第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P4] 高次脳機能障害

[P4-02] 言語機能に着目した介入により論理的記憶の改善を認めた一例

*藤原 瑶平1、寺田 萌1、市村 幸盛1 (1. 医療法人穂翔会 村田病院)

【はじめに】
 WMS-Rに含まれる論理的記憶課題は,短い話を聞かせ即時再生を求める課題で,様々な認知過程を含んでいる(Kintsch,1999).今回,論理的記憶の低下を認めた症例に対し,言語機能に着目し介入した結果,改善を得たため報告する.

【症例】
 右視床出血を発症後,約1年半が経過した40歳代の右利き女性.外来リハビリを週2回継続している.神経学的所見は認めない.記憶機能はWMS-Rの論理的記憶課題が粗点2/50点で,「浮かんでいるけど言葉にできない」と訴え静止したが,単語での表出を促すと一部想起を認めた.フリートークでは発話量は少ないが流暢で,語想起の困難さは認めなかった.言語機能について,構文検査では,聴理解・読解・産出課題の全てで減点があり,文理解能力の低下を認めた.その際,名詞や動詞のみに注意が向きやすく,助詞の理解が困難で,産出時には助詞の脱落や誤用に気づくも修正は困難であった.復唱は可能であった.生活場面では言われたことをすぐに忘れる,言いたいことがうまく言えず静止する等,適宜声掛けによる介助を要した.

【病態解釈】
 助詞選択能力と文理解能力で相関があるとされている(小嶋ら,1995).本症例の文理解能力の低下も助詞の理解が困難で,名詞や動詞のみに注意が向いてしまうことが要因であり,そのため論理的記憶課題での低下を示し,生活場面にも影響していると考えた.

【介入】
 文理解の改善において,助詞選択課題から開始した.次にマッピング訓練(藤田,1996)を参考に,文を提示し,文中の動詞や動作主,対象を同定させながら文理解を促した.段階付けとして文節数を増加させた.介入期間は4ヶ月とした.

【結果】
 論理的記憶課題は粗点16/50点と改善し,流暢に言語表出が可能で,遅延再生時に一部内容の想起を認めた.構文検査は産出課題で一部エラーが残存した.生活場面では発話量の増加や言われたことを記憶し行動できる場面を認め,介助量の軽減に至った.

【考察】
 Sasanumaら(1990)は失文法症例の検討から,助詞の産出障害,文脈把握等は右半球と関係があるとし,本症例も右半球損傷で失文法が生じていたと推察された.そのため,助詞を中心とした文理解能力の改善を目的に介入したことで論理的記憶の改善に繋がり,生活場面への汎化も認めたと考えた.

【倫理的配慮】
 発表に関し本人に口頭で説明,同意を得た.