[O-0497] 運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚の検討
―心理・社会的要因に着目して―
Keywords:運動, 視覚, 異常感覚
【はじめに,目的】幻肢痛や複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome:CRPS)type 1などの発生要因として運動と視覚情報の不一致が考えられている(Harris 1999)。健常者でも,運動と視覚情報の不一致により疼痛といった様々な異常感覚が惹起されることが報告されている(Foellら2013)。しかし,異常感覚が惹起される詳細なメカニズムは明らかにされていない。そこで,心理・社会的要因が運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚に関係しているかを検討することで,異常感覚が惹起されるメカニズムの解明に繋がるのではないかと考え本研究を行った。
【方法】対象は,健常成人52名(男性15名,女性37名,平均年齢37.2±13.1歳)であった。運動課題は,被験者を椅子座位とし前方正中線上に片面のみ鏡の姿勢鏡を配置して両上肢を床面と水平の位置まで挙上した肢位を開始肢位とした。被験者には右側から非鏡面または鏡面を見るように指示し,臍部の高さまでの上肢挙上下制運動を1.0Hzの速さで40秒間繰り返した。非鏡面を見ながら両上肢を同時に挙上下制させる条件をコントロール・一致条件,鏡面を見ながら両上肢を同時に挙上下制させる条件を鏡・一致条件とした。また,両上肢を同時に20秒間挙上下制させた後,合図で左右交互の挙上下制運動に切り替えて更に20秒間繰り返す条件をコントロール・不一致条件と鏡・不一致条件(以下,MI条件)とした。4条件は被験者ごとにランダムとし,各条件間は5分以上の休憩後に疲労が残存していないことを確認した。運動課題前に職歴,既婚歴,家庭環境などの社会的要因に関する質問紙と心理的要因としてState Trait Anxiety Inventory(以下,STAI),Profile of Mood States短縮版(以下,POMS)を評価した。運動課題後は,Foellら(2013)の報告で異常感覚の評価で使用された質問紙を用い14種類の異常感覚について,種類とその強さをNumeric Rating Scale(以下,NRS)を用い0を全く感じない,10を非常に感じるとして評価した。統計学的分析は,4条件間の各異常感覚のNRSの比較にFriedman検定を実施し,Bonferroni法による多重比較検定を行った。また,異常感覚を惹起した被験者の心理・社会的要因を明らかにするために異常感覚を惹起しなかった群(NRS 0)と惹起した群(NRS 1以上)の2群に分け,心理・社会的要因についてχ二乗検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用い比較検討した。なお,有意水準はすべて5%未満とした。
【結果】4条件間の比較では,MI条件は他の条件と比較して「腕の増加」,「奇妙さ」,「嫌悪感」のNRSが有意に高かった(p<0.05)。またMI条件で「腕の増加」,「奇妙さ」,「嫌悪感」を惹起しなかった群と惹起した群の心理・社会的要因を比較すると,惹起した群は年齢が有意に低く,職歴も有意に浅かった(p<0.05)。STAI,POMSは有意差を認めなかったが,惹起した群でPOMSの抑うつ-落ち込み,怒り-敵意,疲労,混乱の得点が高い傾向を認めた。
【考察】今回,心理・社会的要因が運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚と関係するか検討した。結果は,MI条件で「腕の増加」,「奇妙さ」,「嫌悪感」のNRSが有意に高かった。運動と視覚情報の整合性が保たれた状態では,身体部位を自己身体の一部と認識できるが,整合性が崩れると自己身体の一部であると認識できないとされている(Jeannerod 2003)。MI条件は運動と視覚情報の整合性が崩れ「腕の増加」という感覚を惹起させたのではないかと考えた。また,整合性が崩れた状態が「奇妙さ」や「嫌悪感」といった感覚を惹起させたと考えた。異常感覚を惹起した群は,年齢が低く職歴も浅くPOMSの得点が高い傾向であった。POMSは最近1週間の気分の変化を評価している。この結果から,日常の気分の変化が異常感覚の惹起に関係し,その背景には年齢や職歴が関係している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今回,運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚に年齢や職歴,最近の気分の変化といった心理・社会的要因が関係することが示唆された。この結果は,運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚のメカニズムの解明に繋がるのではないかと考える。
