第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

多臓器関連

[O135] 一般演題・口演135
多臓器関連

2019年3月3日(日) 08:45 〜 09:45 第10会場 (国立京都国際会館1F Room C-1)

座長:新井 正康(北里大学医学部附属新世紀医療開発センター・集中治療医学)

[O135-2] 心臓血管手術中の低容量換気は術後AKIの発症リスクを低下させる

東條 健太郎1, 水原 敬洋1,2, 後藤 隆久1 (1.横浜市立大学 大学院医学研究科 生体制御・麻酔科学, 2.横浜市立大学 次世代臨床研究センター)

【背景】Acute Kidney Injury(AKI)は心臓血管手術後の主要な合併症であり,腎機能を悪化させるのみならず,死亡率と関連することが知られている.いくつかの危険因子が報告されているが,簡単に修正可能なものはない.手術中の低容量換気は呼吸器合併症を減らすことが知られているが,同時に全身性炎症を軽減する可能性が示されており,呼吸器以外の遠隔臓器傷害にも利益をもたらす可能性がある.我々は,心臓血管手術中の低容量換気が術後AKI発症リスクを減らすか否かを検討するために,過去起点コホート研究を行った.
【方法】2009年1月から2017年3月までに当施設にてステントグラフト挿入術を除く心臓血管手術を受けた18歳以上の患者を対象とした.術中の1分毎の一回換気量(TV)を電子麻酔記録より抽出し,人工呼吸時間における予測体重(PBW)あたりの平均TVを算出した.また,背景因子,手術情報等の患者情報をカルテより抽出した.正確な尿量データが得られなかったため, AKIはKDIGOのクレアチニン値変化による基準で評価を行った.最初に平均TVが=<7,7-8,8-9,>9 mL/kg PBWの4群に分けた上で,AKI発症率を検討した.その後,平均TV=<7と>7mL/kg PBWの2群間のAKI発症率の比較を行った.この際,交絡因子の調整の為,プロペンシティスコアを利用した逆確率重み付け(IPTW)法を行った.
【結果】560人の対象患者のうち,340人が解析に含まれた.術中のTVが=<7,7-8,8-9,>9 ml/kg PBWの群でAKI発症率はそれぞれ12.5 [95% CI: 5.9-24.7],31.0 [23.7-39.4],38.1 [29.4-47.6],34.5 [23.6-47.3] %であり,平均TV=<7mL/kg PBWの群でAKI発症率が低かった.IPTW法の結果では,平均TVが=<7mL/kg PBW群では>7mL/kg PBW群と比較してAKI発症のオッズ比が0.14 [95% CI: 0.045-0.43, p = 0.0007]と有意に低かった.
【結論】心臓血管手術中の低容量換気は,呼吸器のみならず遠隔臓器である腎臓に対して保護的に働き, AKI発症率を低下させる可能性がある.