[O-0415] 人工股関節全置換術後の身体機能と健康関連QOLの関係
術後1年時までの縦断的研究
キーワード:人工股関節全置換術, 身体機能, 健康関連QOL
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(THA)後は,股関節可動域(股ROM)や下肢筋力,歩行能力が改善する。さらに,患者立脚型尺度の健康関連QOL(HRQOL)も改善する。しかし,前者の身体機能を客観的に評価した結果とHRQOLの関係を検討した報告は少なく,身体機能の改善とHRQOLの改善に関係があるのかは不明である。本研究の目的は,THA前後の股ROM,下肢筋力,歩行能力,HRQOLを縦断的に調査し,各々の関係を検討することである。
【方法】
対象は,当院で初回片側THAを行い,非術側に進行期以上の変形性股関節症が無い59例(59.2±8.4歳,女性54例,男性5例,術後入院期間14.6±2.3日)とした。全例,理学療法介入および評価は同一の理学療法士が行い,術式は後側方侵入法で統一された。調査時期は,入院時(術前),術後7週時,術後6ヶ月時,術後1年時とした。身体機能の評価は,股ROM(屈曲,伸展,外転,内転,外旋),筋力(股外転,膝伸展),歩行能力(歩行速度,歩幅,歩行率,6分間歩行距離)とした。股ROMは,日本整形外科学会が定めた方法で測定した。筋力は徒手筋力測定器を使用し,股外転筋力はIeiriら(2014)の方法,膝伸展筋力は西島ら(2004)の方法で測定し,3回測定の平均値を用いた。歩行速度と歩幅,歩行率はリハビリテーション室内の14mの歩行路で2回測定した10m最大歩行速度の平均値より算出した。6分間歩行距離は,木村ら(1995)のシャトル・スタミナウォークテストの方法を参考に,10mの間隔をおいた椅子の周りを6分間に歩行した距離とした。HRQOLの評価はSF-36v2の8下位尺度とした。統計的解析は,予め主成分分析により項目数を縮約した後に,従属変数を身体機能の項目,独立変数をSF-36v2の下位尺度とした正準相関分析を適用した。これらの解析にはR2.8.1(CRAN;フリーウェア)を用いた。
【結果】
全ての評価を行えた者は,術前と術後7週時(48.1±7.6日)は59例,加えて術後6ヵ月時(193.9±49.5日)も行えた者は24例,術後1年時(414.3±99.8日)は25例であった。項目数を縮約した結果,股ROMは術側の股外転,内転,外旋,筋力は術側の股外転,膝伸展,歩行能力は歩行速度,SF-36v2は身体機能(PF),体の痛み(BP),心の健康(MH)の項目が選択された。股ROM(°)の外転は術前14.0±7.7,術後7週時19.6±5.8,術後6ヵ月時23.4±6.7,術後1年時24.8±5.7であった。内転は,8.1±5.0,8.0±3.7,11.5±4.0,10.2±3.7,外旋は20.6±12.6,18.5±8.2,21.0±9.7,22.7±6.9であった。筋力(N)の股外転は96.7±26.8,115.8±24.4,132.1±30.4,132.8±26.7,膝伸展は149.9±54.5,152.7±51.6,185.8±53.8,224.8±76.7であった。歩行速度(m/min)は88.3±18.2,95.1±14.8,105.0±17.3,108.9±16.1であった。SF-36v2のPFは16.8±13.0,36.9±12.2,43.8±10.2,44.4±10.5,BPは32.9±8.0,45.0±8.2,52.1±7.4,53.7±7.4,MHは47.6±11.0,53.0±8.9,55.2±8.1,54.6±8.4であった。正準相関分析の結果,術前と術後7週時は,身体機能とSF-36v2の下位尺度に有意な関係は認められなかった。術後6ヵ月時は,股ROMの外旋[正準負荷量(CL)=-.62],歩行速度(CL=-.57),股外転筋力(CL=-.55),膝伸展筋力(CL=-.42)とSF-36v2のPF(CL=-.75),BP(CL=-.72),MH(CL=-.63)に強い関係が認められた[正準相関係数(r)=.77,p<.05]。術後1年時は股ROMの内転(CL=-.82),外旋(CL=-.78),股外転筋力(CL=-.70),膝伸展筋力(CL=-.54),歩行速度(CL=-.52)とSF-36v2のPF(CL=-.89),BP(CL=-.60)に強い関係が認められた(r=.81,p<.05)。
【考察】
THA後6ヵ月以降の身体機能とHRQOLに明らかな関係が認められた。これは,術後6ヵ月・1年時に身体機能が高い症例ほどHRQOLも高く,機能が低い症例ほどHRQOLも低いという結果である。すなわち,術後の身体機能とHRQOLは相互関係にあるといえる。しかし,この関係は術後早期には認められなかった。これは,術後早期は身体機能よりも疼痛や不安などの他要因がHRQOLに影響していたと推測する。また,術後6ヵ月以降でも股ROMや下肢筋力,歩行能力が低い症例がいることも分かった。今後は,このような症例に対してリハビリテーション介入を行うことにより機能改善が図れるか,またその改善はHRQOLの改善に反映されるのかを検証したい。
【理学療法学研究としての意義】
