈55°,症例5が掌屈40°,背屈20°であった。治療は,TFCCの修復期間である受傷後4週までの期間は,橈骨手根関節と手根中央関節のROM exercise(以下,ROM-ex)を行い,手関節の第2から第4区画を走行する長・短橈側手根伸筋,長母指伸筋,示指伸筋,総指伸筋といった手外来筋の収縮にて各腱の滑走を促した。受傷後4週以降にulnocarpal stress testとTFCCの圧痛を確認し,両者の陰性化を確認してから前腕回内外運動による遠位橈尺関節のROM-exを追加して実施した。

【結果】各症例の治療期間とROMは,症例1が治療期間5週間で手関節掌屈85°,背屈90°,前腕回内・外90°であった。症例2が治療期間6週間,掌屈90°,背屈90°,回内80°,回外90°であった。症例3が治療期間6週間,掌屈85°,背屈90°,回内90°,回外90°であった。症例4が治療期間6週間,掌屈85°,背屈85°,回内80°,回外90°であった。症例5が治療期間12週間,掌屈50°,背屈85°,回内60°,回外90°であった。運動療法終了時,全例で手関節尺側部痛は認めず,斎藤による橈骨遠位端骨折の治療成績評価では,症例1から4がExcellent,症例5はgoodであった。

【考察】TFCCは三角線維軟骨,メニスクス類似体,橈尺靭帯,尺側側副靭帯,尺側手根伸筋の腱鞘床,尺骨手根骨間靭帯などから構成され,遠位橈尺関節の主要支持組織であり,同組織の損傷は遠位橈尺関節の不安定性を生じさせる。橈骨遠位端骨折では,このTFCC損傷の合併が56~89%と高率であり,特に65歳以上では何らかのTFCC損傷を伴っていると考えた方が妥当であると報告されている。これについて小野らは,sugar tongs型ギプスシーネで3~4週間固定すれば,TFCCが尺骨小窩での剥離をしていても修復可能であると報告している。したがって,ulnocarpal stress testが陽性でTFCC損傷の合併を疑う例では,修復期間である4週までは同組織への負荷を避けるべきであると考えられる。またKleinmanは,TFCCの構成要素である橈尺靭帯が前腕の回内外運動を制動する組織であるとしている。そこで今回経験した5症例において,受傷後4週まではTFCCの組織修復を考慮し,橈骨手根関節および手根中央関節のROM-exと腱の滑走維持を行い,前腕回旋運動による遠位橈尺関節のROM-exは4週以降で実施した。その結果,手関節尺側部痛を遺残することなく良好な成績が得られた。本骨折において,ulnocarpal stress testの実施が必要不可欠であり,本テスト陽性例においてTFCCの修復を考慮した運動療法が必要であり,遠位橈尺関節の不安定症,手関節尺側部痛の予防が可能であると考えられた。

【理学療法学研究としての意義】橈骨遠位端骨折後では,手関節の尺側部痛が遺残しやすく,治療成績を大きく左右する。本研究は,橈骨遠位端骨折のTFCC損傷合併例において,手関節尺側部痛を予防し,TFCCの修復を考慮した運動療法の指針になるものと考えられる。