[P2-A-0776] 脳卒中片麻痺患者に対して随意運動介助型電気刺激装置を用いた歩行練習の効果について
Keywords:脳卒中, 随意運動介助型電気刺激, 歩行練習
【はじめに,目的】
近年,脳卒中片麻痺患者の麻痺肢に対する随意性向上のための方法として,随意運動介助型電気刺激(Electromyography-Therapeutic Electrical Stimulation:EMG-TES)が注目を集めている。これは促通したい筋の電気信号を表面筋電(EMG)により検出し,電気刺激によって筋の収縮を介助する装置であり,先行研究では前脛骨筋(TA)の筋力の増加と自動ROM範囲の増加傾向を報告している。今回,脳卒中片麻痺患者に対して理学療法士による歩行練習とEMG-TESによるTAへの刺激を併用した効果の検証を行った。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の,独歩可能で認知症や他の疾患による歩行への影響がない脳卒中片麻痺患者2名とした。発症からの期間は発症後約80日の回復期の患者(症例1)と,発症後約200日の慢性期の患者(症例2)とした。
方法は通常の歩行練習を実施する期間(A期)と,EMG-TESの手段としてPASシステム(OG技研)を使用し歩行練習を行う期間(B期)をそれぞれ1週間ずつ交互に2回,計4週間実施した(ABABデザイン)。評価項目は10mの最大歩行での速度,歩幅,cadenceと,日常生活活動の指標として機能的自立度評価表の運動項目(FIM-M)を研究開始時と終了時に計測した。これらの結果より各期間の差を反復測定による分散分析の後,Boneferroniの方法にて多重比較し,A1期とB1期,B1期とA2期,A2期とB2期の差の有無を求めた。その際,有意水準を検定数に併せて調整した。さらに,各期間のSLOPE値から各パラメータの変化の傾向を目視にて検証した。いずれの解析にもSPSS.ver12.0Jを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
反復測定による分散分析の結果,歩行速度,歩幅,およびcadenceの全てに有意な効果を示した。しかし,その後の多重比較結果,症例1の速度とcadenceではA1-B1間のみ,歩幅ではA2-B2間のみに有意差を認めた(p<0.05)。症例2では速度と歩幅のA1-B2間,A2-B2間に有意差を認めた(p<0.05)。
各パラメータの変化の傾向については,症例1はSLOPE値から速度,歩幅ではA期に正のSLOPE値となりB期より値が大きい傾向にあった。症例2のSLOPEには各期による差はみられなかった。cadenceでは症例1,2ともにSLOPE値に一定の傾向はみられなかった。FIM-Mの結果は,症例1は78/91から83/91へ5ポイント,症例2は89/91から90/91へ1ポイント改善した。
【考察】
本研究の結果より,症例1では全介入期間にわたり全ての評価項目において改善がみられた。しかし,コントロール期であるA期と介入期であるB期に明確な違いは見られなかった。症例2では,歩行速度と歩幅においてB期に改善傾向を認め,EMG-TESの影響を受けていることが示唆された。SabutらはTAへの電気刺激によって足関節背屈筋力と随意性の向上,および歩行速度の改善が刺激なし群より有意に得られたことを報告しており,本研究においても同様に足関節背屈機能の改善が歩行速度の向上に関係したと考えられる。また,村岡らや,TrishaらもTAへの電気刺激によって足関節機能の改善の報告をしており,本研究の結果と同様であった。今回EMG-TESによって歩幅に改善を認めた理由として,足関節背屈機能の改善により,患側下肢立脚期における前方への体重移動のためのロッカーファンクションの向上が予測されるが,本研究では明らかにすることはできなかった。
本研究にて症例1にEMG-TESの効果の傾向がみられなかった原因は,症例1が発症後80日という回復期であるため,その他の理学療法の効果も影響していることが考えられる。一方,発症後200日を経過した慢性期で,機能的改善が得られにくいと考えられる症例2に,今回の効果が得られたことはEMG-TESを用いた歩行練習の可能性を期待させるものであった。しかし,前述したSabutらの先行研究では慢性期の対象者より亜急性期の対象者のほうが,電気刺激による効果が得られたと報告されており,本研究とは異なる結果であった。これは本研究がシングルケースデザインであるため,改善傾向に個別性が反映されたことが考えられる。今後は症例数を増やし発症からの期間や介入期間,方法の検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究にて,歩行練習とTAに対するEMG-TESを併用することで,慢性期の脳卒中片麻痺患者に歩幅の拡大と歩行速度の向上が得られたことは,今後の脳卒中片麻痺患者へのアプローチの発展にとって意義あるものと思われる。
