[P2-C-0623] 重症心身障害者における風に吹かれた股関節変形と骨盤変形の関係性
Keywords:風に吹かれた股関節変形, 骨盤変形, 股関節脱臼
【はじめに,目的】
風に吹かれた股関節変形(WD)は重症心身障害者(重症者)の非対称性変形において,よくみられる症例である。この持続的非対称性の姿位は身体に様々な影響を及ぼしていると考えられているが股関節だけでなく骨盤を含めた骨盤帯の変形として捉えられる事は少ない。またWDは側彎や骨盤回旋と下肢の倒れる方向に視点を置いて評価されており骨盤自体の変形は考慮されていない。今回WDにおける骨盤変形と股関節脱臼(脱臼)の関係について分析,検討したので報告する。
【方法】
対象は当院に入院するWDを有する重症者27名(男性10名,女性17名)平均年齢42±10歳,健常者11名(男性5名,女性6名)平均年齢29±6歳である。重症者の運動機能は全症例で実用的な寝返りが不可能なレベルである。方法は「WDでの下肢の転倒方向」「脱臼の有無」「骨盤の開きの角度(wing ilium angle:WIA)」を評価,測定する。「WDでの下肢の転倒方向」は倒れている方向に対して上側下肢をWDU群,下側下肢をWDL群として2群に分類する。また「脱臼の有無」は他診断で用いられたCT画像から「脱臼無し」と「脱臼有り」を判断,2群に分類する。さらに「WIA」は第49回理学療法学術集会で発表した評価法を用いて行う。この角度の算出はブライスキー骨盤計(アトムメディカル社製)を使用し骨盤外計測法を基準として行う。骨盤外計測法とは皮膚の上から骨盤の一部分を触知し,その2点間の直線距離を測定するものである。これを基準とし【1】左上前腸骨棘と右上後腸骨棘との距離(第1外斜径),逆は第2外斜径【2】一側の上前腸骨棘から同側の上後腸骨棘までの距離(側結合線)【3】左右の上後腸骨棘の距離(後棘間径)を計測する。測定は側臥位で各骨棘上の皮膚にペンでランドマークし,その部位に骨盤計を当てて測定する。上記の方法で得た【1】~【3】の測定値から左右のWIAを算出する。算出方法は測定部位である右上前腸骨棘(A),左上前腸骨棘(B),右上後腸骨棘(C),左上後腸骨棘(D)とし△ACDと△BCDの長さより余弦定理を用いて∠ACD,∠BDC(両側のWIA角度)を求める。また骨盤CT像から3Dワークステーション(zioTerm2009)を用いてMPR上で求めたWIAと体表面から求めたWIAとの間に相関が認められいる(第68回国立病院総合医学会発表より)。この事から回帰直線より算出された式Y=0.57125X+46.76146(Y:MPR値,X:体表面値)に当てはめ皮膚および皮下組織などの厚さを除いた「WIA」の補正を行う。健常者のWIAも同様に測定して「対照群」とする。統計解析はWDU群,WDL群,対照群の3群間における「WIA」の平均値の差の検定,脱臼無WDU群,脱臼無WDL群,脱臼有WDU群,脱臼有WDL群の4群間における「WIA」の平均値の差の検定を行う。どちらも一元分散分析を用いて行い,その後Tukeyの多重比較検定を行う。統計的検討の前提条件として正規分布をShapiro-Wilksの検定,等分散をLeveneの検定を行う。有意水準は5%とする。
【結果】
3群間の比較におけるWIAの平均値はWDU群106±11°とWDL群131±11°,対照群122±6°で有意差あり(F=38.428,p<0.05)と判定され,下位検定の結果WDU群,WDL群,対照群の全てに有意差を認めた。また4群間の比較におけるWAIの平均は脱臼無WDU群114±9°脱臼無WDL127±11°脱臼有WDU103±12°脱臼有WDL133±11°で有意差あり(F=21.541,p<0.05)と判定され,下位検定の結果,脱臼無WDU群と脱臼有WDL群,脱臼無WDL群と脱臼有WDU群,脱臼有WDU群と脱臼有WDL群に有意差を認めた。
【考察】
健常者に比べWD重症者ではWDLのWIAが増大し,WDUで減少していることからWIAがWDの状態に大きく寄与していると考えられる。また脱臼を有するWDのWIA角度はWDLで増大,WDUで減少することから,WDL側の腸骨が扁平し,WDU側の腸骨がWDL側に傾く変形になると考えられる。この事からWDの骨盤では骨盤自体に変形を認め,脱臼によりさらに骨盤変形が悪化する関係にあると推測する。
【理学療法学研究としての意義】
重症者の側彎と股関節脱臼の関係性については,さまざまな研究がなされているが,脊椎と股関節の要である骨盤形態の評価についての報告はほとんどない。高度な四肢の変形,側彎,股関節脱臼があり,骨盤の変形がないとは考えにくく触診レベルでも左右の腸骨の非対称性が確認できるが客観的な評価が困難である事から関節への影響を示唆する報告も少ない。重症者の理学療法において骨盤変形の計測および評価を行うことは今後の変形予防など新たな方法を生み出す一つの材料になると考える。
