[O-0596] 超音波診断装置を用いた筋膜マニピュレーションの効果の検証
―動筋への治療が拮抗筋に及ぼす影響について―
Keywords:筋膜マニピュレーション, 拮抗筋, 超音波診断装置
【はじめに,目的】
筋骨格系疾患における痛みは,筋膜・軟部組織・関節などの組織の炎症によって生じ,特定方向への運動の起こりやすさによる運動機能障害が原因とされる。運動機能障害は,動筋や拮抗筋のインバランスによって生じ,その原因の一つに筋膜の高密度化が挙げられる。筋膜の高密度化を改善させる徒手療法に筋膜マニピュレーション(Fascial Manipulation:以下FM)がある。FMは,協調中心と呼ばれる筋力のベクトルが収束する深筋膜上の高密度化した点を治療部位とし,摩擦熱により基質に正常な流動性を回復させ,コラーゲン線維間の癒着を除去する目的で実施する技術である。しかしながら,その治療効果を検証した研究は少ない。そこで,本研究は人体への侵襲が少ない超音波診断装置を使用し,動筋へのFMが拮抗筋に影響を及ぼすかについて検証することを目的とした。
【方法】
対象者は整形外科的既往のない健常成人男性10名で,平均年齢24.3(22-27)歳,身長と体重の平均値(標準偏差)は身長171.1(5.1)cm,体重63.8(7.1)kgであった。対象者の右腓腹筋外側頭に対し,FMを210秒間実施した。測定項目は1)筋膜移動距離(浅層と深層),2)超音波診断装置(日立メディコ社,EUB-7500)のReal-time elastography機能を使用した筋硬度(浅層と深層),3)Numeric Rating Scale:以下NRS,4)Hand Held Dynamometer(アニマ社製μTas-MT1):以下HHDを用いた足関節底背屈筋力の4項目とした。測定はFM介入前後,1週間後に全項目を実施し,3)は2日後も実施した。1)~3)の測定箇所は腹臥位にて下腿後面(腓腹筋外側頭の筋腹遠位),背臥位にて下腿前面(下腿中間の前脛骨筋上)の2箇所とした。まず,事前に電子ゴニオメーターを使用し,足関節底背屈の最大可動域を測定した。1)は超音波診断装置にて筋膜と筋束の接点を指標点とし,足関節0°から最大底背屈可動域の50%に関節角度を変化させた際の浅層筋膜と深層筋膜の各指標点間距離を計測した。2)は超音波診断装置Real-time elastography機能を使用し,専用のスタビライザーに基準物質を貼り,プローブに装着して測定した。抽出した画像よりStrain Ratio機能を用いて,基準物質と測定場所の歪み比で求めた。4)では,足関節底屈は腹臥位にて固定用ベルトに取り付けたHHDを中足骨底側に,背屈は背臥位にて中足骨背側に固定し実施した。統計学的解析は,統計解析ソフト(IBM SPSS Statistics19)を使用し,期間を要因とする反復測定による一元配置分散分析を実施し,主効果を認めたものに対して,多重比較検定(Bonferroni法)を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
1)では,足関節底背屈ともに下腿後面・前面の深層筋膜移動距離は介入前と比べ,介入後,1週間後で有意に大きい値を示した。2)では,下腿後面において浅層の比率は介入前と比べて1週間後で,深層は介入前と比べて介入後と1週間後で有意に大きくなり筋硬度は減少した。下腿前面では浅層・深層の比率は介入前と比べ,介入後で有意に大きくなり筋硬度は減少した。3)では,下腿後面・前面において介入前と比べ,介入後と1週間後で有意に小さい値を示した。1)~3)における介入後と1週間後の間には有意な差を認めず,4)ではすべての期間において有意な差を認めなかった。
【考察】
動筋へのFMは動筋の深層筋膜移動距離,筋硬度,疼痛閾値のみならず,拮抗筋の深層筋膜移動距離,筋硬度,疼痛閾値にも効果を示した。深層の筋膜移動距離は,下腿後面では腓腹筋とヒラメ筋間,下腿前面では前脛骨筋と長母趾伸筋間の滑走性を示し,筋硬度は筋の柔軟性を示している。筋膜はあらゆる膜組織と連続性を有し,浅筋膜,深筋膜,筋外膜,筋束を包む筋周膜,筋線維を包む筋内膜にも連続している。さらに,下腿筋膜は前方区画,後方区画,外方区画を形成している。動筋は前方区画に位置し,骨間膜を介して,後方区画に位置する拮抗筋に連結している。そのため,動筋のFMは高密度化した膜組織の制限を解消させ,動筋側の筋膜の滑走性や筋の柔軟性や疼痛閾値を改善し,連続する拮抗筋側にも影響を及ぼしたのではないかと考える。動筋・拮抗筋は互いに影響を及ぼす組織であり,筋膜制限に対する治療を選択する際,これらを考慮して実施する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により得られた結果から,動筋へのFMが拮抗筋の筋・筋膜に及ぼす影響が明確となり,臨床におけるFMの科学的根拠の一助となると考える。
