第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P4] 高次脳機能障害

[P4-04] 金銭管理や買い物における金額の理解および表出に困難さを認めた失語症症例

*井島 梨緒1、玉木 義規1、岸上 真樹1、稲川 良2、日下部 洋平3、本田 慎一郎4 (1. 甲南病院、2. 水戸メディカルカレッジ、3. 豊郷病院、4. リハ塾SHIN)

【はじめに】
 金額の理解が困難な感覚性失語症患者に対して,金額カードと馴染みのある商品の視覚的情報を頼りに金額を予測させたところ混乱が軽減した介入経験を報告する.

【症例】
 くも膜下出血を発症した50歳代女性.日常生活動作は自立し,会話も概ね可能だが,喚語困難は重度で感情失禁が酷く評価は限られた.MOCA-Jは8/30点,Kohs立方体組み合わせテストは粗点63点でIQ82.3点,SLTAは口頭命令に従う,仮名の理解,呼称,動作説明,語の列挙,音読,書字命令に従う,書字や書取,計算で正答率が20%以下であった.発症14ヶ月目に,夫から「1人で会計はできない」,「金額を尋ねると額を誤る」と相談を受けた.数は,基数性と序数性とも概ね理解しており,視覚的に金額を提示して小銭を選択する課題は可能であったが,聴覚的に金額を提示する課題ではエラーと聴き直しが目立った.

【病態解釈・訓練仮説】
 金額の言い誤りや小銭の選択を誤る背景には,言語の聴覚的理解や把持力の障害があると考えた.認知理論に基づく言語の訓練では,対話において情報伝達行為を成功させるために,話し手は「既知」と「未知」の要素を聞き手の中枢神経系にとって最適なレベルで配合することが必要とされている(Perfetti,2018).金額カードや馴染みのある商品カードを既知情報として導入し,未知情報と既知情報を配合した課題を作る方針とした.

【訓練と結果】
 同じ数字を含む異なる3桁の金額を書いた2枚の紙を2セット計4枚提示し,読み上げた金額を選択する評価的訓練を以下3条件で実施した.①商品の写真なしでランダムな金額,②写真ありでその商品に該当する金額,③写真ありでランダムな金額をそれぞれ読み上げた.写真は本人にとって馴染みのあるものを用いた.結果は①の聴き直しは全4試行中6回,②の聴き直しは全4試行中1回,③の聴き直しは全4試行中4回であり,②が最も良好であった.②と③の条件では,大半は「聴き直しは要らない」,「写真はほしい」と記述した.写真を見せた訓練を2ヶ月継続した後,1人で会計が可能となった.

【考察】
 数の概念や視覚的理解が保たれた本症例において,過去の経験や価値を交えた馴染みのある写真を既知の視覚的情報として加えることで,未知の聴覚的情報の予測や学習を促す訓練が検討できると考えた.

【倫理的配慮】
 本人と家族に口頭で説明し同意を得た.