風に吹かれた股関節変形(WD)は重症心身障害者(重症者)の非対称性変形において,よくみられる症例である。この持続的非対称性の姿位は身体に様々な影響を及ぼしていると考えられているが股関節だけでなく骨盤を含めた骨盤帯の変形として捉えられる事は少ない。またWDは側彎や骨盤回旋と下肢の倒れる方向に視点を置いて評価されており骨盤自体の変形は考慮されていない。今回WDにおける骨盤変形と股関節脱臼(脱臼)の関係について分析,検討したので報告する。
【方法】
対象は当院に入院するWDを有する重症者27名(男性10名,女性17名)平均年齢42±10歳,健常者11名(男性5名,女性6名)平均年齢29±6歳である。重症者の運動機能は全症例で実用的な寝返りが不可能なレベルである。方法は「WDでの下肢の転倒方向」「脱臼の有無」「骨盤の開きの角度(wing ilium angle:WIA)」を評価,測定する。「WDでの下肢の転倒方向」は倒れている方向に対して上側下肢をWDU群,下側下肢をWDL群として2群に分類する。また「脱臼の有無」は他診断で用いられたCT画像から「脱臼無し」と「脱臼有り」を判断,2群に分類する。さらに「WIA」は第49回理学療法学術集会で発表した評価法を用いて行う。この角度の算出はブライスキー骨盤計(アトムメディカル社製)を使用し骨盤外計測法を基準として行う。骨盤外計測法とは皮膚の上から骨盤の一部分を触知し,その2点間の直線距離を測定するものである。これを基準とし【1】左上前腸骨棘と右上後腸骨棘との距離(第1外斜径),逆は第2外斜径【2】一側の上前腸骨棘から同側の上後腸骨棘までの距離(側結合線)【3】左右の上後腸骨棘の距離(後棘間径)を計測する。測定は側臥位で各骨棘上の皮膚にペンでランドマークし,その部位に骨盤計を当てて測定する。上記の方法で得た【1】~【3】の測定値から左右のWIAを算出する。算出方法は測定部位である右上前腸骨棘(A),左上前腸骨棘(B),右上後腸骨棘(C),左上後腸骨棘(D)とし△ACDと△BCDの長さより余弦定理を用いて∠ACD,∠BDC(両側のWIA角度)を求める。また骨盤CT像から3Dワークステーション(zioTerm2009)を用いてMPR上で求めたWIAと体表面から求めたWIAとの間に相関が認められいる(第68回国立病院総合医学会発表より)。この事から回帰直線より算出された式Y=0.57125X+46.76146(Y:MPR値,X:体表面値)に当てはめ皮膚および皮下組織などの厚さを除いた「WIA」の補正を行う。健常者のWIAも同様に測定して「対照群」とする。統計解析はWDU群,WDL群,対照群の3群間における「WIA」の平均値の差の検定,脱臼無WDU群,脱臼無WDL群,脱臼有WDU群,脱臼有WDL群の4群間における「WIA」の平均値の差の検定を行う。どちらも一元分散分析を用いて行い,その後Tukeyの多重比較検定を行う。統計的検討の前提条件として正規分布をShapiro-Wilksの検定,等分散をLeveneの検定を行う。有意水準は5%とする。
【結果】
3群間の比較におけるWIAの平均値はWDU群106±11°とWDL群131±11°,対照群122±6°で有意差あり(F=38.428,p<0.05)と判定され,下位検定の結果WDU群,WDL群,対照群の全てに有意差を認めた。また4群間の比較におけるWAIの平均は脱臼無WDU群114±9°脱臼無WDL127±11°脱臼有WDU103±12°脱臼有WDL133±11°で有意差あり(F=21.541,p<0.05)と判定され,下位検定の結果,脱臼無WDU群と脱臼有WDL群,脱臼無WDL群と脱臼有WDU群,脱臼有WDU群と脱臼有WDL群に有意差を認めた。
【考察】
健常者に比べWD重症者ではWDLのWIAが増大し,WDUで減少していることからWIAがWDの状態に大きく寄与していると考えられる。また脱臼を有するWDのWIA角度はWDLで増大,WDUで減少することから,WDL側の腸骨が扁平し,WDU側の腸骨がWDL側に傾く変形になると考えられる。この事からWDの骨盤では骨盤自体に変形を認め,脱臼によりさらに骨盤変形が悪化する関係にあると推測する。
【理学療法学研究としての意義】
重症者の側彎と股関節脱臼の関係性については,さまざまな研究がなされているが,脊椎と股関節の要である骨盤形態の評価についての報告はほとんどない。高度な四肢の変形,側彎,股関節脱臼があり,骨盤の変形がないとは考えにくく触診レベルでも左右の腸骨の非対称性が確認できるが客観的な評価が困難である事から関節への影響を示唆する報告も少ない。重症者の理学療法において骨盤変形の計測および評価を行うことは今後の変形予防など新たな方法を生み出す一つの材料になると考える。