第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(ポスター発表)

内分泌・代謝

[P76] 一般演題・ポスター76
内分泌・代謝01

Sat. Mar 2, 2019 2:00 PM - 3:00 PM ポスター会場14 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:小北 直宏(旭川医科大学病院 集中治療部)

[P76-5] Sodium glucose transporter 2阻害薬を十分に休薬せずに経鼻的下垂体腫瘍摘出術を施行した一例

大清水 みお, 内本 一宏, 野島 優佳, 後藤 美咲, 早川 翔, 浅見 優, 刈谷 隆之, 大塚 将秀 (横浜市立大学附属市民総合医療センター)

[背景]Sodium glucose transporter(SGLT)2阻害薬は近年国内で販売が開始された新しい糖尿病治療薬であるが,周術期に過剰な浸透圧利尿やケトアシドーシスをきたす可能性が指摘されている.SGLT2阻害薬による浸透圧利尿はその他の多尿をきたす病態との鑑別を困難にする.今回,下垂体手術後にSGLT2阻害薬による浸透圧利尿と尿崩症との鑑別が困難で,術後管理に難渋した一例を経験したので報告する.[症例]33歳女性,身長170cm体重71kg.診断:先端巨大症.既往歴:高血圧症,糖尿病,咳喘息,甲状腺腫,常用薬:アムロジピン,メトホルミン,インスリングラルギン,エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬).維持薬:Desflurane+Remifentanil,術式:経鼻的下垂体腫瘍摘出術.麻酔時間:3時間29分,手術時間:2時間5分,術中in 1400mL/ 尿量240mL.[術後経過]自然気道でICUに入室した.入室時,軽度の代謝性アシドーシス,尿糖+,尿ケトン+,尿比重1.016.入室後500mL/時以上の多尿を認めた.電解質異常はなく尿糖による浸透圧利尿と考えて細胞外液の負荷を行った.翌朝までの尿量は約5800mLで,多量の細胞外液負荷が必要であった.入室後,尿ケトン陽性が遷延したため,糖負荷およびインスリン持続投与を行った.翌朝までに代謝性アシドーシスは改善し尿ケトンは陰性化した.術後1日目にICUから一般病棟に退室したが,尿糖陽性は遷延し一日尿量は約1500mL程度で経過した.他の合併症はなく,術後9日目に退院した.[考察]SGLT2阻害薬は,腎臓の近位尿細管に発現するSGLT2を阻害することで腎での糖の再吸収を抑制する.糖尿病患者の心血管系合併症や腎機能障害に対しても有効とされ,内服している患者は増加しているが,休薬後も尿糖陽性が遷延するため注意が必要である.本症例では,SGLT2阻害薬の術前休薬が十分でなく,術後に著しい多尿をきたした.尿崩症による水利尿と尿糖による浸透圧利尿の鑑別が困難であったが,血清電解質を参考に水分管理を行った.血清ブドウ糖の尿中排泄によるケトーシスおよびアシドーシスを生じたが,糖負荷とインスリン投与で改善することができた.[結語] SGLT2阻害薬による浸透圧利尿と代謝異常を認めた症例を経験した.下垂体の手術後で,SGLT2阻害薬に伴う浸透圧利尿と尿崩症との鑑別が必要であった.SGLT2阻害薬は周術期に浸透圧利尿,ケトアシドーシスをきたす危険性があり,術前に十分な休薬期間を設けることが推奨される.