[P80-5] 気管挿管中に強い口渇感を訴えた2症例とその要因に関する文献検討
【背景】口渇はICU患者の最もストレスフルな体験の一つである(Dessote CA, et al. 2016)にも関わらず、医療者から過小評価されることも多い(So M & Chan DS. 2004)。【目的】本検討では、口渇の訴えの強かった2症例を取り上げ、文献検討のうえ看護を考察する。【症例】症例1: 70歳代男性、呼吸困難を主訴に救急外来を受診 (入院時NYHA分類IV度)、拡張型心筋症による心不全と診断され、気管挿管の上、強心薬とフロセミドが使用された(APACHEII 17)。第2病日より強い口渇感(NRS 7-9)を訴え、第4病日に抜管、同日飲水開始となり口渇感は改善した。気管挿管中はフェンタニルが使用された。症例2: 80歳代女性、胸痛を主訴に来院、緊急心臓カテーテル検査が行われた。急性心不全(CS 4)に伴う呼吸不全のため気管挿管、フロセミドが投与された(APACHEII 34)。気管挿管中の第3病日より強い口渇感を連日訴えた。第8病日に状態が悪化し深鎮静管理となり、口渇の評価は不可能となった。気管挿管中はフェンタニルが使用された。【文献検討】2例とも高齢で、強い口渇を継続して訴えていた。口渇の独立したリスク因子として、フェンタニルの使用、フロセミドの使用が示されている(Stotts NA, et al. 2015)。また、心不全の重症度と口渇の程度に正の相関があることも報告されている(Wardreus N and Hahn RG. 2013)。本2症例では、この利尿薬の使用は口渇に影響を与え、また原疾患である心不全それ自体も口渇の原因になった可能性がある。さらに、経口摂取が不可能な状況の中で、フェンタニルを使用していたことは口渇に影響していると考えられた。気管挿管中に生じる口渇への確立された介入は明らかではないが、含嗽や、水を含ませたガーゼを口腔内に入れることが一般的に行われており、経験的には一時的に改善する印象もある。近年、冷水を使用したスワブとスプレー、メンソールを用いることで、口渇感が和らぐという報告(Punyillo K, et al. 2014)もあり、今後研究に裏付けられた方法を導入することも課題である。【結論】口渇を強く訴える気管挿管患者2名を経験した。文献検討により、気管挿管中の口渇はフロセミドやフェンタニルの使用、加えて心不全の重症度が関与する。これらのハイリスク群では特に口渇緩和プログラムを作成する必要がある。