[S2-02] 比較病理学から考えるAAアミロイド症の病理発生機序
麻布大学の豚病臨床センターにおいて,世界で4例めの豚AAアミロイド症を経験し,報告した.本例は連鎖球菌感染が認められ,肝臓,腎臓,脾臓にAAアミロイド高度に沈着しており,連鎖球菌感染症に伴うAAアミロイド症と診断された.この症例に沈着しているアミロイド構成タンパク質を質量分析で同定したところ,野生型SAAと高いアミロイド形成を示す変異型SAAの2種類のSAAから構成されていることを見出した.興味深いことに,豚の野生型SAAはアミロイド線維を形成しない.ところが,変異型SAAが形成したアミロイド線維を野生型SAA溶液に加えると,野生型SAAのアミロイド線維形成が誘導された.これらの結果から,変異型SAAによる野生型SAAのアミロイド線維化誘導が豚のAAアミロイド発生に関与していることが示唆された.つまり,プリオン病などで知られている,アミロイド線維が他のアミロイド前駆タンパク質をアミロイド化するSeeding現象が,AAアミロイド症でも生じている可能性がある.豚以外に,犬,猫,牛,山羊のAAアミロイド症の沈着アミロイドを同様に質量分析したところ,いずれの動物種でも2種類のSAAが沈着しており,豚と同様の病理発生機序が示唆される.
ヒトのAAアミロイド症ではどうだろうか?ヒトには5種類のSAA isoformが知られている.ヒトAAアミロイド症で優位に沈着するSAAのisoformが既に報告されているが,不思議なことに日本とヨーロッパからの報告では,それぞれ異なる一種類のisoformが沈着するという研究結果が示されている.我々は日本人のAAアミロイド症患者から抽出した沈着アミロイドについて,質量分析法を用いて含まれるSAA isoformを解析したところ,全ての症例で特定の2種類のSAA isoformを検出した.このことから,ヒトにおいても特定のSAA isoformによるseeding 現象が予想される.本発表では,アミロイド線維形成能の高いSAAを介した,ヒトを含めた哺乳類に共通する,AAアミロイド症の病理発生機序を紹介する.