【方法】対象は,健常成人52名(男性15名,女性37名,平均年齢37.2±13.1歳)であった。運動課題は,被験者を椅子座位とし前方正中線上に片面のみ鏡の姿勢鏡を配置して両上肢を床面と水平の位置まで挙上した肢位を開始肢位とした。被験者には右側から非鏡面または鏡面を見るように指示し,臍部の高さまでの上肢挙上下制運動を1.0Hzの速さで40秒間繰り返した。非鏡面を見ながら両上肢を同時に挙上下制させる条件をコントロール・一致条件,鏡面を見ながら両上肢を同時に挙上下制させる条件を鏡・一致条件とした。また,両上肢を同時に20秒間挙上下制させた後,合図で左右交互の挙上下制運動に切り替えて更に20秒間繰り返す条件をコントロール・不一致条件と鏡・不一致条件(以下,MI条件)とした。4条件は被験者ごとにランダムとし,各条件間は5分以上の休憩後に疲労が残存していないことを確認した。運動課題前に職歴,既婚歴,家庭環境などの社会的要因に関する質問紙と心理的要因としてState Trait Anxiety Inventory(以下,STAI),Profile of Mood States短縮版(以下,POMS)を評価した。運動課題後は,Foellら(2013)の報告で異常感覚の評価で使用された質問紙を用い14種類の異常感覚について,種類とその強さをNumeric Rating Scale(以下,NRS)を用い0を全く感じない,10を非常に感じるとして評価した。統計学的分析は,4条件間の各異常感覚のNRSの比較にFriedman検定を実施し,Bonferroni法による多重比較検定を行った。また,異常感覚を惹起した被験者の心理・社会的要因を明らかにするために異常感覚を惹起しなかった群(NRS 0)と惹起した群(NRS 1以上)の2群に分け,心理・社会的要因についてχ二乗検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用い比較検討した。なお,有意水準はすべて5%未満とした。
【結果】4条件間の比較では,MI条件は他の条件と比較して「腕の増加」,「奇妙さ」,「嫌悪感」のNRSが有意に高かった(p<0.05)。またMI条件で「腕の増加」,「奇妙さ」,「嫌悪感」を惹起しなかった群と惹起した群の心理・社会的要因を比較すると,惹起した群は年齢が有意に低く,職歴も有意に浅かった(p<0.05)。STAI,POMSは有意差を認めなかったが,惹起した群でPOMSの抑うつ-落ち込み,怒り-敵意,疲労,混乱の得点が高い傾向を認めた。
【考察】今回,心理・社会的要因が運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚と関係するか検討した。結果は,MI条件で「腕の増加」,「奇妙さ」,「嫌悪感」のNRSが有意に高かった。運動と視覚情報の整合性が保たれた状態では,身体部位を自己身体の一部と認識できるが,整合性が崩れると自己身体の一部であると認識できないとされている(Jeannerod 2003)。MI条件は運動と視覚情報の整合性が崩れ「腕の増加」という感覚を惹起させたのではないかと考えた。また,整合性が崩れた状態が「奇妙さ」や「嫌悪感」といった感覚を惹起させたと考えた。異常感覚を惹起した群は,年齢が低く職歴も浅くPOMSの得点が高い傾向であった。POMSは最近1週間の気分の変化を評価している。この結果から,日常の気分の変化が異常感覚の惹起に関係し,その背景には年齢や職歴が関係している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今回,運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚に年齢や職歴,最近の気分の変化といった心理・社会的要因が関係することが示唆された。この結果は,運動と視覚情報の不一致により惹起される異常感覚のメカニズムの解明に繋がるのではないかと考える。