[P40-2] 右肺部分切除術後に喘鳴を伴う特発性食道破裂を発症した1例
【背景】特発性食道破裂(Boerhaave症候群)は、適切な診断と治療が行われないと致死的となる稀な急性疾患である。症状に激しい胸痛や腹痛、嘔吐が知られているが、時として症状が非特異的なことから診断の遅れに繋がり予後不良となる。今回我々は胸腔鏡下右上葉部分切除後に喘鳴を伴う特発性食道破裂を発症した1例を経験した。【臨床経過】76歳男性。喘息の既往はない。1年前に左肺癌で左上葉切除術後、右肺へ再発が見つかり胸腔鏡補助下右上葉部分切除術が予定された。手術は問題なく終了し、ICUへ入室した。入室時、両大腿に紅斑と膨疹を認め、徐々に全身性地図状に拡大し掻痒感を認めた。抗ヒスタミン薬を静注し症状は改善したが、怒責が続き夜間に喘鳴を認めSpO2が90%(O2 4L/min投与下)まで低下し、ネーザルハイフロー(酸素濃度80% 30L/min)を開始した。POD1の胸部レントゲンにて左気胸・左胸水を認め左肺尖部にドレーンを留置した。ドレーンから暗赤色の胸水250mLと空気が排出されたが、喘鳴とSpO2低値は続いた。POD2以降も喘鳴に対して、サルブタモール吸入・抗ヒスタミン薬静注・ヒドロコルチゾン点滴で対症療法を行ったが大きな改善を認めなかった。POD3の胸部レントゲンで左胸水の残存を認めたため、左横隔膜上にもドレーンを留置した。喘鳴は続いたが呼吸困難感は軽減しSpO2の改善が認められたため経口摂取が開始された。左胸水からグラム陽性球菌・グラム陰性桿菌が検出され、左膿胸と診断し、抗生剤加療が開始された。POD4に左横隔膜上ドレーンから食物残渣の排出を認めた。食道穿孔を疑い透視下食道造影を行ったところ、下部食道から左胸腔へ造影剤の漏出を認め、特発性食道破裂の診断に至った。右肺上葉部分切除術直後であり早急な外科的治療が困難であることに加え、ドレナージと抗生剤による治療効果を認めていたことから保存的治療の方針とし、絶飲食のもと中心静脈栄養および左胸腔ドレナージ・洗浄が開始された。POD6に右胸腔ドレーンを抜去、POD7に左肺尖部ドレーンを抜去した。リハビリを進め、全身状態と共に喘鳴は徐々に改善し、POD10にICU退室した。【結論】本症例では典型的な腹痛、胸痛、嘔吐などの症状を伴わず肺切除術後だったこともあり診断に難渋した。また特発性食道破裂が難治性喘鳴の発症に関与した可能性がある。