THA後の身体機能とHRQOLに関係があることがわかった。これは,術後定期的に理学療法評価を行い,身体機能を把握する意義となる。
人工股関節全置換術(THA)後は,股関節可動域(股ROM)や下肢筋力,歩行能力が改善する。さらに,患者立脚型尺度の健康関連QOL(HRQOL)も改善する。しかし,前者の身体機能を客観的に評価した結果とHRQOLの関係を検討した報告は少なく,身体機能の改善とHRQOLの改善に関係があるのかは不明である。本研究の目的は,THA前後の股ROM,下肢筋力,歩行能力,HRQOLを縦断的に調査し,各々の関係を検討することである。
【方法】
対象は,当院で初回片側THAを行い,非術側に進行期以上の変形性股関節症が無い59例(59.2±8.4歳,女性54例,男性5例,術後入院期間14.6±2.3日)とした。全例,理学療法介入および評価は同一の理学療法士が行い,術式は後側方侵入法で統一された。調査時期は,入院時(術前),術後7週時,術後6ヶ月時,術後1年時とした。身体機能の評価は,股ROM(屈曲,伸展,外転,内転,外旋),筋力(股外転,膝伸展),歩行能力(歩行速度,歩幅,歩行率,6分間歩行距離)とした。股ROMは,日本整形外科学会が定めた方法で測定した。筋力は徒手筋力測定器を使用し,股外転筋力はIeiriら(2014)の方法,膝伸展筋力は西島ら(2004)の方法で測定し,3回測定の平均値を用いた。歩行速度と歩幅,歩行率はリハビリテーション室内の14mの歩行路で2回測定した10m最大歩行速度の平均値より算出した。6分間歩行距離は,木村ら(1995)のシャトル・スタミナウォークテストの方法を参考に,10mの間隔をおいた椅子の周りを6分間に歩行した距離とした。HRQOLの評価はSF-36v2の8下位尺度とした。統計的解析は,予め主成分分析により項目数を縮約した後に,従属変数を身体機能の項目,独立変数をSF-36v2の下位尺度とした正準相関分析を適用した。これらの解析にはR2.8.1(CRAN;フリーウェア)を用いた。
【結果】
全ての評価を行えた者は,術前と術後7週時(48.1±7.6日)は59例,加えて術後6ヵ月時(193.9±49.5日)も行えた者は24例,術後1年時(414.3±99.8日)は25例であった。項目数を縮約した結果,股ROMは術側の股外転,内転,外旋,筋力は術側の股外転,膝伸展,歩行能力は歩行速度,SF-36v2は身体機能(PF),体の痛み(BP),心の健康(MH)の項目が選択された。股ROM(°)の外転は術前14.0±7.7,術後7週時19.6±5.8,術後6ヵ月時23.4±6.7,術後1年時24.8±5.7であった。内転は,8.1±5.0,8.0±3.7,11.5±4.0,10.2±3.7,外旋は20.6±12.6,18.5±8.2,21.0±9.7,22.7±6.9であった。筋力(N)の股外転は96.7±26.8,115.8±24.4,132.1±30.4,132.8±26.7,膝伸展は149.9±54.5,152.7±51.6,185.8±53.8,224.8±76.7であった。歩行速度(m/min)は88.3±18.2,95.1±14.8,105.0±17.3,108.9±16.1であった。SF-36v2のPFは16.8±13.0,36.9±12.2,43.8±10.2,44.4±10.5,BPは32.9±8.0,45.0±8.2,52.1±7.4,53.7±7.4,MHは47.6±11.0,53.0±8.9,55.2±8.1,54.6±8.4であった。正準相関分析の結果,術前と術後7週時は,身体機能とSF-36v2の下位尺度に有意な関係は認められなかった。術後6ヵ月時は,股ROMの外旋[正準負荷量(CL)=-.62],歩行速度(CL=-.57),股外転筋力(CL=-.55),膝伸展筋力(CL=-.42)とSF-36v2のPF(CL=-.75),BP(CL=-.72),MH(CL=-.63)に強い関係が認められた[正準相関係数(r)=.77,p<.05]。術後1年時は股ROMの内転(CL=-.82),外旋(CL=-.78),股外転筋力(CL=-.70),膝伸展筋力(CL=-.54),歩行速度(CL=-.52)とSF-36v2のPF(CL=-.89),BP(CL=-.60)に強い関係が認められた(r=.81,p<.05)。
【考察】
THA後6ヵ月以降の身体機能とHRQOLに明らかな関係が認められた。これは,術後6ヵ月・1年時に身体機能が高い症例ほどHRQOLも高く,機能が低い症例ほどHRQOLも低いという結果である。すなわち,術後の身体機能とHRQOLは相互関係にあるといえる。しかし,この関係は術後早期には認められなかった。これは,術後早期は身体機能よりも疼痛や不安などの他要因がHRQOLに影響していたと推測する。また,術後6ヵ月以降でも股ROMや下肢筋力,歩行能力が低い症例がいることも分かった。今後は,このような症例に対してリハビリテーション介入を行うことにより機能改善が図れるか,またその改善はHRQOLの改善に反映されるのかを検証したい。
【理学療法学研究としての意義】
THA後の身体機能とHRQOLに関係があることがわかった。これは,術後定期的に理学療法評価を行い,身体機能を把握する意義となる。