[P86-4] ネーザルハイフローが有用であった高齢者のMRSA肺膿瘍の一例
【背景】ネーザルハイフローは近年注目される高流量酸素供給が可能なデバイスであり,非侵襲的陽圧換気(NPPV)と比較して酸素化の改善は劣っておらず,加湿に優れるため線毛機能が維持され,排痰しやすいメリットがある.誤嚥を来しやすい高齢者や気管内挿管を希望しない重症肺炎や肺膿瘍による呼吸不全でネーザルハイフローが有用であった症例を経験したため報告する.【臨床経過】症例は83歳独居の女性.X-3日に全身倦怠感,食思不振,咳嗽が出現し近医受診するも改善なく,呼吸困難のため救急搬送となった.非呼吸式リザーバーマスク10 L/min投与下でSpO2 78 %の急性一型呼吸不全を認め,胸部CTで右上葉から右下葉にかけて空洞を伴う広範囲な浸潤影,右主気管支から右底幹内腔に粘液栓を認めた.酸素化が保たれず,緊急気管支鏡検査を施行し,気管支内腔から多量の膿粘性分泌物を回収した.気管内挿管は希望されず,非侵襲的陽圧換気(NPPV)をFiO2 1.0で開始したが,SpO2 85 %前後で推移し,喀痰量が多いことから継続的な使用が困難であったため,ネーザルハイフロー(流量 30 L/min,FiO2 0.9)へ変更した.粘液栓による無気肺増悪を数回繰り返したことから気管支鏡下で気道分泌物の吸引を施行していたが,ネーザルハイフロー使用下では概ね酸素化を保ちつつ施行することが可能であった.血液培養は陰性であったが,採取された喀痰よりStaphylococcus aureus(MRSA)が検出され,MRSA肺膿瘍と臨床的に診断し,バンコマイシンによる抗菌薬加療を6週間行った.抗菌薬加療中,嚥下機能障害のため絶食,中心静脈栄養管理となったが,酸素化改善後もネーザルハイフローによる加温加湿効果を利用することで,口腔内乾燥を防ぎ,かつ気道クリアランスの改善により自己での喀痰喀出が可能となった.右肺浸潤影は改善を認め,抗菌薬加療終了後も増悪ないことから退院となった.【結論】人工呼吸管理を希望しない高齢者の肺炎・肺膿瘍においてネーザルハイフローが有用であった症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.