[P100-5] 気管切開孔を閉鎖するまでの患者の自己効力感に影響を与えた関わり
【はじめに】気管切開が行われた患者は、様々な行動において、これまでできていたことが他者に依存しないとできなくなるといったことを経験し、自己効力感が低下することがある。今回、気管切開孔を閉鎖する過程において、患者の自己効力感に影響を与えた看護介入について検討した。【事例紹介】特発性脊髄硬膜外血腫と診断された60歳代男性。突然の四肢の筋力低下と奇異性呼吸を認め、人工呼吸器管理となった。手術適応はなく、入院6日目に気管切開術が施行され、入院12日目に人工呼吸器を離脱した。リハビリテーションでは車椅子への移乗や嚥下訓練が行われ、上肢は数cm程度挙上できるようになった。また、口唇の動きでコミュニケーションをとり、患者は、「長くかかっても歩けるようになりたいな。」「1年後にどうなっているかはまだ想像できない。」と医療者に伝えていた。【看護の実際】リハビリテーションの実施状況に合わせ、看護師はこれまでにできるようになったことや、患者が努力したことを患者に伝えた。次第に患者は話せるようになりたいと医療者に伝えるようになり、看護師はスピーチタイプの気管切開チューブへの変更を行うことを目標にして、加湿の調整や排痰援助を行った。入院39日目にスピーチタイプの気管切開チューブへ変更したが、呼吸困難感が出現したため、スピーチバルブの使用は短時間しか行うことができなかった。看護師は患者に合わせたスピーチバルブの使用を提案し、その後は段階的に使用時間を延長することができた。入院41日目には経口摂取のみで栄養管理が行えるようになり、上肢の運動機能の改善からは自立して食事を摂取できるようになり、患者は気管切開チューブの抜去について前向きに話すようになった。看護師は、嚥下機能や痰の喀出や発声の状態から気管切開孔を閉鎖できる可能性を考え、医師と気管切開チューブの抜去について検討し、入院60日目に気管切開孔を閉鎖して、合併症の発生なく経過することができた。【考察】患者の自己効力感は、人工呼吸器を離脱した時期は低い状態にあった。嚥下機能や上肢の運動機能の回復、スピーチバルブ使用による言語的なコミュニケーションを取れるようになったという成功体験や、看護師が患者の行動や努力を評価する言語的説得、患者の身体・精神的状態に合わせた実践により、患者の自己効力感を高めることができたと考える。