日本畜産学会第129回大会

講演情報

推戴式・授賞式・学会賞受賞者講演

推戴式・授賞式・学会賞受賞者講演

2021年9月14日(火) 13:00 〜 14:20 授賞式 (オンライン)

座長:佐藤 正寛(東北大院農)

[AW-03] 食肉および鶏卵の官能特性評価と消費者嗜好に関する研究

*佐々木 啓介1 (1. 農研機構畜産研究部門)

近年、国産畜産物と比較して高い価格競争力を有する海外産畜産物の輸入が増加している。我が国の畜産が競争力を維持するためには、「安く生産する」「高く販売する」のいずれかの手段を取ることが必要だが、このうち「高く販売する」という観点からは、消費者の嗜好やニーズに基づいた高付加価値化を目指すことが一つの有力な手段である。特に国産畜産物における高付加価値化においては、味、匂い、食感といった官能特性の客観的評価に基づく消費者の「おいしさ」評価向上が極めて有効な手段と考えられる。そこで本研究では食肉および鶏卵を対象とし、官能特性の客観的評価手法の確立とその高付加価値化への活用を目指し、官能特性解析に活用可能な用語や調理条件等の整備、食肉の「やわらかさ」「歯ごたえ」の構成要素の解明、牛肉に対する消費者嗜好と官能特性の関係の解明をそれぞれ行った。

1.食肉および鶏卵の官能特性評価用語等の整備
 一般的に、食品の客観的な官能評価を行う場合は、対象食品に適した評価用語の選択を行った後に、その選択された用語により詳細な評価を行うという手順が必要である。しかし、我が国においては、食肉および鶏卵の評価用語選択に活用可能な用語集が存在せず、品質の特徴を的確に官能評価することが困難であった。そこで候補者は、文献より食肉に関する官能特性評価用語を収集し、一般消費者および調理従事者を対象としたアンケート調査から、これら収集した用語の中から食肉の官能評価における用語選択に適した候補用語集を作成した。鶏卵に関しては、官能評価に経験のある被験者を対象としたアンケート調査から、鶏卵及び調理品の官能評価における用語選択に適した候補用語集を作成した。また、本用語集を用いて飼料用米給与型鶏卵と慣行鶏卵の官能特性の違いを客観的に解明し、鶏卵の付加価値評価に活用可能であることを示した。さらに、これら食肉の官能評価における前提条件となる調理条件については、牛肉と豚肉の湿熱調理に関して一般書籍から収集したレシピ情報を解析し、適切な調理条件の範囲を示した。

2.食肉の「やわらかさ」「歯ごたえ」の構成要素の解明
 日本人消費者の多くは、食肉に対して「やわらかさ」を求めている。他方、「やわらかさ」という語には客観的な定義が無いことから、分析型官能評価と消費者型官能評価を組み合わせて「やわらかさ」の定義付けを試みた。その結果、食肉の「やわらかさ」には「かみ切りやすさ」「変形しやすさ」の2種類の食感が含意されることや、日本人消費者は「かみ切りやすさ」を「やわらかさ」ととらえている群と「変形しやすさ」を「やわらかさ」ととらえている群に分類できることを明らかにした。一方、地鶏肉においては、地鶏肉らしい「歯ごたえ」が求められていると考えられており、「やわらかさ」とは異なる食感の評価要素が必要であった。そこで候補者は地鶏肉らしい「歯ごたえ」の構成要素を「やわらかさ」と同様の手法で解析した。その結果、地鶏肉らしい「歯ごたえ」においては「弾力性」が重要な構成要素であることを見いだし、地鶏肉の評価・改良指標として有用である可能性を示した。

3.牛肉に対する消費者嗜好およびその多様性と官能特性の関係解明
 国産畜産物の競争力強化において、消費者が感じる「おいしさ」を科学的に理解することの必要性は認識されている一方、消費者嗜好の個人差や客観的な品質との関連づけについては解明されていなかった。候補者は、国産赤身型牛肉である乳用種牛肉を研究対象として、分析析型官能特性、理化学特性、および消費者嗜好を実施し、消費者を牛肉嗜好のパターンで分類することで乳用種牛肉を特に好む消費者群を見いだすとともに、当該消費者群が乳用種牛肉を好む理由は適度な歯ごたえと特徴あるうま味であることを外的嗜好マッピング法により明らかにした。本研究で用いた研究手法は、多様な消費者嗜好に対応した食肉の評価・改良指標や消費者へのアピールポイントを見いだす科学的方法論として有効であり、他の研究プロジェクトにおいても活用を図っている。

 上記のように、本研究では国産畜産物の「おいしさ」について重要な評価ツールとして用語集や標準的な調理条件を提示するとともに、畜産物の官能特性の客観的な特徴付けや消費者嗜好の関係を解明し、食肉や鶏卵の特性に関して新たな科学的方法論や知見を提供できたものと考えている。今後さらに国産畜産物の高付加価値化を図るために、家畜の改良、生産、流通に共通して活用できるような評価指標の確立に貢献したいと考えている。また、筆者は上記技術や知見について、平成24年度から公設試験研究機関を対象としたワークショップによる普及活動を実施しており、今後も継続し、できるだけお役に立つような活動を進めて行きたい。