[O-0337] 回復期片麻痺患者に対するBWSTTの即時効果
3軸加速度計による分析
Keywords:片麻痺, 部分免荷トレッドミル, 加速度計
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者が呈する歩行障害はADLを阻害し,QOLを低下させる一因である。最大歩行速度は片麻痺患者の生活範囲と関連することから,歩行速度向上はADLを改善させると考える。部分免荷トレッドミル歩行練習(Body weight supported treadmill training:BWSTT)は脳卒中ガイドライン2009でグレードBとされ,高いパフォーマンスでの練習により運動学習および機能改善を図る課題志向アプローチである。慢性期片麻痺患者においては,BWSTTにより歩行速度向上・左右対称的な歩容獲得の効果があると報告されているが,回復期片麻痺患者に対するBWSTTの効果の検討は少ない。本研究では回復期片麻痺患者にBWSTTを実施し,その前後の10m歩行試験の結果を3軸加速度計により分析し,BWSTTの即時効果を歩行速度・重心移動距離・左右対称性から検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院に入院する脳卒中片麻痺患者のうち,初回発症で歩行が監視レベル以上であり,歩行時下肢に疼痛がない10名(男性8名・女性2名,年齢65±14歳,Br.st V:7名・VI:3名,脳出血7名,脳梗塞3名,発症からの日数:23±14日)とした。対象者にはL3棘突起部に3軸(上下・左右・前後)加速度計であるMG-M1110TM(75×50×20mm,約120g,LSIメディエンス,東京)を装着させ,10m歩行試験を快適歩行・最大歩行でそれぞれ3回ずつ施行した。MG-M1110TMは,歩行時間・速度,歩幅,左右・上下重心移動距離,遊脚期振り出しの変動係数(CV)を自動的に算出し,また,得られた加速度のリサージュ解析から体幹左右対称性(Lissajous index:LI)を評価することができる。さらに,歩行時の荷重値と相関する上方最大加速度,推進力を反映する前方最大加速度を10m歩行試験中において測定した。次に,BWSTTをAlter GTM(日本シグマックス,東京)を用い,免荷量を体重の20%,練習時間5分×2回,速度を対象者の主観的に歩行可能な最大速度または客観的に麻痺側脚の振り出しが可能な速度に設定して実施した。さらに,BWSTT後,同様の方法で10m歩行試験を実施した。統計処理には快適・最大歩行それぞれの3回の10m歩行試験の結果のうち,最も時間の短いものを採用し,統計ソフトIBM SPSS Statistics 21.0を用い,有意水準5%をもって統計学的有意とした。
【結果】
BWSTTにより,10m歩行時間は,快適12.1±3.2秒から10.9±2.8秒,最大9.1±2.7秒から8.0±2.3秒,歩行速度は,快適51.9±11.5m/minから57.9±13.9m/min,最大70.9±17.9m/minから79.9±21.3m/minへそれぞれ有意に改善した(p<0.01)。また歩幅は,快適46.5±7.8cmから51.4±9.1cm,最大54.9±10.1cmから57.9±11.3cm,歩行率は最大歩行のみ128.2±18.3から136.4±30.4step/minへとそれぞれ有意に改善した(p<0.05)。重心移動距離は,快適歩行の上下重心移動距離においてのみ4.6±1.4cmから5.4±2.0cmと有意に増加し(p<0.05),振り出しの歩行CVは,快適3.8±1.8から3.2±1.7,最大3.7±1.7から3.3±1.9と麻痺側脚においてのみ有意に改善した(p<0.05)。上方および前方最大加速度は,快適・最大歩行ともに両脚において有意に増加した(p<0.05)。左右重心移動距離やLIには有意差はみられなかった。
【考察】
本研究の結果,BWSTTにより歩行速度が有意に向上した。これは快適歩行では歩幅拡大,最大歩行では歩幅拡大と歩行率増加に起因すると考えられる。近藤らは,脳卒中患者における歩行速度向上の戦略として,歩行速度60m/min以下は歩幅拡大,60m/min以上は歩行率増加を選択するとしており,本研究においてもこれらの戦略の選択の妥当性が示唆された。また,前方最大加速度は両脚ともに増加していることから,BWSTTにより歩幅拡大のための推進力増大が,非麻痺側のみならず麻痺側でも生じていると考えられた。上方最大加速度は荷重値と相関し,荷重値は屋外を含めた歩行能力と関係するという報告から,BWSTTは片麻痺患者の歩行能力をさらに向上させる可能性が示唆された。さらに振り出しのCVは麻痺側脚で有意に改善していたことから,麻痺側脚の規則的な振り出しが促されたものと考えられた。一方,体幹の左右対称性を示すLIや左右重心移動距離に有意差がなかったことから,歩行バランスには影響はなかった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から,BWSTTは,歩行バランスを崩さずに両脚の荷重値・推進力を向上させ,歩行能力向上・ADL拡大が期待されることから,回復期片麻痺患者にBWSTTを実施する意義があると考える。
