[P9-5] 重症水痘・帯状疱疹ウイルス血管症の一例
【背景】水痘・帯状疱疹ウイルス血管症(Varicella Zoster Virus(VZV) Vasculopathy)は、VZVの初感染や再活性化を契機に生じる血管炎に起因する稀な疾患であり、中枢神経系感染症の鑑別に挙がる。【臨床経過】33歳女性。来院2日前と前日に難聴を主訴に近医を受診した。帰宅後、意識障害を来したため当院に救急搬送された。来院時のGCSは9(E2V2M5)、全身チアノーゼとショック徴候を認め、頭部に水疱が散見され左上下肢の麻痺がみられた。血液検査では炎症反応の上昇を認めたが原因は同定できず、感染部位不明の敗血症性ショックとして人工呼吸器管理を開始した。ICU入室後、強直間代性の全身性痙攣を認め、治療抵抗性のためバルビツレート療法を行った。髄液検査では細胞数や蛋白量は正常であったが、経過から中枢神経系感染症を疑い、経験的治療としてVCMとMEPM投与を開始し、ヘルペス脳炎も想定してAciclovir(ACV)を追加した。第4病日の頭部MRIでは拡散強調およびT2強調、FLAIR画像で両側海馬や脳梁、脳幹、小脳など、白質優位に散在する高信号域を認めた。炎症反応は低下傾向にあり、入院時の細菌培養検査はすべて陰性かつ各種ウイルス自己抗体検査も既感染を示すのみであり、単純ヘルペスウイルスPCRも陰性であったため、第7病日にVCMとMEPMを、第11病日にACVを中止した。しかし、入院後に再検した髄液検査でVZV-IgG抗体陽性と判明し、臨床症状や頭部MRIの所見からVZV Vasculopathyと診断し、第22病日よりACVを再開した。また、同日に横行結腸穿孔のため再度ショック状態に陥り、人工肛門造設術を行った。術後は徐々に意識レベルは改善傾向となり、第33病日に人工呼吸器を離脱、第38病日にICUを退室した。フォローアップの頭部MRIでは散在していた白質病変は消退していた。その後慢性炎症や、低栄養、低アルブミン血症が遷延し、難治性胸水・腹水による呼吸・循環不全のためICU入退室を繰り返した。最終的に意識レベルはGCSで15まで改善し、精神的退行や色覚異常を認めたものの経口摂取が可能となり、第192病日に転院となった。【結論】本症例では疾患の稀少性と重篤な合併症から診断・治療に難渋したが、診断には髄液抗体検査が有用であった。早期診断・治療のためには、水疱と神経症状を伴う意識障害を認めた場合はヘルペス脳炎と同時にVZV Vasculopathyを疑い、早期に髄液抗体検査を行うとともに経験的治療を開始する必要がある。