[EL8-1] 定量的磁化率マッピング(Quantitative Susceptibility Mapping)
磁化率(χ)はMRIにおける基礎的な物性値で、静磁場内に置かれた物体の磁化の強さMと静磁場の強さHの比である(M=χH)。物質に固有の値である磁化率を知ることで、組織中の分子情報や化学組成などを得ることが可能である。磁化率の違いは共鳴周波数やスピンの位相変化として観察されるが、位相の値から磁化率を算出するのは逆問題であるために特殊な解法が必要となり、定量的磁化率マッピング(quantitative susceptibility mapping、QSM)と総称される。MRIの位相画像は磁化率強調画像(susceptibility weighted imaging、SWI)として臨床応用されているが、SWIの信号強度は位相値のべき乗と強度値から成り立っており、位相値自体も組織の形態や立体配置、方向性に依存するために定量的評価は不可能である。それに対してQSMではそれらの影響が排除されており、ボクセル単位での磁化率を定量的に扱うことが可能となる。ただし、磁化率はベクトルではなくテンソルであるために組織の微細構造や方向性、磁化率の異方性が関与し、化学交換にも影響される点に注意が必要である。脳組織中の磁化率変化の要因となる主な物質は、組織鉄、脱酸素化ヘモグロビン、ミエリンなどである。そのため、QSMの臨床応用として、石灰化と出血の判別、組織鉄の定量評価、組織の酸素化の定量評価、微細な神経解剖の描出などが研究されている。将来的な課題としては、解析アルゴリズムの改良、ミエリンと鉄の区別、組織鉄の判別などが挙げられている。さらに、QSMで解析される磁化率は静磁場強度や解析アルゴリズムに依存するため、何らかの標準化も必要とされる。