近年,脳卒中片麻痺患者の麻痺肢に対する随意性向上のための方法として,随意運動介助型電気刺激(Electromyography-Therapeutic Electrical Stimulation:EMG-TES)が注目を集めている。これは促通したい筋の電気信号を表面筋電(EMG)により検出し,電気刺激によって筋の収縮を介助する装置であり,先行研究では前脛骨筋(TA)の筋力の増加と自動ROM範囲の増加傾向を報告している。今回,脳卒中片麻痺患者に対して理学療法士による歩行練習とEMG-TESによるTAへの刺激を併用した効果の検証を行った。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の,独歩可能で認知症や他の疾患による歩行への影響がない脳卒中片麻痺患者2名とした。発症からの期間は発症後約80日の回復期の患者(症例1)と,発症後約200日の慢性期の患者(症例2)とした。
方法は通常の歩行練習を実施する期間(A期)と,EMG-TESの手段としてPASシステム(OG技研)を使用し歩行練習を行う期間(B期)をそれぞれ1週間ずつ交互に2回,計4週間実施した(ABABデザイン)。評価項目は10mの最大歩行での速度,歩幅,cadenceと,日常生活活動の指標として機能的自立度評価表の運動項目(FIM-M)を研究開始時と終了時に計測した。これらの結果より各期間の差を反復測定による分散分析の後,Boneferroniの方法にて多重比較し,A1期とB1期,B1期とA2期,A2期とB2期の差の有無を求めた。その際,有意水準を検定数に併せて調整した。さらに,各期間のSLOPE値から各パラメータの変化の傾向を目視にて検証した。いずれの解析にもSPSS.ver12.0Jを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
反復測定による分散分析の結果,歩行速度,歩幅,およびcadenceの全てに有意な効果を示した。しかし,その後の多重比較結果,症例1の速度とcadenceではA1-B1間のみ,歩幅ではA2-B2間のみに有意差を認めた(p<0.05)。症例2では速度と歩幅のA1-B2間,A2-B2間に有意差を認めた(p<0.05)。
各パラメータの変化の傾向については,症例1はSLOPE値から速度,歩幅ではA期に正のSLOPE値となりB期より値が大きい傾向にあった。症例2のSLOPEには各期による差はみられなかった。cadenceでは症例1,2ともにSLOPE値に一定の傾向はみられなかった。FIM-Mの結果は,症例1は78/91から83/91へ5ポイント,症例2は89/91から90/91へ1ポイント改善した。
【考察】
本研究の結果より,症例1では全介入期間にわたり全ての評価項目において改善がみられた。しかし,コントロール期であるA期と介入期であるB期に明確な違いは見られなかった。症例2では,歩行速度と歩幅においてB期に改善傾向を認め,EMG-TESの影響を受けていることが示唆された。SabutらはTAへの電気刺激によって足関節背屈筋力と随意性の向上,および歩行速度の改善が刺激なし群より有意に得られたことを報告しており,本研究においても同様に足関節背屈機能の改善が歩行速度の向上に関係したと考えられる。また,村岡らや,TrishaらもTAへの電気刺激によって足関節機能の改善の報告をしており,本研究の結果と同様であった。今回EMG-TESによって歩幅に改善を認めた理由として,足関節背屈機能の改善により,患側下肢立脚期における前方への体重移動のためのロッカーファンクションの向上が予測されるが,本研究では明らかにすることはできなかった。
本研究にて症例1にEMG-TESの効果の傾向がみられなかった原因は,症例1が発症後80日という回復期であるため,その他の理学療法の効果も影響していることが考えられる。一方,発症後200日を経過した慢性期で,機能的改善が得られにくいと考えられる症例2に,今回の効果が得られたことはEMG-TESを用いた歩行練習の可能性を期待させるものであった。しかし,前述したSabutらの先行研究では慢性期の対象者より亜急性期の対象者のほうが,電気刺激による効果が得られたと報告されており,本研究とは異なる結果であった。これは本研究がシングルケースデザインであるため,改善傾向に個別性が反映されたことが考えられる。今後は症例数を増やし発症からの期間や介入期間,方法の検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究にて,歩行練習とTAに対するEMG-TESを併用することで,慢性期の脳卒中片麻痺患者に歩幅の拡大と歩行速度の向上が得られたことは,今後の脳卒中片麻痺患者へのアプローチの発展にとって意義あるものと思われる。