脳卒中片麻痺患者が呈する歩行障害はADLを阻害し,QOLを低下させる一因である。最大歩行速度は片麻痺患者の生活範囲と関連することから,歩行速度向上はADLを改善させると考える。部分免荷トレッドミル歩行練習(Body weight supported treadmill training:BWSTT)は脳卒中ガイドライン2009でグレードBとされ,高いパフォーマンスでの練習により運動学習および機能改善を図る課題志向アプローチである。慢性期片麻痺患者においては,BWSTTにより歩行速度向上・左右対称的な歩容獲得の効果があると報告されているが,回復期片麻痺患者に対するBWSTTの効果の検討は少ない。本研究では回復期片麻痺患者にBWSTTを実施し,その前後の10m歩行試験の結果を3軸加速度計により分析し,BWSTTの即時効果を歩行速度・重心移動距離・左右対称性から検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院に入院する脳卒中片麻痺患者のうち,初回発症で歩行が監視レベル以上であり,歩行時下肢に疼痛がない10名(男性8名・女性2名,年齢65±14歳,Br.st V:7名・VI:3名,脳出血7名,脳梗塞3名,発症からの日数:23±14日)とした。対象者にはL3棘突起部に3軸(上下・左右・前後)加速度計であるMG-M1110TM(75×50×20mm,約120g,LSIメディエンス,東京)を装着させ,10m歩行試験を快適歩行・最大歩行でそれぞれ3回ずつ施行した。MG-M1110TMは,歩行時間・速度,歩幅,左右・上下重心移動距離,遊脚期振り出しの変動係数(CV)を自動的に算出し,また,得られた加速度のリサージュ解析から体幹左右対称性(Lissajous index:LI)を評価することができる。さらに,歩行時の荷重値と相関する上方最大加速度,推進力を反映する前方最大加速度を10m歩行試験中において測定した。次に,BWSTTをAlter GTM(日本シグマックス,東京)を用い,免荷量を体重の20%,練習時間5分×2回,速度を対象者の主観的に歩行可能な最大速度または客観的に麻痺側脚の振り出しが可能な速度に設定して実施した。さらに,BWSTT後,同様の方法で10m歩行試験を実施した。統計処理には快適・最大歩行それぞれの3回の10m歩行試験の結果のうち,最も時間の短いものを採用し,統計ソフトIBM SPSS Statistics 21.0を用い,有意水準5%をもって統計学的有意とした。
【結果】
BWSTTにより,10m歩行時間は,快適12.1±3.2秒から10.9±2.8秒,最大9.1±2.7秒から8.0±2.3秒,歩行速度は,快適51.9±11.5m/minから57.9±13.9m/min,最大70.9±17.9m/minから79.9±21.3m/minへそれぞれ有意に改善した(p<0.01)。また歩幅は,快適46.5±7.8cmから51.4±9.1cm,最大54.9±10.1cmから57.9±11.3cm,歩行率は最大歩行のみ128.2±18.3から136.4±30.4step/minへとそれぞれ有意に改善した(p<0.05)。重心移動距離は,快適歩行の上下重心移動距離においてのみ4.6±1.4cmから5.4±2.0cmと有意に増加し(p<0.05),振り出しの歩行CVは,快適3.8±1.8から3.2±1.7,最大3.7±1.7から3.3±1.9と麻痺側脚においてのみ有意に改善した(p<0.05)。上方および前方最大加速度は,快適・最大歩行ともに両脚において有意に増加した(p<0.05)。左右重心移動距離やLIには有意差はみられなかった。
【考察】
本研究の結果,BWSTTにより歩行速度が有意に向上した。これは快適歩行では歩幅拡大,最大歩行では歩幅拡大と歩行率増加に起因すると考えられる。近藤らは,脳卒中患者における歩行速度向上の戦略として,歩行速度60m/min以下は歩幅拡大,60m/min以上は歩行率増加を選択するとしており,本研究においてもこれらの戦略の選択の妥当性が示唆された。また,前方最大加速度は両脚ともに増加していることから,BWSTTにより歩幅拡大のための推進力増大が,非麻痺側のみならず麻痺側でも生じていると考えられた。上方最大加速度は荷重値と相関し,荷重値は屋外を含めた歩行能力と関係するという報告から,BWSTTは片麻痺患者の歩行能力をさらに向上させる可能性が示唆された。さらに振り出しのCVは麻痺側脚で有意に改善していたことから,麻痺側脚の規則的な振り出しが促されたものと考えられた。一方,体幹の左右対称性を示すLIや左右重心移動距離に有意差がなかったことから,歩行バランスには影響はなかった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から,BWSTTは,歩行バランスを崩さずに両脚の荷重値・推進力を向上させ,歩行能力向上・ADL拡大が期待されることから,回復期片麻痺患者にBWSTTを実施する意義があると考える。