第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P2] 神経系(上肢)

[P2-06] 寝返り動作で上肢を忘れてしまう脳卒中左片麻痺症例
-上肢の空間情報の構築に向けて-

*小飯塚 理子1、岡本 浩一1,2 (1. 新潟脳外科病院、2. 新潟歩行リハビリ研究センター)

【はじめに】
今回,寝返り動作時に麻痺側上肢管理が不十分で肩の痛みを訴えた脳卒中左片麻痺症例に対して,特に有効だった視覚情報と体性感覚情報(手掌面の触覚情報)を用いた肩関節の空間情報の構築介入に関して報告する. 

【症例紹介】
症例は心原性脳塞栓症により左片麻痺を呈し1ヶ月経過した60歳代女性である.自宅退院を目的に回復期病棟へ転棟した.

【評価】
上肢機能はFugl–Meyer Assessmentの運動項目は2/66点,屈筋反射のみで,重度の弛緩性麻痺を認めた.感覚項目は6/12点で特に関節位置覚の低下を認めた. personal neglect testではスコア1で,軽度の半側無視を認めた.触覚は上腕7/10,前腕7/10,手掌面8/10で,末梢部は比較的知覚しやすかった.上肢(肩関節)の評価では,運動の距離・空間性の低下を認めたが,視覚を用いることで正答率が向上した.注意機能はTMT–J(A)は54秒,(B)は117秒で年齢平均と比較し時間を要した.非麻痺側への寝返りでは,動作開始前に右上肢で左上肢を腹部まで運ぶが,体幹回旋時に左肩甲帯の追従を認めず,左上肢は後方に位置した.肩の痛みはVASで10/10と最大値を訴えた.

【病態仮説】
本症例の麻痺側上肢管理が不十分である要因は,評価結果から肩関節の空間情報と注意機能の低下を認め,これらが身体に対する無視症状を生じさせていると推察された.介入では麻痺側上肢管理が行えることを目標に,視覚情報と体性感覚情報を用いて介入計画を行った.

【介入と結果】
介入として肩関節を他動的に屈伸させながら手掌面へ接触課題を行った.手掌面に視線と注意を促すことによって肩関節の運動方向・距離・連続性の回答が可能となり,麻痺側手部の位置の認識が向上した.5日間の介入で,寝返り動作での体幹回旋時に左肩甲帯の追従を認め,動作開始から終了まで麻痺側上肢管理が可能となった.personal neglect testではスコアが0と改善,肩の痛みはVASで4/10へ軽減した.

【考察】
本症例の残存する視覚情報と手掌面の触覚情報を活用することで,肩関節の空間情報の構築が促進され,自己身体の手部の認識が向上したことで麻痺側上肢管理が可能となったと考えられる.

【倫理的配慮】
症例とその家族に対して本発表の目的を説明し,書面にて同意を得た.