第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P3] 神経系(下肢・体幹)

[P3-19] 身体の準備ができないまま歩行を開始することがすくみ足の発生に影響したパーキンソン病の一症例

*吉本 光哉1、青木 良磨1、三上 恭平1、加茂 力1 (1. 登戸内科・脳神経クリニック)

【はじめに】
 身体の準備ができないまま歩行を開始し、すくみ足(FOG)が生じるパーキンソン病(PD)患者に対し、骨盤の向きから進行方向を想起する課題を行い一定の効果を得た。以下に報告する。

【症例紹介】
 症例は70歳代女性、Hohen-Yahr分類stageⅢのPD患者である。前頭葉機能検査は15点でGo/No-Go項目で減点していた。ON時のFOGがあり、Freezing of Gait Questionnaire(FOG-Q)は10点だった。歩行開始時に上部体幹は進行方向を向くが、骨盤は向いておらず、他者の動作の観察でも進行方向と骨盤の向きの関係性について注意が向きにくかった。一方で足部の向きには注意が向きやすかった。

【病態解釈】
 本症例は意図した進行方向に対して骨盤の向きが準備できていない状態でも歩行を開始しようとすることを抑制できず、FOGが生じているのではないかと考えた。また抑制機能の低下は前頭葉機能検査の結果からも疑われた。そこで意図した進行方向に対して骨盤を合わせるのではなく、骨盤の向きから進行方向を想起することで、骨盤の向きへ注意を向きやすくなると推定した。その事で歩行開始前に意図した進行方向に骨盤の向きが一致していないことへ気づき、歩行開始の準備に必要な抑制が可能となるのではないかと考えた。

【介入と結果】
 歩行開始前の進行方向に対する骨盤の向きへの注意向上を目的に、足底に挿入した厚さ約5㎜の長方形の絨毯の向きに骨盤の向きに合わせて起立し、その向きから想起した進行方向を問う課題を実施した。課題を行う中で「腰を向けた方が足を出しやすい」と認識に変化があり、歩行開始時に骨盤を進行方向に向ける様子がみられた。歩行開始時のFOGは頻度が減少しFOG-Qは7点に改善した。

【考察】
 今回の課題により歩行開始時のFOGの頻度は減少した。歩行開始までのプロセスには意図から運動プログラムの生成、それに基づく姿勢の調節がある。本症例は課題を通じて意図した進行方向に対し、骨盤の向きを合わせるという準備が整うまで歩行開始を抑制することが可能になり、歩行開始時のFOGを軽減できたと考える。本症例のように歩行開始の準備ができずに生じるFOGに対し、骨盤の向きから進行方向を想起する課題は有効な可能性がある。

【倫理的配慮】
 発表に際し本症例に文書にて同意を得た。