[O39-3] 骨盤骨折後に横紋筋融解症が遷延し集学的治療を施行するも救命困難であった1剖検例
【背景】 骨盤骨折では、特に高齢者において致死的となりうるが、その多くの場合は出血性ショックが原因と考えられる。今回我々は、交通外傷による骨盤骨折後に発症した遷延する横紋筋融解症に対して、血漿交換などの血液浄化療法を中心とした集学的治療を行なったにも関わらず死亡した症例を経験した。病理解剖を施行し、死因は腸管虚血に伴う腹膜炎であった。本症例は外傷による凝固障害に加え、高齢、心筋梗塞の既往があったことなどから、全身性に血栓が多発したものと考えた。通常の骨盤骨折による死亡とは異なる病因と考えられたため、報告する。【臨床経過】 80歳代 男性 既往歴は心筋梗塞。自転車乗車中に乗用車と接触して受傷し、他院搬送の後、受傷後約2時間で当院に転送となった。来院時バイタルサインは安定しており、明らかなショック徴候は認めなかった。当院での診断は骨盤骨折(右寛骨臼骨折)、肝損傷(外傷学会分類Ib)、左副腎損傷、多発肋骨骨折、第1-3腰椎横突起骨折であった(ISS 13)。前医で副腎および骨盤骨折からの血管外漏出像を指摘されており、来院より25分で経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)を開始した。TAEにて右内腸骨動脈および右上臀および下臀動脈に対して塞栓術を施行した。輸血療法とともに人工呼吸管理を開始した。受傷12時間後に右下肢の動脈触知不良、末梢冷感を認めた。CK値が来院時と比較して554から22001 U/Lまで上昇、、血管造影にて右膝関節以遠の造影不良域を認めたため、右下肢急性動脈閉塞と診断して、右大腿切断術を施行した。第2病日に腎機能の増悪および横紋筋融解症に対してHDF(血液濾過透析)を開始した。第3病日にからはSLED(持続低効率血液透析)およびPE(血漿交換療法)を併用した。しかしこれらの治療下でも無尿、低血圧、横紋筋融解症が遷延し、第8病日に死亡した。尚、経過中に外表面上の臀筋壊死の所見は認めなかった。病理解剖を施行したところ、左腸腰筋壊死と腸間膜動脈の塞栓所見と腸管壊死を認めた。死亡の原因は腸管壊死に伴う腹膜炎と診断した。【結論】 高齢者で基礎疾患に血管病変がある場合、骨盤骨折後の塞栓症により致死的になりうると考えられた。