第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

中毒

[O46] 一般演題・口演46
中毒04

2019年3月1日(金) 11:20 〜 12:10 第12会場 (国立京都国際会館5F Room 510)

座長:一二三 亨(財団法人聖路加国際病院救急部)

[O46-3] 製紙工場で発生した二酸化塩素ガス集団中毒事例の経験

堀越 佑一, 丹保 亜希仁, 川田 大輔, 小林 厚志, 小北 直宏, 藤田 智 (旭川医科大学病院救命救急センター)

【背景】二酸化塩素は塩素よりも強力な酸化力をもつ殺菌剤(酸化剤)として近年、プール、医療機器などの殺菌、消毒の他に、製紙工場においては白色度の高い紙を製造する際に漂白剤としても用いられている。今回、製紙工場で発生した二酸化塩素ガス集団中毒事例を経験したので報告する。
【概要】X年8月、製紙工場内の二酸化塩素の配管が破損し、漏出した液体二酸化塩素が気化し二酸化塩素ガスが発生した。作業中の工員14名が二酸化塩素ガスに暴露され集団中毒を起こした。ドクターカーで現場へ出動しトリアージを行った。その中で、配管の修復を行った20代の工員は高濃度二酸化塩素ガス暴露により意識レベル低下、呼吸苦が出現し、体動困難であり赤トリアージと判断し当院搬送した。来院時、JCS10、頻呼吸、低酸素血症を認め、両側肺野に湿性ラ音を聴取した。短時間作用型β2刺激薬反復吸入を行ったが数時間後に呼吸状態悪化し胸部X線上両側網状浸潤影、胸部単純CT上全肺野に散在するスリガラス陰影、粒状影、両側下肺野背側中心の浸潤影を認めた。PEEP15 mmHg下でPaO2/FIO2比118であり、二酸化塩素ガスによる化学性肺炎に伴う中等症ARDSの診断となった。気管挿管を行い人工呼吸管理、抗菌薬、ステロイドパルス療法、好中球エラスターゼ阻害薬を投与開始した。徐々に呼吸状態の改善を認め、第5病日に人工呼吸器を離脱した。リハビリテーション施行し、経過良好にて第9病日に退院となった。第13病日、CT上、スリガラス陰影、浸潤影は完全に消失していた。
【考察】二酸化塩素は揮発性が高く、生体内で水と反応した際に発生する活性酸素、塩酸によって強い粘膜刺激作用と中毒作用を持ち、集団中毒の原因となり得る。二酸化塩素による集団中毒の報告はまれであるが近年多方面で二酸化塩素の使用頻度が増しており、中毒発生を想定する必要がある。また、二酸化塩素による化学性肺炎の治療は対症療法が中心であるが、重症化を予測した厳密なモニタリングが不可欠である。