[P76-2] 呼吸管理に難渋した粘液水腫性昏睡の一例
【背景】粘液水腫性昏睡は,甲状腺機能低下症が基礎にあり,重度で長期にわたる甲状腺ホルモンの欠乏に起因し,低体温,呼吸不全,循環不全および中枢神経系の機能障害をきたす病態である.その頻度は年間100万人当たり1.08人程度と報告され稀である.今回我々は,呼吸管理に難渋した粘液水腫性昏睡を経験したため報告する.【症例】病院受診歴のない65歳女性.意識障害と呼吸困難を主訴に当院に救急搬送された.来院時の意識レベルはGCS E2V4M5であり,血液ガス検査で呼吸性アシドーシスを認めた. CO2ナルコーシスの診断で緊急気管挿管を行いICU入室となった. BMI 31.6の高度肥満で,非圧痕性浮腫,眼瞼浮腫,眉毛外側脱落等の甲状腺機能低下を疑う身体所見を認め,TSH 147.9 μIU/ml, T4 0.10 ng/dl, T3 0.26 pg/ml未満と甲状腺機能低下を認めた.意識障害・高炭酸ガス血症・循環不全と合わせて粘液水腫性昏睡と診断し,第1病日よりヒドロコルチゾン・チラージン・チロナミンの補充を開始した.その後意識障害は改善したが,呼吸不全が遷延した.第2病日の造影CTでは左下葉と右下葉の一部に無気肺を認めたが,陰影の程度に比して呼吸不全が重篤であり,粘液水腫性昏睡や肥満による低換気症候群,無気肺が呼吸不全の主体と考えられた.High PEEPによる管理のみでは呼吸状態の改善に乏しく,腹臥位療法を行いながら甲状腺ホルモンの補充を継続したところ,第2病日には50代から70前後であったがそれ以降はP/F ratio100台を推移しながら徐々に呼吸状態の改善を認め,腹臥位療法を終了し第10病日に抜管となった.甲状腺ホルモン薬の調整とリハビリを継続し,第25病日に自宅退院となった.【考察】粘液水腫性昏睡における呼吸不全は換気ドライブの抑制や呼吸筋筋力低下による2型呼吸不全が多い.甲状腺ホルモンの補充で徐々に改善が見込まれるが,それまでの呼吸管理に苦慮することも多く,肥満合併例では特に呼吸管理に難渋することが報告されている.本症例でも呼吸管理に苦慮したが,腹臥位療法の導入をしつつ甲状腺ホルモンの補充を継続することでECMOを回避しつつ救命することができた.腹臥位療法はARDS患者を対象とした研究においても特に肥満患者で有効性が高いことが報告されており,今回の症例でも有効であったと考えられた.粘液水腫性昏睡の高度肥満に対する呼吸管理について,文献的な考察を踏まえて報告する.