第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

ジョイントシンポジウム

[JSY1] ジョイントシンポジウム1
(日本集中治療医学会・日本呼吸器学会) ARDS:病態からみた患者管理の組み立て方

2019年3月1日(金) 09:00 〜 10:30 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:讃井 將満(自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科・集中治療部), 田坂 定智(弘前大学呼吸器内科)

[JSY1-3] 肺傷害の指標:メカニカルパワー vs. ドライビングプレッシャー

竹内 宗之 (大阪母子医療センター 集中治療科)

ドライビングプレッシャー(DP)は、自発呼吸のない患者におけるプラトー圧とPEEPの差であり、一回換気量を呼吸器系コンプライアンスで除した数値でもある。DPが大きいほど死亡率が大きいことが2015年にAmatoらにより証明されており、肺傷害の指標としてすでに確立されたものであると言える。
では、同じ条件の肺に、全く同じDPの換気を行ったら、常に同じように肺傷害が起こるのだろうか?恐らく、そうではない。動物実験では、呼吸数や、吸気流量が肺傷害の発生に関与することが知られている。2016年にGattinoniらは、肺傷害の発生に重要なのは静的な力(≒圧)ではなく、肺に及ぼされる時間当たりの仕事量(メカニカルパワー:MP)だろうと提唱した。彼らは、人工呼吸器が発生する圧、換気量、流量から求められる1分間あたりの仕事量をMPと定義している。そのため、呼吸回数や、吸気流量が肺傷害の指標として含まれることになる。
一見、合理的に見えるMPという指標であるが、残念ながら、GattinoniらのMP仮説にはいくつかの解決すべき問題点がある。まず、胸郭コンプライアンスが考慮されていない点である。これはDPに関しても、同じく問題である。胸郭コンプライアンスが悪ければ、陽圧換気によって肺にもたらされる経肺圧や肺へのMPは、そうでない場合と比較すると小さい。胸郭コンプライアンスが異なる場合に、同じDPやMPが同じ肺傷害を起こすとは考えにくい。第2は肺の大きさが考慮されていない点である。機能的残気量が大きい肺と小さい肺では、同じMPであっても、肺への影響は異なるだろう。一方、DPは、strain(換気量/機能的残気量)に比例するとされており、肺の大きさも含んだ指標といえる。第3は、気道抵抗に消費される仕事量もMPの計算式に含まれる点である。人工呼吸器は、たしかに、気道抵抗を凌駕する仕事を行うが、それが肺胞に到達していないのは明らかである。もちろん、DPには、気道抵抗の成分は含まれない。第4は、一回の吸気の仕事量を1分間分積算する(= 呼吸数を乗じる)ことで、MPを計算している点である。たしかに人工呼吸器は吸気のみに仕事を行うが、肺にとっては、吸気にもたらされた仕事量は呼気に開放されているはずである。DPには時間の概念は含まれないが、MPに関しても、どのように時間の概念を含むべきか、わかっていないのである。
とはいえ、MPが肺傷害に関連するというのは、魅力的な説である。今後、この分野での研究の発展が望まれる。