筋骨格系疾患における痛みは,筋膜・軟部組織・関節などの組織の炎症によって生じ,特定方向への運動の起こりやすさによる運動機能障害が原因とされる。運動機能障害は,動筋や拮抗筋のインバランスによって生じ,その原因の一つに筋膜の高密度化が挙げられる。筋膜の高密度化を改善させる徒手療法に筋膜マニピュレーション(Fascial Manipulation:以下FM)がある。FMは,協調中心と呼ばれる筋力のベクトルが収束する深筋膜上の高密度化した点を治療部位とし,摩擦熱により基質に正常な流動性を回復させ,コラーゲン線維間の癒着を除去する目的で実施する技術である。しかしながら,その治療効果を検証した研究は少ない。そこで,本研究は人体への侵襲が少ない超音波診断装置を使用し,動筋へのFMが拮抗筋に影響を及ぼすかについて検証することを目的とした。
【方法】
対象者は整形外科的既往のない健常成人男性10名で,平均年齢24.3(22-27)歳,身長と体重の平均値(標準偏差)は身長171.1(5.1)cm,体重63.8(7.1)kgであった。対象者の右腓腹筋外側頭に対し,FMを210秒間実施した。測定項目は1)筋膜移動距離(浅層と深層),2)超音波診断装置(日立メディコ社,EUB-7500)のReal-time elastography機能を使用した筋硬度(浅層と深層),3)Numeric Rating Scale:以下NRS,4)Hand Held Dynamometer(アニマ社製μTas-MT1):以下HHDを用いた足関節底背屈筋力の4項目とした。測定はFM介入前後,1週間後に全項目を実施し,3)は2日後も実施した。1)~3)の測定箇所は腹臥位にて下腿後面(腓腹筋外側頭の筋腹遠位),背臥位にて下腿前面(下腿中間の前脛骨筋上)の2箇所とした。まず,事前に電子ゴニオメーターを使用し,足関節底背屈の最大可動域を測定した。1)は超音波診断装置にて筋膜と筋束の接点を指標点とし,足関節0°から最大底背屈可動域の50%に関節角度を変化させた際の浅層筋膜と深層筋膜の各指標点間距離を計測した。2)は超音波診断装置Real-time elastography機能を使用し,専用のスタビライザーに基準物質を貼り,プローブに装着して測定した。抽出した画像よりStrain Ratio機能を用いて,基準物質と測定場所の歪み比で求めた。4)では,足関節底屈は腹臥位にて固定用ベルトに取り付けたHHDを中足骨底側に,背屈は背臥位にて中足骨背側に固定し実施した。統計学的解析は,統計解析ソフト(IBM SPSS Statistics19)を使用し,期間を要因とする反復測定による一元配置分散分析を実施し,主効果を認めたものに対して,多重比較検定(Bonferroni法)を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
1)では,足関節底背屈ともに下腿後面・前面の深層筋膜移動距離は介入前と比べ,介入後,1週間後で有意に大きい値を示した。2)では,下腿後面において浅層の比率は介入前と比べて1週間後で,深層は介入前と比べて介入後と1週間後で有意に大きくなり筋硬度は減少した。下腿前面では浅層・深層の比率は介入前と比べ,介入後で有意に大きくなり筋硬度は減少した。3)では,下腿後面・前面において介入前と比べ,介入後と1週間後で有意に小さい値を示した。1)~3)における介入後と1週間後の間には有意な差を認めず,4)ではすべての期間において有意な差を認めなかった。
【考察】
動筋へのFMは動筋の深層筋膜移動距離,筋硬度,疼痛閾値のみならず,拮抗筋の深層筋膜移動距離,筋硬度,疼痛閾値にも効果を示した。深層の筋膜移動距離は,下腿後面では腓腹筋とヒラメ筋間,下腿前面では前脛骨筋と長母趾伸筋間の滑走性を示し,筋硬度は筋の柔軟性を示している。筋膜はあらゆる膜組織と連続性を有し,浅筋膜,深筋膜,筋外膜,筋束を包む筋周膜,筋線維を包む筋内膜にも連続している。さらに,下腿筋膜は前方区画,後方区画,外方区画を形成している。動筋は前方区画に位置し,骨間膜を介して,後方区画に位置する拮抗筋に連結している。そのため,動筋のFMは高密度化した膜組織の制限を解消させ,動筋側の筋膜の滑走性や筋の柔軟性や疼痛閾値を改善し,連続する拮抗筋側にも影響を及ぼしたのではないかと考える。動筋・拮抗筋は互いに影響を及ぼす組織であり,筋膜制限に対する治療を選択する際,これらを考慮して実施する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により得られた結果から,動筋へのFMが拮抗筋の筋・筋膜に及ぼす影響が明確となり,臨床におけるFMの科学的根拠の一助となると考える。