第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述32

運動器 その他

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高倉保幸(埼玉医科大学 保健医療学部)

[O-0242] 部分荷重期の患者に自転車エルゴメーターの使用は可能か?第2報

足関節背屈制限を呈した症例を想定して

吉澤悠喜1, 山下和樹1, 志水紀文1, 岩井信彦2 (1.医療法人伯鳳会赤穂中央病院リハビリテーション部, 2.神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

Keywords:自転車エルゴメーター, 部分荷重, 背屈制限

【はじめに,目的】
自転車エルゴメーター(以下,エルゴメーター)は主に持久力向上を目的に様々な疾患に使用される。しかし,部分荷重期の患者を対象とした際,駆動時にどの程度下肢に荷重されているか不明なため臨床では使用されていない。我々は健常人を対象としてエルゴメーター駆動時のZ軸方向への荷重値を計測し一昨年,本大会で報告した。その結果,特に足関節・足部疾患を有する部分荷重期の患者へのエルゴメーターの使用は一定条件下のもとで可能であるとの考察に至った。しかし足関節に可動域制限のある症例が駆動した場合,どのような荷重値となるのか不明である。今回足関節拘縮モデルを用いて荷重値を計測し,部分荷重期における患者の負荷設定を考慮する際の一助になる結果が得られたため,若干の考察を加え報告する。
【方法】
対象は健常男性12名で,年齢29.0±6.9歳,体重69.4±11.2kgであった。背屈0°,背屈-10°のギプスシーネを作成し,各駆動時に弾性包帯で巻き固定した。背屈角度は,フリー,0°,-10°の3群にて実施し,左下肢の測定を行った。エルゴメーターはコードレスバイク65i(セノー株式会社製)を用い,サドルは下死点にて膝屈曲30°となる高さとした。荷重値の計測には両足部に靴式下肢荷重計(ANIMA社製,ゲートコーダMP-1000)を装着し,トークリップを使用せず,ペダルの中心に第2中足骨頭を接地させた。負荷設定は,仕事率を25w・50w・75w・100w・125wの5種類,回転数は50回転とした。駆動は各足関節背屈角度,仕事率を各々組み合わせた15通りをランダムに行い,実施前に体がぶれずに漕ぐよう説明し,十分な練習を行った後計測を開始した。駆動時間は各々30秒間とし,中間10秒間の荷重値を計測し,最大荷重値を記録した。統計処理は,足関節背屈角度や仕事率の違いが荷重値に及ぼす影響を検討するため,各項目について繰り返しのある二元配置分散分析を行った。有意差を認めた場合は一方の要因を水準ごとに分け,Tukey法にて多重比較を行い,有意水準は5%とした。
【結果】
各駆動時における最大荷重値の平均は,背屈フリーにて25w時13.2±2.7kg,50w時14.1±3.9kg,75w時18.7±3.5kg,100w時22.9±4.2kg,125w時26.1±3.0kgであった。背屈0°にて25w時13.3±3.1kg,50w時13.4±3.8kg,75w時19.0±2.7kg,100w時21.5±2.6kg,125w時26.0±3.2kgであった。背屈-10°にて25w時13.1±3.8kg,50w時14.8±3.1kg,75w時18.4±3.5kg,100w時22.1±3.6kg,125w時25.3±3.1kgであった。二元配置分散分析の結果,背屈角度の変化による荷重値にて3群間で有意差はなく(P=0.94),仕事率の変化による荷重値は有意に変化した(P<0.05)。交互作用はみられなかった(P=0.81)。仕事率の変化を水準ごとに分け多重比較を行った結果,背屈フリー時は25w・50w間で有意差はなく,それ以外の2群間で有意差を認めた(P<0.05)。背屈0°時は25w・50w間,75w・100w間で有意差はなく,それ以外の2群間で有意差を認めた(P<0.05)。背屈-10°時は25w・50w間で有意差はなく,それ以外の2群間で有意差を認めた(P<0.05)。
【考察】
荷重値が最大になるクランク角度は約90°であるといわれており,その際の足関節の角度は背屈フリー時に比較し足関節拘縮モデルの方が底屈位になるため,足関節拘縮モデルは最大荷重時にペダルに働く前後方向の力が増加し,垂直方向の力が減少すると予想していた。しかし本結果では背屈角度の違いにおける荷重値にほぼ差がみられなかった。これは足関節拘縮モデルの場合,荷重値が最大になるクランク角度が背屈フリー時より大きくなる,すなわちペダルの位置がより下方にある時に最大荷重値となるからではないかと考えた。拘縮モデルでの最大荷重時には,足関節が底屈位にありクランク角度も90°以上の位置にあるので,ペダルに働く垂直方向の力の向きがクランクの回転する円周の接線の向きに近くなる。そのため,クランク回転時に働くペダルへの力の向きは,垂直成分の割合が大きくなる。またその時にペダルへ働いた力の向きが,背屈フリーでの最大荷重時のペダルへ働く力の向きとほぼ同じ方向であったために,背屈角度の違いによる荷重値の変化がみられなかったと思われる。また,今回計測された最大荷重値を対象患者の体重で除せば体重比の算出を行うことができるため,エルゴメーターの使用が可能かの判断ができ,臨床でも応用できる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
足関節拘縮モデルにおけるエルゴメーター駆動中の足底にかかる荷重値を知ることは,足関節可動域制限を有する部分荷重期の患者にエルゴメーターを使用する際の一つの指標になると考える。