日本畜産学会第129回大会

講演情報

推戴式・授賞式・学会賞受賞者講演

推戴式・授賞式・学会賞受賞者講演

2021年9月14日(火) 13:00 〜 14:20 授賞式 (オンライン)

座長:佐藤 正寛(東北大院農)

[AW-06] ブタの生存産子数における効率的な遺伝的能力評価手法の検討

*今田 彩音1 (1. 東北大院農)

収益性の高い養豚経営を目指すうえで、雌系純粋種であるランドレース種および大ヨークシャー種の生産性の向上は重要である。しかし、生存産子数は遺伝率が低く、限性形質であり、早期に記録を得ることが難しいため、その改良には時間を要する。したがって、生存産子数を効率的に改良する手法として、2つのアプローチから検討した。
 まず、生存産子数と遺伝的関連性が高い形質を選抜指標とする方法について検討した。機能的な乳頭である正常乳頭数は子豚の哺育に関連する重要な形質である。正常乳頭数は両性形質でありかつ早期に記録を得ることができる。また、一腹総産子体重や妊娠期間などの雌性繁殖形質は農場レベルで容易に記録を得ることのできる形質である。そこで、生存産子数における選抜指標としての正常乳頭数および雌性繁殖形質の利用可能性を明らかにするため、生存産子数との遺伝的関連性を調査した。ランドレース種および大ヨークシャー種における正常乳頭数、繁殖形質(一腹総産子体重、妊娠期間など)、生存産子数の各記録および血統記録を用いて遺伝的パラメーターを推定した。正常乳頭数には1個体が1記録を持つアニマルモデル、それ以外の形質には反復率アニマルモデルを用いた。正常乳頭数および妊娠期間の遺伝率は両品種において中程度の値、一腹総産子体重はそれよりもやや低い値が推定された。正常乳頭数の生存産子数との遺伝相関は、ランドレース種で0.01、大ヨークシャー種で-0.24と推定された。また、一腹総産子体重の生存産子数との遺伝相関は、両品種で0.74と好ましい値が推定された。以上の結果より、ブタの雌系品種において乳頭数を選抜指標とした生存産子数の改良の可能性は限定的である一方、一腹総産子体重の利用可能性が示唆された。
 次に、生存産子数に適した遺伝的パラメーター推定モデルについて検討した。遺伝的パラメーターは育種価の推定精度に影響するため、その推定には適したモデルを用いる必要がある。生存産子数は同一個体から繰り返し記録が得られる形質であるため、その遺伝的評価にはいくつかの方法がある。その一つは、すべての産次の記録を遺伝的に同一の形質とみなした反復率モデルを用いる方法である。この利点は、計算量が少なく、各産次の記録が個体ごとに不揃いであっても育種価が推定できる。一方、生存産子数では、異なる産次間における遺伝相関は1より小さい値が報告されている。そこで、初産と2産以降の記録を遺伝的に別形質とした2形質モデルにより遺伝的パラメーターを推定し、反復率モデルとの比較を行った。ランドレース種および大ヨークシャー種の初産から8産までの分娩記録について、全記録を同一形質とみなした反復率アニマルモデル(モデル1)および初産と2~8産を別形質とみなした2形質アニマルモデル(モデル2)を用いて遺伝的パラメーターを推定した。モデル2では、2~8産の記録に対し永続的環境効果を当てはめた。モデル1における推定遺伝率は、ランドレース種、大ヨークシャー種で0.12および0.11であった。モデル2における遺伝率は、ランドレース種、大ヨークシャー種の初産で0.21および0.18、2~8産ではいずれの品種も0.16と、モデル1よりも高い値が推定された。分析に用いた血統情報を用いてモンテ・カルロ法によるコンピュータシミュレーションを行った結果、モデル2を用いた場合、相加的遺伝分散が過大推定される可能性が示唆された。
 以上より、雌系純粋種豚であるランドレース種および大ヨークシャー種において、正常乳頭数を選抜指標とした生存産子数の改良は限定的であるが、一腹総産子体重の利用可能性が高いこと、および初産と2産以降を別形質とした遺伝的パラメーターの推定モデルを用いる場合、遺伝的パラメーターの推定値は過大推定されることが明らかとなった。本研究結果を用いることにより、ブタの雌系品種における生存産子数の改良をより効率的に推し進めることが可能であると考えられた。