第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0664] 大腿神経麻痺の患者に対する歩行を中心とした急性期理学療法

伊東浩樹1, 岩倉将1, 松田拓海2 (1.日本赤十字社福岡赤十字病院, 2.医療法人社団東洋会池田病院)

キーワード:大腿神経麻痺, 急性期リハビリ, 低周波

【はじめに,目的】
腰神経叢の中でも大腿神経麻痺を呈した場合,腸腰筋,大腿四頭筋などの大腿前面筋の麻痺が出現する。大腿神経麻痺を呈した症例では,膝関節伸展機能,歩行,階段昇降等の日常生活動作が困難となることが多いとされている。また,大腿神経麻痺は全末梢神経麻痺の1%前後と非常に稀な疾患とされており,急性期理学療法に関する報告は少ない。今回腸腰筋血腫を認め左大腿神経麻痺が出現し歩行不可能となった症例に対し,早期より理学療法を試みた1例を経験したので以下に報告する。
【方法】
症例紹介,年齢:40台前半,性別:女性,BMI:22,家族:夫,子供2人との4人暮らし,入院前ADL:自立,Demand:「歩きたい」。既往歴:シェーグレン症候群,壊血性リンパ節炎。現病歴:平成26年10月初旬熱発,倦怠感出現。精査目的で当院入院となり中旬に左大腿痛,感覚異常出現。CTにて左腸腰筋血腫認め,大腿神経麻痺出現。血液検査の結果,CK値1641 IU|lと高値であった。その後MRIにて血腫縮小傾向となりCK値減少した為,入院後16病日目よりリハビリ開始となる。初期評価,JCS:0,Comm:良好,筋力:MMT及びOG技研株式会社のISOFORCE GT-300(以下,HHD)を使用。MMT左腸腰筋2,大腿四頭筋1,HHD左腸腰筋1.0kg,大腿四頭筋0kg。ROM-T:左股関節他動屈曲100°,伸展-30°,疼痛:NRS5/10左股関節他動屈曲時,伸展時に左股関節前面から大腿前面に出現,感覚:左温痛覚,触覚は大腿前面から側方大転子以下11cm~膝蓋骨下縁8cmまで消失,圧覚,深部覚は正常。腱反射:L2~4レベル(±)。BI:45点。治療前に現在の身体状況及び今後の理学療法内容について説明。本症例に対する理学療法は①ミナト医科学株式会社Kinetizer NB(以下,低周波)を使用。目的として筋萎縮予防,筋収縮再教育,疼痛軽減のため実施。強度,時間,部位は30Hz,10分間,外側広筋に実施。②歩行練習。歩行は平行棒内歩行,歩行器,ロフストランドクラッチ,独歩と段階的に移行。その際腸腰筋,大腿四頭筋が働く動作に着目し指導。③視覚的フィードバックを利用。以上3点を中心に施行。介入は1日3単位疲労感を考慮しながら実施。
【結果】
①~③を14日間施行した結果,MMT:左腸腰筋3,大腿四頭筋2,HHD:左腸腰筋6.1kg,大腿四頭筋2.0kgに向上。ROM-T:左股関節他動屈曲120°,伸展0°。疼痛:NRS2/10部位,運動方向は初期と同様。感覚:左温痛覚,触覚は大腿前面から側方大転子以下19cm~膝蓋骨下縁6cm。腱反射:L2~4レベル(+),BI:70点,歩行:初期時では歩行不可能だったが監視下にて歩行器歩行や独歩が10~20m可能となった。歩容:左下肢立脚期において荷重応答期では膝折れ無く軽度膝屈曲位で保てており,立脚中期では骨盤中間位で姿勢良好。
【考察】
今回,介入にあたり治療は難航すると考えていた。その理由として現疾患により氏は家族と離れて入院生活を送ることとなり,40台前半とまだ若く子供も小さいため今後の日常生活に不安を多く抱えており精神ケアが必要であったこと。次に大腿神経麻痺に対する有効な理学療法の報告が少ないことの2点が挙げられる。そこで,まず不安を解消するため,身体状況,今後の理学療法についての具体的なプラン,プログラムの意味と重要性を説明し安心感を与えた。次に大腿神経麻痺により腸腰筋,大腿四頭筋に筋力低下が起きていた為低周波治療を施行。しかし上手く収縮が得られなかったため,同時に動作による特異的要素を利用した筋力強化を施行。平行棒内歩行時に正しい姿勢を意識させ骨盤中間位を保つことによる腸腰筋収縮,荷重応答期における軽度膝関節屈曲位保持による大腿四頭筋遠心性収縮の筋連結を意識し反復して施行。ベッド上運動では筋連結を考え下肢拳上運動を自動介助で施行,腸腰筋の収縮により中枢部を固定させ,大腿四頭筋との連結により末梢部の運動に繋げた。また木村らの報告で大腿神経麻痺の患者に有効であったとされる視覚的フィードバックも運動時利用。これらを続けた結果入院から約4週間で筋力,歩行能力向上することが出来た。通常,大腿四頭筋がMMT2レベルであれば,ロッキングなどを呈し,歩行が困難となることが予測されるが,今回の結果により,急性期から筋収縮の特異性や筋連結を考慮し,歩行などの動作練習を軸として,低周波での筋収縮を誘発していく治療を組み合わせることが大腿神経麻痺の患者に有効であったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
大腿神経麻痺に対する理学療法の報告例はまだ少ない。しかし大腿神経麻痺が患者のQOL,ADL低下に及ぼす影響は大きいと考える。今回の急性期理学療法による結果が同疾患患者や治療苦難する理学療法士に対して一助になれば良いと考える。